巨根のラガーマンに寝取られた妻

第一章
私 42歳 大学の教務課勤務 身長約170センチ 体重62キロ 趣味 釣り お酒

妻41歳 介護職員 身長168センチ 体重55キロ 趣味 料理

子宝に恵まれぬまま結婚20年目を迎えた夫婦です。

夫婦仲は、世間一般の感覚に照らし合わせても、「普通」と言えるのではないでしょうか。

結婚記念日や誕生日には人並みのお祝いはしますし、お互いの仕事の話が中心とはいえ会話もそこそこあるほうだと思います。

ただ、夫婦生活については、お互い仕事の立場が中堅で多忙になってきたこともあり、二十代、三十代の頃に比べれば、激減とは言わないまでも確実に減っているのは確かです。

そうは言っても、知人友人の話を聞く限り、格別セックスレスという自覚は、少なくとも私自身にはありませんでした。

要するに、特別仲がよいわけでも悪いわけでもない、世間並みの夫婦生活だと思っていました。

私の想像の斜め上を行く、あんなことがあるまでは。

第二章
話は、私が勤務先の大学の学生との新歓コンパに参加したところから始まります。

副顧問を務めるラグビー部で、顧問の教授が学会で参加できなくなったため、引率役として一次会のみ付き合うよう頼まれたのです。

毎年のこととはいえ、憂鬱な気分でした。

副顧問という肩書きはあるものの、私自身ラグビーの経験は全くありません。

それどころか小中高大と通して、体育会系のサークルや部活に所属したことさえありませんでした。

なぜ、そんな私が副顧問にと思われる方もいるかもしれません。

でも、それは私の勤める地方の国立大学では決して珍しいことではありませんでした。

もちろん、すべての国公立大学がそうではなかったかもしれませんが、少なくとも私の勤務先では、体育会系の学友部といえ、基本的に部の運営は学生が担うというのが基本理念であり、副顧問の私はもちろん、顧問を勤める教授でさえ、試合に同行したことさえないというのが当たり前でした。

しかし、そうはいっても、僅かとはいえ顧問としての手当てを支給されている以上、一応の監督責任は果たすべきと考えたのか、年度初めの新歓コンパと、年度末の追い出しコンパの一次会だけは、顧問、副顧問のいずれかが顔を出すのが慣例となっていました。

私自身酒が嫌いではないこともあって、年に数回、若者たちと酒席を共にすること自体を否定していたわけではありません。

それでも毎度憂鬱な気分にしかならない原因は私の身体的コンプレックスにあります。

プロフィールで紹介したとおり、私の体格は近年成長を続ける日本人の平均からみれば、小柄な部類に入ります。

しかも、格別運動能力に優れたわけではなかった私にとって、地方の大学とはいえ、それなりの経験と屈強な肉体を持つラガーマン達に囲まれての酒席は苦痛以外のなにものでもなかったのです。

その日も、会場の居酒屋までの道のりは、例年同様、長く苦痛に満ちたものでした。

やっとのことで暖簾をくぐり、店員に案内されて個室に通されたのは開始時間から10分遅れてのことだったと思います。

引き戸の向こうから聞こえる若者たちの嬌声に、私はうんざりした表情をかくそうともせず入室しました。

ほとんどの学生は私に気付くことも無く、赤ら顔で安酒をあおっています。

入り口に一番近い席に座っていた幹事と思しき学生が私の姿を認め、一応空いていた上座に誘導してくれなければ、私は踵を返していたかもしれません。

「教務、ご苦労様です。こちらへどうぞ」

言葉とは裏腹な、面倒くさそうなそぶりを隠しもせずに案内された席に腰を下ろすと、左隣の一際体格のいい学生の姿に目を奪われました。

「こんばんは、お疲れ様です」

まだ座っていない私と、座ったまま視線が重なるほどの体躯の彼は、正座したまま深々と頭を下げ私の席の座布団の位置を整えました。

「ありがとう」

座った後、彼の体を見上げます。

すごい体です。

そして、その巨漢と、彼の柔和な表情に見覚えがあることを思い出しました。

「あれ、君は確か」

「その節はお世話になりました」

「確か、田中君、だよね」

奨学金の相談につきっきりで乗ってあげたことがあって以前から顔見知りでした。

身長195センチ、体重110キロ、体格だけなら代表クラスの田中君でした。

知り合った当時から、そのいかつい見た目とは裏腹に、打っても響かないというか、説明に対する反応が鈍く、とにかく「この子大丈夫かな」という印象でした。

私自身、取り立てて仕事熱心なわけではないのですが、その時はなんとなく放って置けなくなり、結局申請書類のほとんどを私が記入したのを覚えています。

その晩の酒席で右隣にいた先輩部員によると、彼は性格がおとなしく、決して身体能力が低いわけではないのだが、試合になると、萎縮してしまい活躍できずにいるとのことです。

まぁ、そうだろうなというのが私の印象でした。

共通の話題があるわけでもなく、会話が盛り上がったわけではなかったのですが、今年のワールドカップのこと等、適当な世間話に相槌を打つうちに時間は過ぎ、お開きの時間となりました。

最低限の仕事は済ましたと思った私は、二次会の行き先で盛り上がる学生たちを尻目に席を立ち、暖簾をくぐり階段を下りました。

表通りに出て、タクシーを呼び止めようとする私を背後から呼び止める声に気づき、振り向くと、先ほどまで右隣に座っていた巨漢の学生が一人で所在なさげに立っていました。

「田中君。どうした」

「西村さん、もう一軒、付き合ってもらえませんか」

正直、八割方、帰りたい気持ちでした。

しかし、彼の切迫した表情を見て、なにか捨てて置けないと思ったのか、若者の悩みに付き合うのも教育機関に勤める自分の使命だと感じたのか

「一軒だけだぞ」

右手を下ろして、彼に微笑んだのです。

第三章
二次会の場所は、私がたまに使うショットバーに移っていました。

ジャズの流れる店内で、カウンターの止まり木に二人並んだ私たち意外に客はいませんでした。

予想とおりというか、その場で彼に悩みを打ち明けられました。

悩みというのは彼女とのことでした。

彼の独白を聞いた私の第一印象は「あほらし」でした。

彼女との出会いがいかに素晴らしいものだったか。

その後の付き合いに、どれだけ胸を躍らせたか。

予想はしていたとはいえ、あまりに予想通りの内容に、欠伸を噛み殺すのが精一杯でした。

のろけるならこんな中年のおっさん相手でなく他でやってくれ、そう思い早々と席を立とうとしました。

話の結末が見えたような気がしたからです。

誕生日のプレゼントがブランド物じゃないのが気に入らないだの、好きな音楽が合わないだの、くだらない痴話話を聞くほど俺も暇じゃないんだよ。

そう思っていた私の意識が少し変わったのは、彼の話が少し予想外の方向に傾き始めたからです。

それは、不和の原因が、彼女とのセックスが上手くいかないということだったからです。

中年親父の悲しい性で、話題がセックスとなった途端、食いついてしまいました。

不謹慎だとは思いつつ、詳細を尋ねたのですが、その頃から酔いもあったのか彼の独白は要領を得なくなり、結局、彼の悩みの核心には至らぬまま、しまいには田中君が泣き出す始末で、身長170に満たない小柄な私が、二メートル近い大男の肩を叩いて慰めているのは傍から見てもさぞ滑稽に写ったことでしょう。

第四章
そのことが縁で、その後も田中君の相談をことあるごとに聞く羽目になりました。

とはいえ相談というより経過報告といった内容で、酔って話を聞いたときのような際どい内容にはなりませんでしたし、まさか私のほうから催促するわけにも行かず、私は適当に相槌をうつだけでした。

そんなある日、彼が血相を変えて私のところへ電話をしてきました。

彼女から別れを切り出されたそうです。

まぁ、頑張れよ 君は若いんだから、次の相手もすぐに見つかるさ。

励ましたものの、彼のあまりの憔悴ぶりにいたたまれなくなった私は、仕方なくいつもの居酒屋で彼に付き合うことになったのです。

田中君は、電話で話した時以上に憔悴しきった様子で彼女から別れ話を持ち出された顛末を話し始めましが、私はさほど意外には感じていませんでした。

それまで彼ら二人のやりとりを聞いていて経験上、別れが遠くないことを予想していたからです。

しかし、当の本人にしてみれば晴天の霹靂だったのでしょう。

深く肩を落とす彼を見て、他人事とは言えその気持ちもわかるような気がしました。

なんとなく別れに向かっていることを感じていたとしても、当人が信じたくないと思っていれば、その予感を拒絶するのが寧ろ普通でしょう。

自分の過去を振り返れば、そんなこともあったよなと、同情を禁じえなかった私は、彼に合わせるように杯を重ねました。

この前のように彼を介抱することになっても、「今日くらいは仕方ない、この傷心の若者に付き合ってやろう」とそのときは考えていたのです。

ところが、そうはなりませんでした。

元々、私は特別酒に強いわけではありませんでしたし、私と彼の体格差を考えても、同じ酒量を飲めば、私のほうが先に酔いつぶれるのは火を見るより明らかだったのです。

たまたま、先日は私が意識的に酒量を抑えたから彼が先に撃沈しただけだったことに気がついた時はすでに遅く、一人では歩くものも覚束ないほどに酔いがまわっていました。

結局、彼に私の家まで送ってもらうことになったのです。

自宅では妻が出迎えてくれました。

妻は田中君とは初対面でしたが、事前に電話で事情を伝えていたこともあり、ドアを開けるなり挨拶もそこそこに何度も頭を下げていました。

田中君は私を居間まで抱きかかえて、ソファに寝かせ、すぐに帰ろうとしたのですが、妻がそれでは申し訳ないと引き止めました。

テーブルの上には妻が予め用意しておいた酒肴が数皿並べてありました。

「ほんとにご迷惑をおかけして申し訳ありません。よかったら召し上がっていってください」

「いえ、こちらこそ遅くにすいません。では、お言葉に甘えていただきます」

私は意識があったものの、吐き気を堪えるのに精一杯で、横目で彼が旨そうに妻の手料理を平らげるのを眺めるだけでした。

「簡単なものばかりで申し訳ないんですが」

「いえ、そんなことないです。おいしいです、すごくおいしいです」

私の食が細いこともあり、巨漢の若者の旺盛な食べっぷりは新鮮だったのでしょう。

料理好きの妻は自慢の料理を片っ端から上手そうに平らげる田中君を嬉しそうに見つめていたのでした。

そこから先は記憶がありません。

ソファで高いびきをあげ寝ていた私が次の日の朝、妻から聞いたところによると、その晩彼は小一時間ほどで帰ったそうです。

その時の様子を語る妻が、妙にはしゃいでいるように見えました。

二日酔いでふらつく足元で、玄関を出ようとする私を見送りながら、妻が言いました。

「ねぇ、あなた、田中君、またご招待してあげたら。今度はもっとちゃんとしたものを用意するから」

第五章
よほどの深酒だったとみえて、帰宅後もまだ頭痛は治まりませんでした。

その日の夜、珍しく妻から誘ってきたので、久しぶりに妻と交わりました。

情事の後、「昨日のこと覚えてる?」と聞かれたので、田中君と飲みに行った経緯を妻に話しました。

普段は私の職場の話には殆ど興味を示さない妻ですが、その日は様子が違いました。

私が話す田中君の失恋絵巻を食い入るように聞いています。

そして一通り聞き終えた後、今朝言った言葉を繰り返しました。

「ねぇ、あなた、田中君、またご招待してあげたら。今度はもっとちゃんとしたものを用意するから」

「うーん、立場上、一人の学生とあまり親密になるのはよろしくないんだけど」

私は妻の様子に、若干の嫉妬を覚えて煮え切らない返事をしました。

「だって、あなたが私の料理あんなにおいしそうに食べてくれたことなかったじゃない。私、昨日の晩、すごくうれしかったの」

私としても、彼の失恋からの立ち直りに少しでも協力してやりたいという気持ちがあったので、妻の申し出を拒絶することはしませんでした。

その日、学食で私の姿を見かけた田中君は、一目散に駆け寄ってきて深々と頭を下げると

「昨日は、ご馳走様でした」

失恋の痛手で青ざめていた昨日とは別人のような快活さでした。

初対面以降、これほど陽気な彼を見るのは初めてだったかもしれません。

「いや、こちらこそ迷惑を掛けたみたいで、申し訳なかった。それで、そのお詫びというわけじゃないんだが、妻が、君にまたご馳走したいって言ってるんだ」

「ありがとうございます。ご迷惑でなければぜひ」

社交辞令と思ったのですが、そうではなかったようです。

すぐさま日時まで指定して「この日ならどうでしょうか」と返してきたのには驚きました。

少し、ずうずうしすぎるんじゃないのか。

そう思った私は「その日は僕の都合が悪いんだ。日にちは追って連絡するよ」と彼の申し出を拒んだのです。

「そうですか」

田中君は、明らかに落胆した様子で肩を落としました。

家に帰ると、妻が「ねぇ、田中君に昨日の話ちゃんと伝えてくれた?」

「あぁ」

「それで、いつみえるの?」

「そこまでは決めてないよ、彼にだって都合がある」

私はとっさに嘘をついていました。

「もう、いいわ、自分でメールする」

「え?」

妻の反応に驚いて顔を上げました。

聞けば、昨日のうちに彼とアドレスを交換したというのです。

「え?ちょっと待って。昨日って、昨日の夜のことだよな」

「そうよ。田中君をお見送りするとき。あなたのことも起こそうとしたけど、何度呼んでも起きなかったから。玄関で帰り際に私からお願いしたの。改めて御礼させていただきたいからって」

妻の言っていることは、確かに筋が通っているといえば通っているように思えましたが、それにしても少々度が過ぎるのではないかと感じました。

私の知る限り、妻は決して尻の軽い女ではありません。

私と付き合い始めてから一緒になるまでの間も、そして一緒になってからも、他の男性の影が見え隠れしたことは一度もありませんでしたし、初めて妻と結ばれた時の彼女の初々しい姿は今でも覚えています。

自分が始めての男だとはその時も思っていませんでしたし、それを妻に聞いたこともありませんでしたが、少なくとも世間並みの貞操観念をもった女性だということは、この二十年間、一度も疑ったことはありませんでした。

妻は狼狽する私に気づく様子もなく、目の前で田中君へのメールを打ち込んでいました。

その姿を見て少々考えすぎかな、とも思い直しました。

子供のいない私たち夫婦にとって、田中君は子供がいたらこれ位かな、という年齢です。

妻にしてみれば、結婚以来、初めてわが子のように接することのできる知人ができたことで、母性がくすぐられているのかもしれません。

私自身のことを思い返してみても、田中君に接するときの自分は、彼を仮想の息子として見守るような心境でいたような気がします。

そう考えれば、久しぶりに見る妻のはしゃいだような姿も悪くない、と思うことにしました。

そのときは予想もしていませんでした。

その考えが的外れなものであったことを。

第六章

舞い散る桜の花びらが足元を吹き抜けて行きました。

大学構内の歩道を仕事場に向かって歩く私。

その傍を足早に通り過ぎていく学生たち。

希望溢れる新入生達を迎え、学内が一年で最も活気付くのがこの時期です。

例年なら、私も年甲斐もなく学生たちの熱気に煽られ、心弾むことが多かったのですが今年は勝手が違いました。

いえ、決して心が塞ぎこんでいるわけではないのです。

これまで見たことのない妻の姿に戸惑う私。

その一方で心の高鳴りを感じている私に気づいたのはここ数日のことでした。

私は昨日の夜のことを思い出していました。

妻の積極的なアプローチの甲斐あってか、田中君が我が家を再訪したのは私が酔いつぶれた日から数えて、わずか三日後のことでした。

恐縮しながらも嬉しそうに玄関の敷居をまたぐ彼、嬉々として彼を出迎える妻、作り笑いの私。

食卓には、妻が前日から仕込みを始めた料理が並んでいました。

この日のために、という献立ではなかったはずです。

私にしてみれば、結婚当初、食べた記憶があったからです。

血が滴り落ちるようなローストビーフ

箸で裂けるほど柔らかく煮込んだ豚の角煮

皮はパリっと、中はジューシーな肉汁が溢れ出す油淋鶏

前日から熟成させた国産和牛の霜降り肉ステーキ400グラム

既に胃袋も中年化している私には、見ただけで胃もたれがするような献立でしたが、寮住まいで食べ盛りの彼は目を輝かせていました。

「すごいです。僕が肉を食べたいと話したからですか?」

「ええ、この前はあり合わせのものしがお出しできなかったので。お口に合うといいんですけど。どうぞ召し上がってください」

「ありがとうございます、いただきます」

それからしばらく、私も妻も彼の食事の様子に圧倒され眺めるばかりで、自分たちの箸を動かすこともできませんでした。

人の食事というよりは、肉食獣が獲物を捕食しているような光景だったからです。

グチュグチュと音を立て、肉にかぶり付く様子は決してマナー的に褒められるものではなかったのですが、不思議と私も妻も嫌な気分になることはありませんでした。

むしろ、何かショーを見せられているような感覚で、感動さえしていたかもしれません。

彼が四百グラムのステーキ、というより、巨大な肉塊をものの五分で平らげてしまったところで、ふとわれに返った妻がワインを勧めました。

彼もそこで呆然とする私たちの様子に気づいたのか「すいません、せっかくお招きいただいたのに、お見苦しい姿を見せてしまって」

申し訳なさそうに頭を下げました。

「こんなに豪華でおいしいものを食べたことがなかったので、つい」

「いいのよ、それでこそ作った甲斐があったわ。

どうぞ、遠慮しないでどんどん食べて。

足りなかったらもっと作るから」

三ツ星レストランのギャルソンでもかくや、というほどの笑顔を振りまく妻。

「ありがとうございます」

見ているだけで満腹感を覚えてしまった私は、箸をおき妻に注いでもらったワインに口をつけました。

その後も、某テレビ番組かと見紛うかのような彼の大食いショーは続き、妻はそれを嬉しそうに見つめながら彼のグラスにワインを注ぎ続けました。

ちなみに私に酌をしてくれたのは一杯目だけで、その後は彼の給仕に夢中だったので、仕方なく私は冷蔵庫からビールを持ってきて栓を開けました。

ビールの空き缶が二本並んだころ、彼はようやく箸を置きました。

「ごちそうさまでした。ホントおいしかったです。ありがとうございました」

「お粗末さまでした。それにしてもすごい食欲よね。さすがに作りすぎたかなって思ってたのに、ペロリだもの。やっぱり若いってすごいわね」

「いえ、さすがに普段はこんなに食べられないです。奥さんの料理がおいしすぎて、つい食べ過ぎちゃいました」

「あら、お上手ねぇ。お口にあったみたいで嬉しいわ。また食べにきてね」

「ほんとですか?ご迷惑でなければぜひ」

「迷惑なんてことないわよ、ねぇ、あなた」

「ああ、うん」

顔を合わせるのは今日で二回目のはずなのに、すっかり打ち解けた様子の妻と田中君に、はっきり嫉妬と呼べる感情を抱いていることに気づいた私は生返事を返すことしかできず、すっかり温くなったビールを一気に喉に流し込みました。

「それにしても」

教務棟の階段を登りながら、私はつぶやき首を傾げていました。

昨日の妻と田中君の様子に、どうしても腑に落ちないものがあったからです。

いくらなんでも親しすぎる。

そう、親しすぎやしないか。

教務室のドアを開け、心の中で繰り返しました。

そう考えると、胸の奥に押しとどめていたとめどなく疑念が溢れて来ます。

私は酔いつぶれて、自宅に運び込まれた日のことを思い出していました。

あの晩、ソファに寝かされた後、小一時間で彼は帰ったと妻は話していました。

本当にそうなのだろうか。

深夜、食卓を挟んで、妻と二十歳過ぎの若者が向かい合っていた光景を、想像しました。

何もなかったのだろうか?

妻は夫である私が言うのもなんですが、男好きのするタイプだと思います。

女性にしては背が高いのですが、ひょろっとした、いわゆるモデル体型というのではなく、つくところに肉のついた、いささか大げさかもしれませんが、日本人離れしたプロポーションです。

出産してないからなのかわかりませんが、豊満な胸も腰廻りも重力に屈することなく、二十代の頃のハリを保っています。

それどころか、少し肉付きが良くなったことで、私にはより色っぽさを増したように思えます。

ふと、あの夜の妻の服装を思い出してみました。

帰宅直前に、田中君に送ってもらうことを伝えたので、着替える暇もなかったのか、パジャマにカーディガンを羽織っただけの格好でした。

前ボタンのパジャマの下は当然ノーブラだったはずです。

上着を羽織っていたとはいえ、妻のDカップの胸の盛り上がりは、見慣れた私はともかく、血気盛んな若者の目に留まらないはずがありません。

まして酒が入っていたのなら尚更です。

「奥さん」

彼の太い腕が妻の前に伸び、服の上から柔らかい胸をわしづかみにしたかと思うと、力強く揉みしだきます。

「ああっ、だめよ、田中君。主人が、起きちゃう」

「奥さん、もう我慢できません」

強引に妻のパジャマを引きちぎり全裸に剥いた後、自らの衣服も脱ぎちらかし、逞しい体を妻の眼前に晒す彼。

その中心にははちきれんばかりに脈打った巨大なペニスがそそり立っています。

「いや、すごい、大きい」

目を丸くして、彼の男根に見入る妻。

「奥さん、ご主人は、まだ起きませんよ、大丈夫」

そう言いながら、妻の手をとり、自分の怒張を握らせます。

「ああ、すごい固い」

妻は魅入られるように唇を開くと、その巨大な肉棒を咥えようと顔を近づけ・・・

「西村さん」

窓口担当の中年女性の声が、私の妄想を断ち切りました。

「奨学金のことで、学生さんが相談したいそうです」

いかんいかん、仕事中だぞ、しっかりしろ。

妻に限って、そんなことはあり得ない。

どうかしてる。

たぶん、あれだ。

これが子供ができた時に、妻を子供に奪われるというやつなんだ。

妻は擬似の親子関係として田中君に接しているだけで、彼に男を感じるなんてことがあるわけないじゃないか。

今は仕事に集中しよう。

大きく息を吸い込み、席を立ち相談室へ向かいました。

ドアを開けると、小柄な女学生が椅子から腰を上げ綺麗なお辞儀をしました。

腰まで伸びた黒い髪が彼女の顔を覆ったので、表情はわかりませんでしたが、今時の若者にしては珍しい、折り目の正しい仕草に少なからず虚を付かれた私は、あわてて腰を折りました。

顔を上げると彼女と目が合いました。

まっすぐに私の目を見返す瞳は黒目がちのアーモンド型、小ぶりな鼻や口、透き通るような白い肌。

私は一瞬息を飲んで、呼吸するのを忘れていました。

そのときの印象を言葉にするのは困難なように思えました。

あえて一言で言うなら「可憐」。

肉感的で、セクシーな妻とは真逆なタイプの女性でした。

「はじめまして、文学部二年生の高橋美佐と申します」

「高橋、美佐君、ですね」

私は自分が名乗るのも忘れて、佇んでいました。

田中君の彼女の名前が「ミサ」だったことを思い出していたからです。

第七章
五月、連休前の勤務を終え帰宅すると、男物の靴が目に入りました。

最近ではもう見慣れた30センチはあろうかというスニーカー。

田中君が来ていることがすぐにわかりました。

「ただいま」

リビングのドアを開けると、テーブルを挟んで向かい合い談笑していた妻と田中君が揃って私のほうに顔を向けました。

「おかえりなさい」

「お邪魔してます。お疲れ様でした」

「いらっしゃい」とだけ答えると、寝室に入り着替えました。

初めのころは田中君を招待する度に許可を求めていた妻ですが、最近は様子が違ってきました。

「お招きしてもいい?」がいつの間にか「呼んでもいいでしょう?」になり、最近では「明日、みえることになってるからね」といった具合です。

そのことに腹を立てたり、不満を感じているわけではありません。

彼は知れば知るほど、礼儀正しく、誠実で、思いやりのある好青年でした。

彼と酒を酌み交わし、世間話をしたり、時に議論を交わす時間は、私にとって楽しみのひとつになっていました。

ただ私以上に妻が、彼の来訪を心待ちにし、彼と過ごす時間を楽しんでいるように見えることに、どこか引っ掛かりを感じていたのです。

これが単なる嫉妬であれば、私も大して気にもしなかったのでしょうが、そうでないことがもやもやの原因だと感じていました。

その原因というのは、あれ以来、時折湧き上がってくる妄想です。

妻が彼に抱かれて乱れている姿を想像してしまうことが、彼と親しくなればなるほど増えていきました。

しかも、そんな自分に戸惑うばかりだった最初の頃に比べ、最近では明らかに興奮を覚えてしまっていることに気づいたのです。

自分は変態なのだろうか。

心配になって調べました。

そして「寝取られ」の意味を知りました。

言葉では耳にしたことがありましたが、その意味を知り、そのジャンルが一定のニーズがあることを知って、自分が人の道を外れるほどの変態、鬼畜でないことにとりあえず安心しました。

その後、さまざまなサイトや掲示板を覗くうちに、私の「寝取られ」願望は日増しに高まっていったのです。

着替えを終えてリビングに戻ると、妻が夕食をテーブルに並べているところでした。

今日の妻は胸元がV字に開いた薄手のカットソーにソフトデニムのジーンズという服装です。

普段着といえばそうなのですが、上下ともに肌にぴったりとはりついて体のラインを強調するコーディネートです。

実際、皿を田中君の前に置くときには、シャツの胸元から妻のDカップの谷間が露になり、それに気づいた妻と彼が一瞬目を合わせ、お互いに頬を赤らめ視線を逸らせるのがわかりました。

以前であれば気づきもしなかった、本当に刹那の出来事なのですが、寝取られ願望に目覚めてからは、そんな瞬間ばかりを捜し求め目で追うようになっていました。

そして、今では確信していました。

妻は田中君に男性を感じ、田中君も妻を女として見ている。

さらに、それに戸惑うどころか、興奮を覚えている自分がいることを。

この頃から私の中に、ある計画が湧き上がっていました。

第八章

計画といっても、取り立てて煩雑なものではありません。

寝取られ体験談によくある手段です。

概要は、願望のある主人、この場合は私が、相手の男性に妻を抱いてみないかともちかけ、手ごたえアリとみたら妻を説得する、これだけです。

ただ、そこで私が少し考え込んでしまいました。

説得する順番をです。

体験談を読む限り、どちらからもちかけても大差はないように感じましたが、それは、当然のことながら体験談が、両者の同意を得て成功しているからです。

つまり、これからことに臨む私としては、説得が失敗に終わった場合を想定しなければなりません。

交渉が決裂するとどういうことになるのか、具体的に考えてみました。

まず、最初に田中君へ話を持ちかけた場合。

これは拒否される可能性は低いような気がします。

据え膳食わぬは、という言葉があるように、この種の話をもちかけられた男性が断る理由は、自分に置き換えてみても殆どないように感じました。

問題は彼の真面目な性格が邪魔をして断られた場合ですが、その時は酔った勢いでの戯言として煙にまいてしまえば彼もそんなに気にしないような気がしました。

そこで、田中君の同意を得た後、妻の拒否にあった場面を考えてみました。

これは十分ありそうです。

この場合、私は田中君に妻の同意がとりつけられなかったので、今回の話はなかったことにしてくれ、と話さなければなりません。

これはうまくない様な気がしました。

田中君に対して、私の異常な性癖を暴露しただけに終わることになりますし、妻と田中君もこれまで通りの良好な関係を続けることは難しくなるでしょう。

次に、まずは妻の説得から始めた場合。

これは可能性としては五分五分か、少し分が悪い勝負です。

ただ、仮に失敗に終わっても私が頭を下げれば、その後の夫婦間の関係に大きな溝は残さないでしょうし、妻の了承を取り付けた前提で彼に話をすれば、彼が承諾する可能性も大きくなるような気がしました。

他にも、いろいろ細かいことを考え、悩んだのですが、最終的に最初の説得相手には妻を選びました。

話を切り出したのは夫婦生活の最中でした。

十分に時間をかけ、丁寧な前戯で濡れた蜜壷に、私自身を埋め込みながら、妻が声を上げるのを待って話を切り出しました。

「なぁ、由美、田中君のことなんだけど」

事前に何度もリハーサルを繰り返した、簡略かつわかり易さに重きを置いた、彼を交えての3P提案のプレゼンテーション。

「なんで?」

それまでは目を閉じて恍惚の表情を浮かべていた妻が、一瞬、間を置き真顔になると私を見つめ直し、そう問い質しました。

妻の反応は当然でしょう。

「セックスが原因で彼女と別れ、自信を失っている田中君を立ち直らせてあげたい。それに協力して欲しい」というのが、私の口頭弁論の主旨。

嘘はついていません。

彼と最初に飲みにいったときに、そのさわりだけとはいえ聞いたことでしたから。

さらに、決して妻に対する愛情が冷めたわけではないこと。

ただ、最近の二人を見ていて、あらぬ妄想を抱くようになり、初めは悩んだが徐々に興奮している自分に気づいたこと等を正直に告げました。

激しく拒絶されたなら、即座に撤退するつもりでした。

しかし妻からの意外な返答。

「こんなおばさん相手じゃ、彼が嫌がるでしょう?」

え?それって。

それって、つまり「私は嫌じゃないけど」って言ってるのと同じことだよね?

この妻の一言に、私は脳天を撃ち抜かれたような刺激を覚え、挿入直後だったのにも関わらず一気に果ててしまいました。

乱れた息のまま抱き合いながら、私は妻の耳元に顔を埋めながら尋ねました。

「なら、彼が望めば構わないってことか?」

少し間を置いて妻。

「そういうことじゃなくって」

「じゃあ、どういうこと?彼がこのまま男としての自身を取り戻せずに立ち直れなくなっても構わないのかい?」

「そんなことないわ。私だって彼がそんなに悩んでいるなら、できることは何でもしてあげたいと思ってます」

「なぁ、由美、こんなこと頼めるのはおまえしかいないんだ。

いくら妄想して興奮を覚えたからって、自分の大切な女房が他の男に抱かれることに抵抗がないわけないだろう?最初はソープにでも連れて行ってとも考えたけど、真面目な彼をそんな場所に連れて行くのはどうしてもはばかられるんだよ」

「ソープなんて、あなた、そんなこと考えてたの?だめよ、絶対。それはだめ」

「おまえだってそう思うだろう?だからさ」

「んん、もう。とにかく急にそんな話されても困るわ。少し考えさせて」

妻は裸のまま私に背を向けると、頭からシーツを被ってしまいました。

「おやすみなさい」

妻の声に怒気の色は全くありませんでした。

これ以上ない手ごたえを感じた私は、早速次の日、田中君を飲みに誘いました。

第九章
いつものバーカウンターの止まり木に肩を並べて小一時間がすぎた頃、私は話を切り出しました。

「妻が、君に男としての自信を取り戻させてあげたいと話してる」

いきなりの最終弁論で直球勝負です。

ここでも嘘はついてません。

今回の計画のもうひとつの肝は、明らかな嘘をつかないこと。

妻と田中君は頻繁にメールのやりとりがある仲なので、私が都合のいい嘘で説得しようとしても、それがばれて計画が水泡に帰すリスクを恐れました。

「え?それは、どういう。

すいません。

よく、意味がわからないんですが」

「妻が体を張って君に性の手ほどきを行い、君が男として一皮むける。

その姿を僕も見ていたい。

そういうことだ」

酒の力も借りて、一気に勝負をかけます。

田中君は、グラスを手に持ったまま、歓喜と戸惑い、そして僅かな猜疑心の入り混じった顔で私を見つめ返しました。

「でも、西村さんはいいんですか?つまり、僕と、奥さんが、その、そんなことをしても」

予想通りの反応でした。

ここが計画のもうひとつの肝だったので、私は慎重に用意してきた答えを、できうる限り感情を込めて、彼に話しました。

今回の計画の最大のリスクは、職場の学生を交えて妻と3Pをするという、反社会性にありました。

具体的に言えば、もしこのことを彼が友人等に吹聴するようなことがあると、最悪の場合、私が職を失いかねないということです。

ですから、それを防止するために万全を期して、いかに私たち夫婦が彼の未来を慮っているか、そのために私達自身の社会的立場を賭しているか、ということを、念入りに説明しました。

彼の誠実な人柄に信頼を置いたからこその、今回の計画だったのですが、最悪の状況だけは避けたかったので念には念を入れました。

そして、私の熱意が伝わったのか、妻の魅力に陥落したのか、あるいはその両方なのか、田中君からの了解を取り付け、私の計画は最終段階に達したのです。

第十章
決行日は、田中君のリーグ戦の日程や、私と妻の仕事の都合もあって、思ったより時間を経た、初夏の日曜日でした。

場所は我が家。

事前の打ち合わせで、いつものように三人でのディナータイムを過ごした後、寝室に場所を移して始めることは予め決めてありました。

仕事を定時で終え、家に着いたのは18時を少し過ぎたところでした。

すでに帰宅していた妻はキッチンで夕飯の支度に取り掛かっています。

「ただいま」

妻の後ろ姿に声を掛けると、妻は一瞬だけ振り返り「おかえりなさい」そう言って調理を続けました。

私はネクタイを解きながら妻の後ろ姿を眺め、いつも以上の色気を感じました。

それは普段ほとんど身に着けることのないベージュのタイトスカートが、妻のヒップから太腿にかけてのラインを強調していたからかもしれません。

髪をアップにしているため、襟元が大きく開いた紺のサマーセーターから覗く襟足も妖艶に感じられます。

勤務中も上の空で、気持ちが昂ぶっていた私はその場で彼女に抱きつきたくなりましたが、息を一つ吐き出し気持ちを落ち着けると、冷蔵庫からビールを取り出しました。

カラカラに渇いた喉へ一気に流し込みながら、妻が今日のことを承諾した日のことを思い出していました。

妻がはっきりとその言葉を口にしたのは、田中君の了承を取り付けてから一週間後でした。

その間、お互いにそのことを口にすることはありませんでしたが、その晩、一週間振りのセックスの後に妻から口を開きました。

「ねぇ、あの話って、もしかして田中君にしちゃったの?」

「したよ。

どうして?」

「ええっ、ちょっと。

『どうして』は私のセリフでしょう。

私、まだするともしないとも言ってないじゃない」

「いや、酔った勢いでつい」

「つい、じゃないわよ、こんな恥ずかしいこと」

「ごめん、おまえの承諾も得ずに先走ってしまったことは謝るよ。

でも、なんで、もう話したかもって思ったの?」

「彼のメールの様子が少しおかしかったから」

「どう、おかしかった?」

「どうっていうか。

なんとなくよ。

妙に文章が固いっていうか」

「きっと彼の下半身も固くなっているからだよ」とは言いませんでした。

妻が何か大事なことを決心して伝えようとしているのを彼女の声色から感じたので、くだらない冗談でその場の雰囲気を壊すのはよろしくないと自制したからです。

「そっか。気まずい雰囲気になってなくてよかったよ」

「ほんとよ、もう。それで、その、彼、なんて言ってたの?」

案の定、妻は田中君の反応を気にしているようです。

「承諾してくれたよ。このことは絶対口外しないことも約束してくれた」

「そう、なの」

妻は思いつめた表情で答えました。

「もちろん、おまえが嫌なら、この話はなかったことにするよ。俺にとって一番大切なのはおまえだから」

彼女はしばらくの間、天井を見つめていました。

どのくらいそうしていたでしょうか。

不意に私のほうに向き直り口を開きました。

「いろいろ考えたんだけど、やっぱり私、あなた以外の人に抱かれるなんて考えられないの」

無念。

最後はそうなるか。

妻の私への愛情が確認できたことは、もちろん喜ばしいのですが、正直私は複雑な心境でした。

それを顔に出さず「わかった、彼にはそう伝える。正直、俺もほっとしたよ。おまえを他の男に抱かせるなんて、どうかしてたよ。断ってくれてありがとう、由美、愛してるよ」

断られた時のために準備していたセリフを言おうとしたそのときです。

「でも、彼なら、田中君なら。そのかわり、一度だけよ」

キターーーーー。

逆転満塁ホームラン。

飛び上がりそうになるのを堪え、努めて冷静な素振りで彼女の肩に手を回しキスをしました。

首まで真っ赤にして恥ずかしそうにしている妻を心底愛おしいと思いました。

「ありがとう。約束する」

「それと、私の、その、そんな姿を見て嫌いにならない?」

「それも約束する」

予定では19時に田中君が家にやってくることになっていました。

「お風呂、沸いてる?」

「ええ」

私は浴室に入ると、浴槽の熱めのお湯を頭からかぶりました。

愚息は既にいきり立っています。

これから何かの儀式に望むような気持ちで、いつもより念入りに体を洗っていると、玄関のチャイムが鳴るのが聞こえました。

予定より早い到着のようです。

早くも心臓の鼓動が早くなるのを感じました。

「はーい」と答える妻の声も、緊張のせいか少し振るえているのがわかります。

着替えてリビングに戻ると、田中君はいつものように席から立ち上がって頭を下げました。

「こんばんは、お邪魔しています」

「いらっしゃい」

いつも通り挨拶を交わしただけのはずなのですが、極度の緊張のせいか、今日はお互い相手の顔をまともに見ることさえできませんでした。

料理を一通り並べ終わった妻も席に着くと、これまでより極端に口数の少ないディナータイムが始まりました。

田中君の食べっぷりもいつもに比べると随分大人しく、その分食器の立てる音と、各々の咀嚼する音だけがリビングに響きました。

会話が弾まないせいかアルコールだけが進み、いつしか三人とも箸を置き、グラスを口に運ぶだけになっていました。

長い沈黙を破ったのは妻でした。

「暑いわね」

そう言って羽織っていた薄手のカーディガンを脱ぐと、妻の白い胸の谷間が露になります。

アルコールでほんのり赤く染まった妻の頬との対比は、見慣れているはずの私にとってもこの上なくエロティックでした。

妻の胸元から目を離せないでいる田中君が、正面の席で唾を飲み込む音が聞こえたような気がしました。

それを見て、気持ちの昂ぶりを押さえられなくなった私は、意を決して立ち上がりました。

「そろそろ、寝室に行こうか」

第十一章
寝室に場所を移し、念願のそれは始まりました。

鏡台の椅子に腰掛けた田中君の前で、事前の打ち合わせ通り、妻と私は立ったまま向かい合いました。

常夜灯の明かりのみの薄暗い室内で、髪を解き俯いたままの妻を見つめながら、これから始まる行為を想像し、私の心臓は大げさでなく爆発しそうなほど激しい鼓動を繰り返します。

小刻みに震える妻の肩に、同じように震える私の手を伸ばし抱き寄せました。

まだ湿った妻の髪から立ち昇るシャンプーの香りが鼻孔をくすぐります。

妻の頬を両手で包み、唇を重ねました。

結婚式以外では、人前でのキスも始めての経験でした。

田中君の呼吸が荒くなるのが聞こえました。

その音にいっそう興奮を掻き立てられ、見せ付けるように舌を絡めあう激しく濃厚なキスを続けました。

「はあ」

さすがに苦しくなったのか、妻が唇を離し、深く息を吐き出しました。

次の瞬間、私は妻の上着をたくし上げ、一気に剥ぎ取りました。

黒いハーフカップのブラジャーのみになった上半身を隠すように、両手を胸の前で交差させ身を捩る妻。

間をおかずスカートのホックを外し足元までひき下ろしました。

下着のみになった妻は恥ずかしそうに両腿を擦り合わせるようにして露になった下半身を隠そうとします。

田中君が食い入るように身を乗り出しているのを横目にしながら、私もシャツとズボンを脱ぎ捨て下着のみの姿になりました。

再び妻を抱き寄せ、露になったお互いの肌を密着させながらキスをしました。

背中に回した右手でブラのホックを外し、屈みこみながらパンティーに手を掛けました。

「いや、だめっ」

妻は股間を隠すように抵抗しましたが、その手を払い退け一気に引き下げました。

妻が裸身を隠すようにしゃがみ込んだので、ブラはホックだけが外れたまま肩からぶら下がり、パンティーは足首に留まったままでした。

その間に私は全裸になり、無言のまま妻を抱き起こすと、尚も抵抗する彼女から無理やり残った下着を剥ぎ取りました。

「恥ずかしい」

俯く彼女をベッドに押し倒し、私の体を重ねます。

田中君が椅子から立ち上がり、無言でベッドに近づいてきました。

彼の視線を感じたのか、妻は両手で顔を覆い隠していました。

私は妻の白く豊満な胸に唇を這わせました。

「ああっ」

ついに妻が人前で声を漏らしました。

尚も舌で乳首を転がすと、私の舌を押し返すほどに固く隆起しているのがわかりました。

私がまるで赤ん坊のように夢中で吸い続けると、さらに固さを増していきます。

「あ、ああんっ」

顔を覆っていた両手は私の後頭部を抱え、背中を反らせながら、妻の口からは甘い吐息が漏れだしました。

私は右手を妻の両腿の間に滑り込ませました。

それに反応した妻がいつものように両足を開きかけたその時、ベッドの足元の方に気配を感じました。

「ああ」

不意に耳にしたのは、興奮のあまり無意識に発したのであろう田中君の声です。

その声は妻の耳にも届いたようで、その瞬間彼女は開きかけた足を閉じました。

思わず目を向けた視線の先には、膝をついて妻の下腹部を覗き込む田中君がいました。

私と目があった彼は、興奮した表情のまま、

「すいません」

と消え入りそうな声で、俯きました。

私は、改めて他人に見られながら妻とセックスをしていることを思い出しました。

「由美、田中君が見てくれてるよ」

そう言って、両足で妻の右足を挟み込み、右手で妻の左膝の内側を押さえて強引に妻の両足を開かせました。

「いや、あなた、やめて」

妻は恥ずかしさのあまり、必死に足を閉じようとしましたが、邪な欲望に支配された私の力はよほど強かったとみえて、抵抗もむなしく彼女の股間が田中君の眼前に晒されました。

「ああー、恥ずかしい」

妻は再び両手で顔を覆っています。

「どうだい、田中君、由美のあそこは」

私は、自分のお宝を自慢するような気分で、彼に声をかけました。

「すごい、綺麗で、すごいです」

両目を皿のように見開き興奮を隠そうともしない彼に、私は勝ち誇った表情で続けました。

「もっとすごいもの見せてあげるよ」

かつてないほど膨れ上がった愚息にゴムを被せると、彼の視界を私の下半身で塞ぐ様に妻に覆いかぶさり、自らの怒張を妻の秘部に突き刺しました。

「あああっ」

のけぞる妻の姿に、これまで溜め込んでいた興奮を叩きつけ、夢中で腰を振り続けました。

背後からの、妻と私の結合部に注がれる田中君の視線を感じながら、これまで味わったことのない刺激で、一気に高まりました。

「ああ、由美、いくよ」

「ああ、まだ、まだだめよ」

「だめだ、もう、いく、ああああっ」

他人の前であることを忘れた私は、恥ずかしいほどの絶叫を上げながら、妻の中に欲望をほとばしらせたのでした。

第十二章
私にとって、それは経験したことのない快感でした。

普段と同じ妻とのセックスが、他人に見られているというだけでこんなにも変わるものだとは。

私は当初の目的も忘れ、思わぬ副産物の余韻に浸りながら目を閉じ、妻の上に倒れこみました。

ふと、妻はどうだったのだろうと思い至り、目を開きました。

私と繋がったままの彼女は、目をつぶったまま満足げな表情を浮かべてはいましたが、それが絶頂後の様子でないことはすぐにわかりました。

考えてみれば当然のことです。

私は、田中君に私と妻の秘部が繋がっているところを見られているという興奮のあまり、普段以上の早さで果ててしまっていたのですから。

急に焦りと羞恥心を感じた私は、今後の展開に思いをめぐらしました。

予定では、私達夫婦のセックスの後、私と田中君が交代して、その後はその場の雰囲気次第で、ということになっていました。

雰囲気次第、と曖昧な表現にしたのは、三人とも始めての体験だったので、その後にどうなるのかを想像できなかったからです。

私がこれまでに仕入れた体験談やDVDでは、三人同時でのプレイ、つまり妻が私と田中君の肉棒を同時にフェラしたり、前後から貫かれたりすることが最も多かったのですが、男性陣はともかく妻がそこまで望んでいるとも思えませんでした。

ですので、私の中では妻と田中君の行為が終わった後、寝取られの興奮に昂ぶった私がもう一度妻を抱いて終幕、ぐらいに考えていたのです。

計画通りにことは進み、この後の妻と田中君のセックスで今夜のクライマックスを迎えるはずでした。

ただ、私も男としてのプライドが多少なりともあったので、私が妻を抱く姿を前座扱いにするつもりはなかったのです。

田中君に性の手ほどきをするのは妻だけではない。

寝取られが目的とはいえ、まずは始めに先輩としてセックスのお手本とまではいかなくとも、それに近いものを見せつけてやりたい。

そんな思いがありました。

私の目論見は、今や見事なまでに崩れ去りました。

先ほどまでの興奮が、潮が引くように消え去り、妻の中で私の愚息は急速に萎えしぼんでいきます。

そのとき、ベッドのすぐ脇から衣擦れの音が聞こえました。

その方向に目をやると、そこにはギリシャ彫刻のような筋肉を纏った田中君が、下着だけの格好で私たちを見下ろしていました。

その姿を一目見て圧倒されたのは妻も同じだったようです。

「ああ、田中君、そこにいたの」

そう言いながら、妻が体を起こす間に、先ほどまでの固さを失ってしまった私のペニスは、彼女の蜜壷からあっさり抜け落ちてしまいました。

そのままベッドの上で膝立ちになった妻は私の体を押し退けるように田中君のもとへ近づくと、右手を彼の濃紺のボクサーパンツの中心へと差し伸ばしました。

ウエストのゴム付近まで盛り上がっている膨らみに彼女の指先が触れました。

「あっ」

筋骨隆々の体からは想像もつかないような、か細い声を上げながら腰を引く彼。

妻は一旦離れた彼の股間に再び手を伸ばすと、手のひらで下着の上から軽く上下に擦りはじめました。

「ああ」

田中君は再び声を上げ、立ったままの姿勢で首だけを仰け反らせます。

しかし、今度は妻が左手を彼の腰に廻していたので、膨らみに添えた彼女の手が彼から離れることはありませんでした。

次第に手指の動きを早めていく妻。

田中君の声も大きくなっていきます。

私はというと、ゴムを外すのをわすれたまま、ベッドの端で膝立ちになったまま彼女達の行為に目を奪われているだけした。

「ああ、奥さん、僕、もう」

その声に妻の手の動きが止まりました。

眼前の膨らみを見つめたまま大きく息を吸い込むと、彼の下着に手をかけ、ゆっくりと引き降ろし始めました。

ウエストのゴムに巨大な亀頭の先端部分が引っ掛かかります。

妻が両腕に力を込めると、トランクスの下で天を突かんばかりに反り立っていた巨大な肉棒が、徐々に下向きに角度を変え次第に全容を露にしました。

彼の膝上のあたりまで下着をずり下げたところで、とうとう引っ掛かりから解放されたペニスが弾かれるように跳ね上がり、猛烈な勢いで彼の下腹部を打ちつけました。

「バチン」

部屋中に響くような打撃音に、私も妻も一瞬、全身を硬直させてしまいました。

妻は彼のペニスが弾かれたときの勢いに驚き、顔を背けたままです。

おそるおそるといった感じで、顔を上げる妻。

その視線が田中君のものを捕らえた瞬間、彼女は目を大きく見開いたまま動かなくなってしまいました。

時間にして十秒くらいだったでしょうか。

金縛りから解けたように、大きく肩で息を吸い込むと、ため息混じりに妻が言いました。

「何、これ、すごい」

私も同じ心境でした。

薄明かりの中そそりたつ田中君の男性器は、見慣れた自分のものと比べても同じ人間のものとは思えないほど巨大だったからです。

「でかい」という言葉しか思い浮かびませんでした。

太さはコーヒー缶くらい、いやもっとあるしょうか。

長さはすぐ横で見上げる妻の顔が定規の代わりになりました。

彼女の顎の下から額の上くらいまであります。

二十センチは遥かに超えているでしょう。

女性としては比較的大柄な妻とはいえ、こんなものが入るのか。

まず頭に浮かんだのがそれでした。

心配する私をよそに、妻は魅入られたように手を伸ばし、彼の肉棒に指を絡めました。

「うっ」

初めて年上の熟女の手で分身に触れられた若者は、小さく呻きながら大きな体を硬直させました。

「太い、それに、固いわ。鉄みたい」

握りしめようとして、廻した親指と他の指がくっつきません。

妻は顔にかかった髪をかき上げると、ゆっくりと田中君の怒張に顔を近づけました。

鼻先に迫ったペニスの前で、少し戸惑ったように俯きかけましたが、意を決したように目を閉じると大きく口を開きました。

第十三章
妄想の中で何度も繰り返した光景がついに目の前で始まろうとしています。

先ほどまで萎んでいた私の愚息はいつの間にか先刻以上の固さを取り戻していました。

あれほどの巨大なペニスが妻の口におさまるのだろうかという心配をよそに、肉厚の唇は一気に彼の肉棒を包み込みました。

間を置かず、ゆっくりと頭部を前後に動かすと、瞬く間に彼のペニスは妻の唾液でてらてらと濡れそぼり、ズズッ、ズズッという卑猥な音を立て始めました。

「ああ、奥さん、気持ちいいです」

彼の表情とは対照的に、眉間に皺をよせながら口一杯に巨大な肉塊を頬ばる妻はかなり苦しそうに見えました。

ゆっくりとしたストロークをしばらく繰り返した後、妻は口を離し二、三度咳き込みました。

「奥さん、大丈夫ですか」

「けほっ。大丈夫、気持ちよかった?」

妻は何か使命感を帯びているかのような神妙な面持ちで、田中君を見上げました。

「はい、気持ちよすぎて、なんていうか、感動しました」

「よかった、今度は田中君が気持ちよくさせてくれる番よ」

妻の言葉はこのうえなく淫靡なものでしたが、その表情はまるで授業参観の時の先生のように固く強張っていました。

それを見て私は気づきました。

妻は肉欲からではなく、私の提案通り田中君に性の手ほどきを果たすことに徹しているのだと。

私は田中君の悩みをだしにして、自分の邪な欲望を果たすために妻をだましていたいような気分になりました。

しかし、私の愚息は、私の自責などどこ吹く風で、目の前の光景に興奮して尚も固さを増すばかりです。

ベッドに仰向けになった妻に襲い掛かるように、田中君は乳房にむしゃぶりつき揉みしだきました。

最初の夕食で肉塊を食らい尽くす姿を思い出しました。

妻の豊満な胸も田中君の巨大に手にかかると、すっぽり全体を覆われ指が食い込んでいます。

「あん、もう少し、やさしくして、ね」

「あ、すいません」

「強く吸い付くだけじゃなくて、もっと舌を使って、ゆっくりよ」

「はい」

「ああ、いいわ、いい」

妻の言いつけに素直に従い、彼がゆっくりと乳首に舌を這わすと、彼女の声が大きくなります。

「指も、それじゃ少し痛いわ。手のひら全体をつかって、子猫を撫で回すようにしてみて」

「こう、ですか」

「そう、そうよ、とっても、いいわ。そしたら指でおっぱいの先っぽをやさしくつまむように転がすの」

「こんな感じですか」

「ああ、そう、上手よ、気持ちいいわ」

私は目もくらむような興奮の一方で、妻の姿を感心する思いで見つめていました。

セクシーな衣装に身を包んだ美女が、巨大なライオンを意のままに操るサーカスの猛獣使いのショーを見ているようでした。

「今度はこっちも気持ちよくさせてくれる?」

そう言うと妻は猛獣の手首を掴み、自らの秘部へと導きました。

「いきなり入れちゃだめよ、最初は入り口の周りから、優しく、さっきおっぱいにしたみたいに」

「はい」

「あん、今、中指が触れたところ、少しとがっているところ、わかる?」

「はい。ここ、ですか?」

「そうよ、そこ。ああ。そこを指の第一関節の腹を使って、やさしく擦りあげるように動かしてみて。ああっ、そう、気持ちいいわ」

「奥さん、すごい、ああ、溢れてきました」

「そしたら、ああ、指を二本、三指と四指、中指と薬指を入れて。ゆっくりよ、そう。ゆっくりと動かしてみて、ああっ」

田中君の指の動きに合わせて、妻の股間からグチュグチュと愛液が溢れ出てくる音が聞こえてきました。

「あん、あん。指を第三関節から折り曲げて、そうしたら、指の付け根の辺りがさっきの尖っているところに当たるのがわかるでしょ?」

「はい。はぁ、はぁ、これが奥さんの、クリトリス、ですか?当たっています」

「ああ、私の中と、そこと、同時に擦りあげるように、あああ、動かしてみて」

「はい、はぁ、はぁっ。こう、ですか」

妻の蜜音は次第に大きさを増し、部屋中に響き渡るほどになっていました。

それに合わせて田中君の呼吸も荒く、大きくなり、今ではまさに野獣のそれのようです。

「そう、そうよ、ああ、もう少し早く。ああっ、いい、いいの、もっと激しくしてみて。そう、そう、そう」

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

「ああああっ、いく、いく、いっちゃうーーーー」

妻は大きく背中をのけ反らせて、今日、最初の絶頂を迎えました。

私ではなく、田中君の手によって。

第十四章
乱れて顔にかかった前髪を振り払おうともせず、妻はベッドの上に四肢を投げ出し横たわっていました。

二人とも、既に全身を汗で光らせ肩で息をしています。

田中君がゆっくりと妻の蜜壷から指を引き抜きました。

彼の指は、妻の愛液でぬらぬらと照り輝いています。

彼は、その指を目の前にかざしたかと思うと、自分の口に含み妻の蜜を舐め取りました。

「いやだ」

妻が恥ずかしそうな笑みを彼に向けてそう言いました。

「おいしいです」

妻の手料理を口にした後と同じように、満足そうな笑みを浮かべた田中君が言いました。

「ねぇ」

潤んだ瞳でそう言う妻の右手には田中君の怒張が握られています。

「きて」

その言葉に弾かれたように、彼は枕元にあらかじめ準備してあったXLサイズのゴムを掴むと、乱暴に袋を引き裂き巨大なペニスに被せました。

「ゆっくり、優しくね」

「はい、奥さん」

田中君ははちきれそうなほどの筋肉に覆われた両腕で妻の太ももを抱え上げると、ゆっくりと彼女の両足を開きました。

深く息を吐くと自身の中心にそそり立つ凶棒に右手を添え、

その先端を妻の秘部にゆっくりと近づけていきました。

私はいつの間にかベッドから降りてすぐ脇の床に跪き、これ以上ないほど目を見開いて食い入るようにその光景を見つめていました。

妻が始めて他人棒を口にする瞬間の興奮もすごかったのですが、その比ではありません。

心臓の音はうるさいほどに高鳴り、めまいを感じるほどでした。

ついに目の前で、野獣の猛り狂った欲望が妻を貫きました。

「うううっ」

大きく顎を上げ、顔を後方にのけ反らせる妻。

巨大な杭が妻の陰部を無理やりこじ開け押し入っていく様に、メリメリっという音が聞こえたような気がしました。

「ああ、うううっ」

妻は明らかな苦悶の表情を浮かべ、両手でシーツを握りしめています。

「ああ」

田中君は悦楽の声をあげながら、妻の様子などおかまいなしに腰を激しく動かし始めました。

「うううっ、だめ、痛いっ」

妻が壊される。

そう思った私は止めに入ろうとしました。

しかし、田中君の肉体が発する圧倒的な迫力に気圧され体が動きません。

「あああ、奥さん、いい、すごくいいです」

「だめ、田中君、やめて。

ほんとに、ストップ」

妻が発した声の切実な響きに、はっと我に帰ったように田中君は動きを止めました。

「だめよ、田中君。

これじゃ、だめ」

「ああ、すいません」

「いいのよ。

いいの。

ただ、さっきも言ったでしょ。

もっと優しくして、ね」

「はい」

再び、猛獣使いの本領発揮です。

「一回、抜いてくれる?」

田中君は妻に言われるがまま、肉棒を引き抜きました。

ベッドの上に座りなおし、向かい合いながら彼の巨根に手を添えて妻は諭すように言いました。

「田中君は、自分のものが少し立派すぎることを知らないといけないわ」

「ああ、はい」

「こんなに大きいので力任せに突かれたら、大抵の女性は気持ちよくなるどころか、苦痛しか感じないまま終わっちゃうの」

「そうなんですか、だから」

「そうよ、あなたと彼女がうまくいかなかったのも、多分それが原因じゃないのかな。

彼女は、体は大きいほうなの?」

「いえ、奥さんに比べたら小さいです」

私は、数ヶ月前に教務室に訪れた高橋美佐君のことを思い浮かべていました。

あの後、彼から聞いた話で、彼女が彼のお相手であることを確信していました。

そして、彼女の細く華奢な体つきを思い出すに至り「確かに、彼女の体に田中君のものでは、下手したら傷害罪だよな」と心の中でつぶやきました。

「そうでしょう」

「でも、奥さんは結構、こう言っては失礼かもしれませんが、女性にしては大きいほうですよね。

それでもああなっちゃうってことは、僕に普通のセックスなんて無理ってことなんじゃ?」

「大丈夫よ。

それを今から教えてあげる」

「ほんとですか?」

「ほんとよ。

あら、でも、すっかり元気がなくなっちゃったわね」

会話の間も妻が擦りつづけていたにも関わらず、彼のペニスは固さを失っていました。

それでも、私が勃起したときよりはるかに大きいのですが。

「すいません」

「いいのよ、不安にさせるようなことを言った私も悪かったわ」

そう言うと、妻は田中君の胸を突いて押し倒し、力を失った肉棒からゴムを外しました。

そして、左右に開いた彼の両足の間で四つん這いになると、右手でしごきながら舌を這わせ始めたのです。

それは私にもしてくれたことはないのではないかというほど、巧みで淫らなフェラチオでした。

裏筋に肉厚の唇で吸い付いた後、フルートを吹くように唇を上下に滑らせたり、巨大な亀頭のくびれに舌を突き出すようにして這わせたり。

そうかと思うと亀頭の先端の尿道口に舌を突き入れて激しく舐めまわしています。

その表情に、先ほどまでのような固さはすでにありません。

ふん、ふん、と鼻を鳴らし巨大なペニスに舌を絡めながら、上目遣いで田中君の反応を楽しんでいるようにさえ見えました。

高く突き上げた豊満なヒップを左右に揺らしながら屈強な若者の股間に顔を埋める妻の姿は、これまでに見たどんな姿よりも淫靡なものでした。

「ああ、奥さん、気持ちいいです」

田中君が、女性のような声を上げて首を反らせます。

「もう固くなってきたわ。

やっぱり若さってすごいわね」

聞き覚えのある言葉でした。

実際、彼女の言葉通り、彼のペニスは妻の舌戯によって瞬く間に先ほど以上の欲望をみなぎらせていました。

「奥さん、僕、もう」

「まだ、だめよ。

いくときは私の中で、ね」

妻は彼のペニスから唇を離すと、新しいゴムの袋に手を伸ばし、それは田中君に向けて差し出します。

そして、彼がゴムを装着したのを見届けると、ベッドに体を投げ出すように仰向けに倒れこみました。

右手を差し出し、彼の顔を見上げながら言いました。

「早く、入れて」

第十五章
差し出された妻の手を握り返し、空いたほうの手で肉棒を握り照準を定めると、妻のアドバイスに従い恐る恐るといった感じで、田中君は凶棒を彼女の中に埋め込んでいきます。

妻は彼の手を握り締めたまま眉間に皺を寄せ、固く結んだ唇からは小さくうめくような声が漏れていました。

それは初めて男を受け入れた処女のようで、その姿を目にしただけで私は精を放出しそうになりました。

田中君は慎重に腰を押し付け、ようやく亀頭部分が蜜壷に収まります。

「ああ、奥さん」

「待って、そこで我慢して。

一気に押し込むんじゃなくて、そこからゆっくり小さく動かしてみて」

「こう、ですか」

「ああ、そう、そうやって、少し慣らしてあげて。

そしたら、うっ、少しづつ、動きを大きくして。

お願い、ゆっくりよ」

田中君は妻の言うとおりに、慎重に腰の振り幅を大きくしていきます。

「うう、いいわ、その調子。

あっ、そこ、そこでストップ」

「はい、はぁ、はぁ」

彼のペニスは全体の三分の二ほどが妻の中へ侵入していました。

「わかる?先っぽが私の奥に当たっているのが。

私にはもうこれ以上は受け入れられないの。

これ以上突かれても痛みが先になってしまうわ。

だから、ここを限界点にして、出し入れしてみて。

ゆっくりよ」

「はい、奥さん」

素直に頷くと、彼は大きなストロークで前後に腰を動かしはじめました。

今まで私のものは妻の限界点まで届いていたのだろうか。

そんな疑問が湧き上がりました。

そしてその答えは、この後の妻の反応で明らかになります。

次第に田中君の腰使が勢いを増していきました

「あっ、くっ、ああっ、うううっ」

妻は先ほどまでのようなアドバイスをする余裕がないのか、両手で枕をつかみ大きく顎をのけ反らせながら喘ぎ声を発するだけになっていました。

しかも、その声はだんだん大きくなっていきます。

「ああっ、あっ、奥に、奥に当たってる」

「ああ、奥さん、気持ちいいです」

「私も、ああっ、だんだんよくなってきたわ。

あんっ」

「奥さん、大丈夫ですか。

痛くないですか」

「ああ、いい、気持ちいいよ」

「もう少し奥まで、入れてもいいですか」

「あうっ」

「あっ、すいません、大丈夫?」

「ああ、いいの、大丈夫、続けて」

「じゃあ」

調教師の許しを得た野獣は、一層大きく腰を前後させました。

すでに巨大な肉棒は四分の三ほどが妻の中へ、出ては入ってを繰り返しています。

妻は先刻話した限界点を超えて彼のものを受け入れていることになるのですが、その表情に苦悶の様子は見られませんでした。

「ああああっ、すごい、当たる、奥まで当たる、なにこれ、すごい」

「ああ、奥さん」

「ああっ、あああっ、すごい、すごいの、壊れちゃう」

ここまで「すごい」を連呼する妻の姿は初めてでした。

「いいんですか?奥さん」

「いい、いいの、すごい、気持ちいい」

「僕も、ああ、すごく気持ちいいです」

「いやっ、すごい、すごすぎるーー、こんなの初めてーーー」

いつの間にか調教師と猛獣の立場が入れ替わったのでしょうか。

妻の叫び声はもはや獣のそれのようでした。

「ああっ、奥さん、すごい、締め付ける」

「ああああああ、だめ、だめっ、壊れる、壊れちゃうーーー」

激しく髪を左右に振り乱しながら、もはや絶叫といっていいほどの声を張り上げる妻。

「ああ、奥さん、僕もう、いきそう、いって、いいですか」

「きてっ、きてーーー、」

隣で私が見ていることなど、全て忘れたかのようによがり狂う妻の蜜壷は、もはや田中君の巨大なペニスの殆どを、その中に飲み込んでいました。

「あああ、いくよ、あああああ、いくっ、いくーーー」

「あああああ、すごい、すごい、すごい、いく、いくっ、いっちゃうーーーーーー」

二匹の野獣がお互いを激しく求め合い叫び狂う姿に、私もこの日、二度目の精を床の上にぶちまけていました。

第十六章
どのくらいの時間が過ぎたのでしょうか。

先ほどまでの狂乱の宴が嘘のように、室内は静まりかえっていまいた。

聞こえるのは妻と田中君の、長く太い息遣いだけです。

私はというと果てた後の余韻に浸る間もなく、これから起こることを一瞬でも見逃すまいと息を押し殺して二人の様子を見つめていました。

ベッドの軋む音が沈黙を破りました。

全身を汗で黒く光らせた巨大な筋肉の塊が、薄明かりの中、上半身を起こしました。

ひとつ大きく息を吐くと満足そうな笑みを浮かべ、繋がったままの白い裸身へ再び自らの体を重ねると、妻の唇を奪いました。

他人棒に犯された後の、初めて見る妻と他の男とのキス。

妻は目を閉じたまま、自然に彼の唇を受け入れました。

最初は唇同士を軽く触れあわせるだけでしたが、次第にお互いの唇をむさぼるようになり、やがて濃厚に舌を絡ませるディープキスとなったころには、二人の姿は愛し合う恋人同士のようでした。

その姿に、後頭部がしびれる様な快感を覚え、私の愚息は三度固さを取り戻していました。

「ああ、また固くなってきたわ」

妻は唇を離し、深い吐息とともにそう漏らします。

それが私の愚息を指してのことでないのはすぐにわかりました。

「すごいわ、若いのね」

「ああ、奥さん。

僕、また」

「待って、このまま続けたら破けちゃうわ。

ゴムを付け直さなきゃ」

再び猛獣使いの美女とライオンの関係に戻ったのかと、その時は思ったのですが、それが思い違いだったのを思い知らされるのはこの後のことです。

彼は妻の言いつけどおり彼女の中の巨根を引きぬきます。

ズボッという音が聞こえたような気がしました。

「ああっ」

抜くときですら妻に声を上げさせる愛液まみれの凶棒は、力強く血管を浮かび上がらせたまま少しもその勢いを失っていませんでした。

「ああ、もう、こんなになって」

潤んだ瞳で、妻はもう待ちきれないとばかりにゴムを引き抜きました。

「すごい。

いっぱい出たのね」

大量の精液を含んだゴムを目の前にかざしながら、妻が甘い声を漏らします。

「奥さん、ひとつ教えてもらってもいいですか?」

「なあに」

ゴムのふちを縛りながら妻は答えます。

「さっき、奥さんが『いや』とか『だめ』とか『壊れちゃう』って言ったときのことなんですが」

「いやだ、私、そんなこと言ってたの?ごめんなさい、正直、夢中であまり覚えてないの」

妻は顔を真っ赤にしながら田中君のそばから離れ、ゴムをベッドサイドのゴミ箱に落としました。

「いえ、そのときは僕も夢中で。

だから、ほんとは止めようと思ったんですが、つい勢いのまま続けてしまいました」

ゴムを名残惜しそうな表情で捨てる妻が顔を上げた瞬間、ベッドサイドの床に跪いたままの私と目が合いました。

「あら、いたの」とは言いませんでしたが、妻の表情はそのとき初めて私の存在を思い出したかのように見えました。

続けて「あなたが悪いんだからね」とでも言いたげに、上目づかいで私をにらんだかと思うと、振り向き、再び田中君のそばに身を横たえたのです。

初めて見る妻の挑発的な表情に、背筋がゾクゾクッとするような興奮を覚えました。

田中君は続けます。

「あの時、あれでよかったのか、それとも止めたほうがいいのかがわからなくって」

「そうね、あなたは知らないかもしれないけど『嫌よ、嫌よも好きのうち』なんて言葉もあるくらいだから、難しいかもしれないね」

「その言葉はきいたことあります。

あの、実際、前の彼女にも拒絶された時に、その言葉が頭にあって。

それで強引に続けていたら、すごい怒られて。

それも上手くいかなかった原因のひとつなのかなって」

ベッドの中央で、お互いの一糸まとわぬ裸体を隠そうともせず、肌を密着させて見つめ合いながら語り合う二人の姿。

それは誰が見ても恋人同士にしか見えなかったと思います。

実際、妻はこのとき初めて田中君のことを「あなた」と呼びました。

「そのときのことを思い出してみて。

それと、最初に私が『ストップ』って言ったときとさっきの私と比べて、違いがわからないかな?」

「言われてみれば、なんていうか、ほんとに嫌なときは奥さんも彼女も言い方が鋭いし、表情も険しかったような気がします」

「そう、そういうことよ。

結局、感覚の問題なんだけど、声とか顔とか力の入れ具合とか、いろんなことを観察して判断するしかないと思うのね。

でも、あなたは十分見えていると思うわ、大丈夫、自信もって」

「はい、ありがとうございます。

じゃあ、この後は、奥さんが『だめ』って言っても続けていいですか?」

「この後って。

あら、まだまだ元気みたいね」

妻は放出後も全く固さを失わない田中君のペニスに目をやると、口元を緩めて手を伸ばしました。

「ああっ、はい、奥さんが嫌でなければ」

「嫌じゃないわ。

ここまできたら、私のこと、田中君の好きにして」

そう言って枕もとのゴムの袋に手を伸ばすと、待ちきれないように袋を引き裂き、自らの両手で彼の怒張にゴムを被せたのです。

「ああ、もう我慢できない、早く、入れて」

そう言いながら、妻は両腕を田中君の首に回し、自分から唇を重ねました。

その姿に、先ほどまでの猛獣使いの面影は全く見られませんでした。

もはや、二人の立場は完全に逆転してしまったようです。

彼は、黙って妻を引き剥がすと、腰に手を回し彼女の体を裏返しました。

「えっ」

彼の予想外の行動に戸惑いの声をあげる妻。

うつぶせになり、豊満なヒップを彼の前にさらけだす格好になっています。

田中君は無言のまま、妻の腰のくびれを両腕でがっしりと掴み、引き寄せると先刻以上に固く大きくなった怒張を妻の花芯にあてがいました。

「ちょっと、田中君。

バックでは無理よ、止めて」

それが、本気の拒否なのかどうか私にはわかりませんでした。

しかし、田中君は哀願する妻を無視して、白く肉付きのよい臀部の中心に凶棒をねじ込みました。

「あああっ」

第十七章
一気に刺し貫くのかと思いきや、亀頭部分だけで動きを止めます。

このあたりは先ほどまでの妻の教えに忠実でした。

「ああっ、大きい。

だめ、やっぱり無理よ」

妻は四つん這いで腰の辺りをがっしりと掴まれ、身動きの取れない不自由な体勢のまま、顔だけを後ろに向け哀願していました。

「大丈夫。

ゆっくり、やさしくしますから、ね」

「そんな、ああ、だめ、おっきい、おっきすぎるわ」

妻は枕を両手で抱きしめ、顔を埋めながら答えます。

それからも妻のレクチャー通りに、腰の抽送をゆっくりと、徐々に深く繰り返していきます。

妻の肉体が彼の大きさに慣れてきたのか、先刻までよりはスムーズに彼の巨根を飲み込んでいきました。

今更ですが、当初の予定では私が妻を抱く順番だったことを思い出していました。

しかし、妻も田中君も、そのことには全く考えが及んでいないようです。

それどころか、すでに私の存在すら目に入っていないように見えました。

そして、私もそのことに憤りを覚えるでもなく、身動きすることすらできないほどの興奮で、ただ二人の姿に目を奪われ続けていました。

「あああっ、すごい奥に、奥まで当たってるっ」

先刻以上に髪を振り乱し、もだえ続ける妻の姿に比べて、田中君には余裕が感じられました。

息を荒げ、恍惚の表情を浮かべてはいるのですが、その目は冷静に、妻の反応をうかがっているように見えます。

「奥さん、大丈夫ですか」

「ああああ、大丈夫」

「痛くない?」

「痛くない、いい、いいの」

「気持ちいい?」

「いい、すごい、気持ちいい」

「もっと突いてもいい?」

「ええっ」

「これくらいは、どうっ」

「ああああっ、だめっ、やめて、壊れちゃう」

「今の言い方は、やめなくて、いいんですよねっ」

彼は一旦、肉棒を抜ける寸前まで引き抜くと、勢いよく妻の臀部めがけて腰を打ち付けました。

「ああーー、そうよ。

お願いぃ、やめないでっ」

「ああっ、奥さん。

すごい、締め付けられる」

なおも彼は、筋肉の鎧のような巨大な下半身を大きく前後させ蹂躙し続けます。

パンパンパンパン

とうとう妻の蜜壷は彼の巨大な肉棒を全て飲み込み、今や彼の下半身が、強烈に妻の豊満な尻肉を打ち付ける音が響いています。

「あう、あうー、だめっ、だめーーーー、おかしくなっちゅうーーー」

「ほんとはだめじゃないんでしょう?」

「いやーーー、お願い、許して、許してーーーー」

「許しませんよ、奥さん」

妻は涙声で絶叫し、よだれをたらしながら彼の凶棒から逃れようとしますが、彼は力強く妻のヒップをわしづかみにして引き寄せます。

「いやっ、もうだめ、おかしくなっちゃうーーーー」

私にはとても真似できそうもない、力強さと躍動感にあふれるピストン運動でした。

彼の下腹部と妻のヒップが激しくぶつかり合う音が一際大きく部屋中に響きます。

「ああ、いきそう、いくよっ奥さん」

「あああ、私も、いくっ、いっちゃうーーー」

妻は手をつき首と背中を弓なりに反り返らせながら、絶頂を迎えようとしています。

豊満なバストが、ちぎれるのではないかという勢いで激しく揺れ動いています。

「奥さんっ、もう、出る、出るっ、ああああーーーー」

「出して、出してっ、いやあああああーーーーー、もうだめーーーーーー」

「ああっ、あああああああーーー」

「いっくーーーーーーーー」

第十八章
その後も田中君は休む間もなく妻の体を求め続けました。

「嘘でしょ」と初めは戸惑う素振りを見せていた妻も、それが三回、四回と続くうちに理性のたかが外れたのかのように豹変し、私にも見せたことのない痴態をさらすようになっていきました。

「セックスの相性がいい」というのはこういうことを言うのでしょうか。

田中君のペニスの規格外の大きさにすら一夜にして順応した妻は回を重ねるごとに乱れ、よがり狂い、今では自分から田中君の上に跨り腰を振りかざすようになっていました。

妻と田中君は私の存在を忘れ、完全に二人の世界に没頭してしまいました。

その姿に、何度射精を繰り返しても固さを取り戻しつづけるほど興奮していた私でしたが、いつ果てるともしれない二人の狂態に少し疲れを覚え、黙って寝室を後にしてリビングに戻ると、冷蔵庫からビールを取り出しソファに身を沈めます。

ふと見上げたリビングの壁掛け時計は、21時になろうとすることころでした。

食事を終えて寝室に移動したのが20時前だったと記憶していますから、今宵の狂乱の宴が始まって小一時間しか経過していないことを知り、少なからず驚きを覚えました。

それほど濃密な時間だったということなのでしょう。

それは、これまでの二十年間の夫婦生活の中でも体験したことのない刺激でした。

「すごい。

すごいことをしてるんだな、俺たち」

そう独りごちて呟く私の耳に、妻と田中君の嬌声が寝室から漏れ聞こえてきます。

半分以上残った缶ビールを一気に煽ると突然の睡魔に襲われ、そのまま深い眠りに落ちました。

第十九章
目が覚めたときには、窓の外からカーテン越しに陽が差していました。

目をこすりながら時計に目をやると、七時をまわったところです。

二日酔いなのか、若干の頭痛を感じながら目をこすります。

しかし、ドアの向こうから漏れ聞こえる妻の嬌声を聞いた瞬間、眠気が一気に吹き飛びました。

「嘘だろ」

私が寝入ってから十時間。

行為が始まってからは十一時間以上経っているのです。

後から妻に聞いてわかったことですが、文字通り一睡もすることなく彼は妻を抱き続けたそうです。

私はリビングを出ると少し開いた寝室のドアに手をかけ、中を覗き込みました。

寝室の中にも朝日が差し込み、ベッド上の二人の姿がはっきりと見てとれます。

妻は私ともほとんどしたことのない騎乗位で繋がっている最中でした。

仰向けに横たわった田中君の上に、妻が全身を仰け反らせながら跨っています。

「ああん、ああん、すごいーー、すごいのーーーー。

壊れちゃうーーー」

田中君が腰を突き上げるたびに、妻の豊満な胸が、たぷんたぷんと音を立てるように勢いよく上下に揺れ動いています。

二人の周辺だけ、汗と妻の愛液でシーツの色が変わっていました。

「奥さん、どう、気持ちいい?」

「ああーーー、よすぎる、こんなの、こんなのはじめてーーー」

一晩中叫び続けていたのか、妻の声は掠れ、獣の唸り声のようです。

ベッドの脇には十個以上の使用後のゴムと、無数の丸まったティッシュが散乱していました。

「もっと突くよ、ほらほらほら」

「だめ、だめ、だめっ。

またいっちゃう、いっちゃうよーーーーー、いっっっくーーーーー」

全身をビクッビクッ痙攣させて、田中君の厚い胸板に倒れこむ妻。

「また、いっちゃった?俺はまだ、まだだよ、ほらほらっ」

田中君は下から妻の尻肉を両手で抱え込むように鷲づかみにすると、休むことなく突き上げます。

「いやぁーーーー、ごめんなさい、許して、許してーーー」

髪を左右に激しく振り乱しながら、そう絶叫する妻は涙声で、哀願するように田中君の首に両腕でしがみつきました。

次の瞬間に田中君が口にした予想外の言葉。

それは寝起きで弛緩していた私の全身に、冷や水を浴びせかけるような一言でした。

「奥さん、ご主人と比べて、どう?どっちがいい?」

妻の両肩をつかみ、引き剥がすようにして彼女の上半身を起こし彼が尋ねます。

その表情は妻を征服した自信に満ち溢れています。

「だめーーー、そんな、そんなこと、言えないですーー」

涙とよだれで顔を濡らしながら、そう答える妻の表情は、抗いようのない大きな力に無理やり屈服させられえた被虐的な喜びに打ち震えているように見えました。

「言わないと止めるよ」

再びヒップを抱き寄せ、腰の動きを早める彼。

「いやーー、言う、言うから、止めないでーーー」

今や、妻も自ら腰を上下左右に振り動かし、その姿は暴れ馬に跨るロデオのようです。

「じゃあ、言って」

「はいっ、ああああーーーー、主人より、田中君のほうがいいっ。

気持ちいいのーーーー」

「何が、どういいの?」

「ああああ、おちんちんが、おちんちんがいいのーーーー」

「ああっ、奥さん、おちんちんじゃわかんないよ」

「ううっ、意地悪っ。

もう、これ以上は許して」

「だめだよ。

ちゃんと、奥さんの口から、もっといやらしい言葉で、聞かせて。

言わないと止めるよ、ホントに」

「嫌っ。

言う、言うからーーー。

お願い、止めないでーーー」

「なら、言って。

ほら、言えっ、言うんだっ」

「チンポ、チンポが、ああ、またいくっ、田中君のチンポがーーー」

「ああ、俺もいきそうだ、チンポが何っ?」

「田中君のチンポが、主人のより、全然、比べものにならないくらい、おっきくて、すごい気持ちいいいのーーーー」

「あああああ、奥さん、いくいくいくよーーーーー」

「きてっ、きてっ、ああああーーーー、私も、いっくーーーーーーー」

私は、ドアに白濁液をぶちまけると、静かに寝室のドアを閉めました。

そのままリビングに戻りソファに横になると、再び強い疲労感に襲われ、まどろみながら意識を失いました。

第二十章
下半身に強い疼きを覚えて、意識を取り戻しました。

薄く目を開けると、私は白い人影に組み伏せられているようです。

意識がはっきりするにつれて、それが裸の妻であることがわかりました。

そして、妻と私の下半身が繋がっていることに気づくと同時に、なにか普段と違う心地よさを感じ、鳥肌が立ちました。

その理由が、固くなった私自身に絡みつく、妻の粘膜の熱、そして触感にあることを認識した私は、戸惑いながらカラカラに渇いた口を開きました。

「由美、田中君は」

「一時間くらい前に帰ったわ」

時計を見上げるとお昼を過ぎています。

後から妻に聞いた話では、ちょうど私が目にした辺りが最終盤だったようで、あの後、二人は眠りにつき、昼前に起きた彼は、何度もお礼を言いながら帰宅したということでした。

久しぶりに味わう妻の生々しい感触に、早くも果てそうになりながら会話を続けます。

「そうか、それで、どうしたんだ」

「どうしたって、なにが?」

「おまえがこんなことするのが、初めてのことだし、それに、つけてないだろう?」

「うん、つけてない。

だめ?」

「だって、もう子供はいいって、おまえが言ったんだろ」

「そう、だっけ」

「そうだよ、ううっ」

結婚してから数年間、子宝に恵まれないことに悩んだ時期もありました。

しかし、元々私も妻もそれほど強く子供を望んでいたわけではありませんでしたし、世間でよく聞くお互いの両親からのプレッシャーがなかったこともあって、不妊治療を受けたりはしませんでした。

できないものはしょうがない。

二人ともそう思っていました。

結婚後十年以上がたち、お互いに三十台半ばを迎えたころから、それまでつけていなかった避妊具を使用するようになりました。

提案したのは妻からでした。

「今からできちゃったら、かえって大変だと思うの。

子供を欲しいという気持ちがまったく無いわけじゃないけど、お互いの立場を考えたら、これから子育てするっていうのはリスクのほうが大きいんじゃないかって。

なにより、私、今のままで十分幸せだわ」

妻の考えには十分な説得力がありましたので私もそれに賛同し、以来セックスの際には必ずゴムを着用するようになっていました。

ですから、数年ぶりに生で味わう妻の蜜壷の感触に、快楽を感じるより先に戸惑いを覚えてしまったのです。

両手を私の胸板に乗せたまま、前後左右に腰を動かし続けます。

ベッドに膝立ちになっていた姿勢を改め、蹲踞のような体勢で両足を大きく開き上半身を上下させ始めます。

より深い挿入感が得られるようになりました。

「ああ、由美、いいよ、よすぎる」

「あなた、私も、いいの」

「ごめん、もういきそうだ」

「ああ、私も、いく、いっちゃう。

ねぇお願い、一緒に」

「ああ、もうだめだ、いくよ」

「ああっ」

妻は私の上に倒れこみました。

互いの両腕、両足を絡め、強く抱きしめ合います。

私の首筋を、熱い液体が濡らすのを感じました。

妻の涙でした。

「あなた、ごめんなさい」

「いいよ」

「あんなことになるなんて、思ってなくて」

「いいんだよ、元は俺から言い出したことだ」

「ごめんなさい。

嫌いになった」

「いや」

「ほんとに」

「ああ、むしろ前より好きになった」

「ああ、あなた」

「由美」

「また、大きくなってきたわ。

もう一回、抱いてくれる」

私は無言で妻を抱きしめる腕により力をこめると、きつく唇を重ねました。

妻の中で再び勢いを取り戻す自分自身を感じながら、言いようのない充足感と虚無感とが私の中で交錯していました。

これで終わった。

私たち夫婦にとって初めての、そして最後の寝取られ体験が。

そのときは確かにそう思っていました。

第二十一章
それから三ヶ月ほどが経過した、厳しい残暑がようやく終わろうとしている初秋の我が家。

リビングにはあの夜以来始めて、我が家を訪れた田中君の姿がありました。

真っ黒に日焼けした彼の表情は晴れやかで、弁舌も爽やか、前のようにおどおどしたしぐさはまったく見られなくなっていました。

「西村さんと奥さんには、ほんとに、感謝しています」

深々と頭を垂れた後、以前の彼からは想像もつかないような大きく、歯切れの良い声が部屋中に響きました。

男子三日会わざれば、という言葉を思い出しました。

自信に満ち溢れた彼は、あの夜の前とはまるで別人のようで、生きているのが楽しくてしかたないといった印象です。

あの後、私と妻は毎晩のように愛し合うようになりました。

正直、田中君の狂棒を知った後の妻が、私のものでは物足りなくなってしまうのではないかという不安はありました。

しかし、その心配は杞憂に終わりました。

妻はこれまで以上に感じ、乱れ、よがり狂う姿を私とのセックスでも見せてくれたのです。

私の愛し方が変わったとは思えませんでした。

いえ、やはり変わっていたのかもしれません。

あのことがなければ、妻に毎晩求められても応えることはできなかったでしょうから。

私は、田中君が三ヶ月ぶりに我が家に来ることが決まった後、昨夜の妻とのセックスを思い出していました。

「ああ、あなた、すごい、また、いく、いきそうなの」

私はこの夜、二度目の放出を目前にしていました。

バックで繋がっている妻は何度目かわからないほどの絶頂を迎え、自らヒップを私の下半身に打ちつけてきます。

「由美、今日はいつもよりすごい、乱れてるんじゃないか」

「ええっ、そうかしら」

「もしかして、明日、田中君が食事に来ることになったから、その後のことも期待してるのか?」

「そんな、そんなことないわ。あれは、一度だけの約束だったでしょう」

「そうだけど、もし、もしもさ。明日、夕食の後で俺が酔いつぶれて、田中君に求められたら、どうする」

「それは、そんな」

「俺は構わないよ。お前が望むなら。俺自身もう一度、おまえが田中君に、いかされまくるところを見てみたいし」

もちろん、本気ではありません。

この頃には、そんな言葉遊びをする余裕が二人の間にできていました。

「ああ、そんなこと言わないで。今は、あなたの、あなたの精子が欲しいの」

妻は臀部を一層激しく私の下半身に向けて打ちつけます。

「ああ、もう、いきそうだ」

私も負けじと、力強く、妻の腰の動きに合わせ下腹部を叩きつけました。

「ちょうだい、あなたのを、私の中に」

「ああ、出るよ、子宮の中に、出すぞ」

「出して、私の中に、たくさん、たくさんかけて」

「出すぞ、出すぞ、ああっ」

「あああっ」

うつ伏せに倒れこんだ妻の背中に、繋がったまま倒れこむと、妻の両肩を背後から強く抱き寄せ、汗で濡れた首筋に唇を落としました。

「由美、愛してる」

「私も」

第二十二章
「あれ以来、すべてに自信がもてるようになったというか、ラグビーもそうですし、美佐に対してもそうです」

昨夜の妻との情事に思いを馳せていた私は、田中君の言葉で我に返りました。

彼女とよりを戻せたことは妻も私もメールで聞いて知っていました。

「そう、よかった」

妻は顔を赤らめ答えます。

彼女が田中君とのセックスを思い出していたのか、その後の私とのそれを思い出していたのかは知る由がありません。

「昨日、国体の選抜チームに選ばれたって連絡がありまして、今日はその報告も兼ねてお邪魔しました」

「すごいじゃない、おめでとう」

あれから三ヶ月以上たつのにも関わらず、妻の「すごい」という言葉に反応して心臓の鼓動が大きくなってしまいます。

「よかったじゃないか、おめでとう」

努めて平静を装い私も祝福の言葉をかけました。

「ありがとうございます」

「そう言ってくれれば、もっとお祝いらしい食事を用意したのに」

「いえ、これでも十分なご馳走です」

「そうだ、少しいいワインがあったはずだわ。持ってくる」

「そんな、お食事だけでも十分です。それにお礼をしなければいけないのは僕のほうなのに」

「それとこれとは別よ。

それに私だってすごく嬉しいの。

あなただって、ねぇ」

「うん、うちの大学から国体に選ばれるなんて、たぶん創部以来はじめてのことだと思う。君は学校にとってもそうだが、私たちにとっても誇りだよ」

これは私の本心から出た言葉でした。

あの夜抱いた嫉妬心は、その後、妻との絆をより深く感じることで、今や彼に対する深い感謝に昇華していたからです。

「そんな、お二人が僕のために、お体を張ってくださったから。なのに、そんなことまで言っていただいて」

彼の両目から大粒の涙が溢れ出しました。

妻の太もも程もある太い袖で顔を拭きながら、肩を震わせながらむせび泣く彼に、妻はもらい泣きしています。

「体を張ったのは妻だけなんだけどな」とは言わず、私も胸が熱くなるのを感じました。

「さぁ、せっかくのめでたい席なんだから、湿っぽいのはよそう。田中君も、泣くのは国体チームでレギュラーになって、天皇杯を取ったときにしろ、な?」

「はい」

尚も規格外の量の涙で頬を濡らし続ける彼に、私はボトルを差し出しました。

第二十三章
その後の田中君の活躍はめざましいものでした。

本来の資質を開花させた彼は国体チームでも中心選手となり、本大会でも決して前評判の高くなかった本県選抜チームをベスト4に導く原動力となりました。

さらに、その活躍が認められ、ユニバーシアード七人制日本代表の選考合宿に呼ばれるまでになったのです。

私と妻は彼の試合を欠かさず観戦に行くようになっていました。

そして一試合ごとに成長していく彼の雄姿を我が事のように喜びました。

彼の生活は一変し、多忙を極めるようになってからは、我が家へ来ることもほとんどなくなっていきました。

私も妻も寂しさを感じてはいましたが、それは同時に彼がラガーマンとして順調に成功への階段を駆け上がっていることの裏返しでもあったので、気持ちの折り合いをつけて彼の応援に没頭しました。

田中君にとっての飛躍のシーズンは瞬く間に過ぎ、再び春を迎えました。

突然、彼から電話があったのは大学の春季休暇を目前にした頃でした。

大学の食堂で昼食をとっていたときです。

「お久しぶりです」

「おう、どうした。

代表の海外遠征中じゃなかったのかい」

「一昨日、帰国しました。

昨日こちらに戻ってきたところです」

「ああ、そうだったのか。

疲れたろう、どうだったい、海外遠征は」

「はい、おかげさまで、怪我することもなく、無事に。

それで、あの突然で申し訳ないのですが、西村さん、今日か明日の夜、お時間とっていただけませんか?」

「ん、ああ、いいよ。

久しぶりだから嫁も喜ぶと思う。

今から連絡とってみて、都合がつくようなら今日でもいいよ」

「いえ、その、できれば、外で。

二人でお会いしたいのですが」

「それは構わないけど」

田中君の声色にただならぬものを感じ、電話を切った後、少し心が粟立ちました。

第二十四章
「これ、おみやげです。あまり時間がなくて、気の利いたものが買えなかったのですが」

「ありがとう、ただでさえ忙しい遠征中に気をつかってもらって悪かったね」

いつものショットバーのカウンター席。

田中君は深緑色の紙袋を私に手渡すと、前置きもなく今日のお題に話を移しました。

「あの、実は、美佐とのことなんですが」

「ああ、彼女も寂しがってるだろう。

僕たちのことは気にせず、もっと時間を作ってあげたらいいのに」

「昨日、代表チームが解散した後、まっすぐ彼女のアパートに行きました」

「そうか」

そこで何かがあったであろうことは話の流れから想像がついたのですが、軽く相槌をうち話の続きを促しました。

「それで、その、久しぶりだったのと、海外遠征ですごく刺激を受けたのとで気分が昂ぶっていまして」

「刺激って、まさかお前、オーストラリアのパツキンお姉ちゃんにじゃないだろうな」とは言いませんでした。

ラグビーの世界レベルを知ったということなのはすぐにわかりましたし、なにより、彼の様子は冗談を言うのが憚られるほど沈んで見えたからです。

「結論から言います。

実は、僕、美佐にお二人とのことを話してしまいました」

口に含んだシングルモルトを噴き出しそうになり、慌てて飲み込むと今度は激しく咳き込んでしまいました。

チェイサーのグラスをつかむと一気にを呷り、落ち着いたところで彼に向き直り尋ねます。

「嘘だろ」

「ほんとにすいません」

「それは。

食事のことじゃなくて、つまり、あの夜のこと」

「すいません」

彼が深く頭を下げるのですが、そもそも座高が違うので、私は見上げる格好のまま腕を組んでため息を漏らします。

「それは、そうか、うーん、しかし、それは」

「ほんとに、何て言ってお詫びしていいか、すいません」

彼は肩を震わせ頭を下げたまま謝罪の言葉を繰り返します。

「まぁ、それは、わかった。

それで?彼女の反応はどうだったんだい?」

ようやく顔を上げた彼の両目は潤み、その上の極太の眉毛を八の字に垂れ下げた表情の弱弱しいことといったらこの上ありません。

グラウンド上で見せる、敵に噛み付かんばかりの野獣のような表情を知っている私からすれば、同じ人物とは思えませんでした。

知り合った当初の、消え入るような声で話を続けます。

「実は彼女、前からおかしいとは思っていたようなんです。

僕の、変わりようっていうか、急に自信をもった態度をとるようになったことを」

「うん、まぁ、それは彼女じゃなくてもそう思ったやつは多いかもな」

「もちろん、そのことについて聞かれても僕は答えをはぐらかしていたんです。

ただ昨日は彼女を抱いた後、久しぶりのお酒で酔っていたこともあって、気が大きくなっていたというか。

いや、こんなこと言い訳にしかなりません、すいません」

「いや、済んだことはもういいよ。

それで、そのことを聞いた彼女はなんて言ったんだい?」

「怒りました」

「そりゃ、そうだろうなぁ」

彼女が怒りにまかせて、このことを口外してしまうのではないか。

真っ先に心配したのはそのことです。

しかし、話は予想外の方向へと進んでいきました。

「怒るには怒ったんですが、その、彼女は『ずるい』って言うんです」

「んん?」

「つまり、僕が、いわゆる浮気をしたことを『自分ばっかりずるい』ってことなんです。

でも、西村さんもご存知のとおり、あの時は彼女から別れを告げられた後でした。

厳密に言えば、浮気でもなんでもないんです。

だから、そのことも話したんですけど聞く耳をもたなくて」

「それで?」

「その、大変申し上げにくいことなんですが、彼女の言い分としては、自分にも同じことをさせろってことなんです」

すぐには彼の言っていることが理解できませんでした。

初めは、彼が外国で怪しげなカルトの宗教にでも染まってきたのかと思ったくらいです。

「えーと、ちょっと、ちょっと待ってくれ。

それは、つまり、私と君と、君の彼女の三人で、ってことか?」

他に客はいませんでしたが、マスターの視線を気にして、小声で答えました。

「いえ、それが、その、少し違ってまして」

私に合わせて、声のトーンを低くした彼が、肩をひそめて話します。

「どう、違うの?」

「奥さん、西村さんの奥さんも一緒にって」

「ええ?それは、おかしくないか?君の彼女は何を考えてるんだ?」

「そうですよね、そう思いますよね。

西村さんからそういう言葉がでることは彼女も予想していました。

それで、もしよかったら、今度、直接、彼女から話を聞いてもらえませんか」

「彼女と?電話で?」

「いえ、日を改めて別の場所で。

西村さんが今日、この場で拒否されないようなら、自分の口から説明したいってことなんです」

私は大きく息を吐き出しながら、リキュールグラスの中に残るラガブーリン16年に視線を落としました。

深い琥珀色の液体が波打っているのを見て、自分の手が震えていることに気づきました。

第二十五章
数日後、待ち合わせ場所の別のバーで待っていると、彼女が扉を開くのが見えました。

カウンター席で小さく手を挙げた私の姿を認めると、彼女は小さな歩幅で歩み寄り、止り木の脇で頭を下げます。

白いブラウスと膝丈の黒いジャンパースカート、腰まで伸びた黒髪をハーフアップにした彼女の姿は、高校生の令嬢が場末の酒場に迷い込んだようにも見えて、およそこの場には似つかわしくない印象です。

私は思わず周囲の目を気にしてしまいました。

「こんばんは、その節は大変お世話になりました」

直接、顔を合わせるのは約半年振りでした。

「こんばんは」

「今日は、私の無理なお願いのために貴重なお時間を割いていただいてありがとうございます」

彼女の物腰は、その容姿から受ける印象とは裏腹にとても落ち着いて見えます。

むしろ私のほうが慌てふためき、平常心を失っていました。

「いや、それは全然、構いません。

えーと、そうだ、飲み物はどうしようか?」

彼女は私の隣に腰掛けると、自然な仕草でワインクーラーを注文しました。

「すいません、こんな不躾なお願いをする席でお酒を頼むなんて。

ただ、お酒の力を借りないと最後までお話できる自信がなかったものですから」

「いいよ、ここはお酒を飲む場所なんだから、気にしないで」

「ありがとうございます」

それから、田中君のラグビーの話題などで少し舌の動きを滑らかにした後、ようやく落ち着きを取り戻した私から、本題を切り出しました。

「それで、田中君から聞いた話なんだけど、僕にはどうにも信じられないんだ。

普通、いや別に君が普通じゃないっていってるわけじゃないんだけど、一時的に別れていたとはいえ、自分の彼氏から、そういうアブノーマルな行為を告白された場合、怒って別れるか、黙って受け入れるか、どっちかだと思うんです。

ところが、君は同じ行為をしてみたいと言う。

それは、その、どうしてなんですか?」

「はい、あの、正直言って、自分でもよくわかりません。

たぶんあの時は、私の知らないところで気持ちいい思いをした彼を『ずるい』って、ほんと単純な気持ちでそう言ってしまって。

でも、そのときはまさか本当に彼が西村さんにその話をするとは思っていませんでした」

「それは彼に対する嫉妬とは違うの?」

「もちろん、そういう部分もあると思います。

西村さんの奥様のことは存じ上げませんが、彼がそのとき、その、すごく魅力的な女性と最高の体験をしたと話すものですから」

妻を褒められるのは悪い気がしませんでしたが、それを聞いたときは、やはり、約束を反故にした田中君を腹立たしく感じました。

「それで君が、彼にも自分と同じ思い、嫉妬心を抱かせたいと考えた、としてもですよ。

やっぱり、それは随分無茶な提案じゃありませんか。

君みたいに若くて可愛らしいお嬢さんが、いくら彼に嫉妬してほしいからって私みたいな中年親父の相手をすることはないと思うんです。

君ならもっと若くて格好いい浮気相手を見つければいいだけなんじゃないかい」

私は一番疑問に感じていた点を彼女に投げかけました。

「いえ、それじゃだめなんです」

「どうして」

「西村さん、私と始めて会われたときのこと覚えていますか?」

「ああ、いまどき珍しいくらいに折り目正しい、とても可憐なお嬢さんだと思ったよ」

私は酒の後押しもあって、そのときの印象をありのままに答えてしまいました。

彼女はすこしはにかむような笑顔を見せて続けます。

「私あの時、すごく感激したんです。

帰国したばかりで、日本の大学のシステムもよくわからなくて不安ばっかりで。

西村さんが親身になって、奨学金以外のことも相談に乗ってくれたのが、大げさでなく涙が出るくらい嬉しかったんです」

そう、彼女は帰国子女の編入生でした。

両親は仕事の都合で今もアメリカにいるらしく、初めての土地、初めての日本の大学生活に心細い思いをしていることを聞き、必要以上に便宜を図ったのは確かでした。

それが単なる親切心だけからくるものではなかったことは自分でも認めています。

数年前に田中君にも同様の相談をされていますが、彼女の相談に費やした時間はそのときの10倍以上だったでしょう。

「あの夜、マー君からその話を聞いたとき、これまでにないくらいのショックを受けました。

頭が一瞬真っ白になった後、すぐにカーっとなって、私が同じことをするのを見たらマー君はどう思うのだろうって想像したときに、真っ先に浮かんでいたのは西村さんのことだったんです」

彼女の大きなアーモンド形の瞳で見つめられ、私は年甲斐もなくドキドキしてしまいました。

明らかに動揺しているのを隠すように、ひとつ咳払いをしてから答えました。

「それは、ええと、僕としても、君にそんなことを言われると、どうしていいか」

あほか、俺は。

自分で自分が情けなくなりました。

ただ、あまりに突然に、親子ほど年の離れた女性から好意を告げられたことで、どう答えていいかわからなかったのも事実です。

もちろん、ここに来る前は「毅然と、彼女を傷つけないように今回の話は断ろう」そう考えていたのです。

いたのですが、迷いもありました。

その煩悩が優柔不断な醜態を晒す原因となりました。

「こうなってしまった以上、正直に全部お話します。

私と田中君のお付き合いはとても順調だと思いますし、私も今すごく幸せです。

でもセックスだけは、どうしても満足できないんです」

女子高生と言っても違和感のない彼女の口からセックスという言葉が当たり前のようにでてきたことに、面食らいました。

「以前に比べれば、そう、西村さんご夫妻とのことがあってからは随分よくなったんです。

その前は苦痛でしかなかったのが、今はオルガズムとはいかないまでも快感を得られるようになりました」

オルガズムの発音が、ネイティブすぎて、耳にした瞬間は意味がわかりませんでした。

「それでも、我慢できないほど不満ってわけではなかったんです。

ほかは充足してるんだから、セックスのことだけなら些細な問題として受け入れようって考えました。

どうしてもオルガズムを感じたいときは、その、恥ずかしいんですが、マスターベーションで事足りましたし」

再び、発音がよすぎて意味を理解するまで数秒を要しました。

理解した後は彼女のそのときの姿を想像して、耳まで赤くなってしまいました。

「でも、彼からあのことを聞いた瞬間、我慢できなくなったんです。

そして、西村さんとなら、きっと満ち足りたセックスができるんじゃないかって。

『ずるい』って口走ってしまったのは、そんな私の思いがあったからかもしれません」

「どうして、僕となら、その、満ち足りると思ったのかな」

「それは、女の勘っていうか。

子宮が反応するんです。

正直、今の西村さんの指を見てるだけで少し欲情しています」

目の前で清楚な外見の彼女が発する言葉とのギャップに、私は軽いパニックを起こしていました。

「なんだ、この娘はなんなんだ。

俺の感覚が古いだけで、今時の女の子は皆こんな感じなのか?それともアメリカ帰りだからなのか?」酒量はさほどでもないはずなのに、足元がふわふわして焦点がぼやけはじめるのを感じながら尋ねました。

「もうひとつ聞きたいことがあるんだけど、答えてもらえるかな」

「はい」

「妻も一緒にっていうのは、どういうことなんだろう?妻が承諾する可能性を考えたら、すごくハードルをあげちゃってる気がするんです。

あ、もちろん私だけなら即オーケーってわけではないんだけど」

正直に言うと、即オーケーでした。

今、この場で彼女に誘われていたら、断る自信はありません。

「西村さんの奥様がそうだったように、私も一回限りって考えてます。

でも、奥様に内緒で私と西村さんの二人、あるいは田中君を交えて三人でしたら、ずるずると続いちゃいそうな気がして。

それは、絶対避けないとだめだって思って」

その気持ちには共感できる部分がありました。

この前も、仮に妻と田中君が私の目の届かないところで行為におよんで、それを聞かされるだけだったら、疑心暗鬼にかられ、その後妻と絆を深めることはできなかったかもしれません。

「それは、まぁ、わかるような気もします。

でも、それと妻が受け入れるかどうかは別問題だ」

「西村さんは受け入れてくださったんですか」

「んん。

それは、その、妻と相談してみないと」

ばかっ、ばかっ、ばかーーーーーー。

どこまでも煮え切らない自分に向かって、心の中で叫びました。

「なら、奥様も交えて、もう一度お話しませんか」

「ええと、僕はかまわないけど、大丈夫かな」

私の態度に業を煮やしたのか、突然彼女の語気が鋭くなりました。

「西村さん、いいかげんにしてください。恥ずかしいのを我慢して、ここまで明け透けにお話したのに、その態度。正直、馬鹿にしてるとしか思えません。これ以上、私に恥をかかせるなら、私も考えますよ。今回のお話、イニシアチブを握っているのは私だってこと、忘れないでください」

酔いがまわったのか、少し頬を赤らめ、大きな瞳を潤ませて私に食って掛かる彼女の表情に気圧されながらも、その様子に見とれている自分がいました。

「怒った表情まで可愛らしい」

そう感じながら、同時に「田中君が彼女に押し切られたのも無理ないな」と妙に納得してしまいました。

今にして思えば、この時点で私は彼女の魅力の軍門に下っていたのでしょう。

傲慢ともとれる二十歳前の娘の主張に、何ひとつ反論できないまま、肩をすくめこう答えるほかなかったのですから。

「はい。すいません」

第二十六章
美佐君との会談(と言うにはあまりに一方的なものでしたが)を終えた夜、ここ数日の顛末を妻に伝えました。

「だめよ、そんなの」

私の話が終わらないうち遮る妻の口調は、明らかな怒気をはらんでいました。

妻の反応は予想とおりでしたし、もっともなものでしょう。

「彼はいまや将来の日本代表をしょって立つとまで言われる大学ラグビー界のスターなのよ。

この前とは立場が違うの。

もし、こんなことが公になったら彼の将来に傷がつくどことの話じゃなくなるのよ。

あなたそれをわかって言ってるの?」

そうです、この一年の間に私たち夫婦と彼の立場、それに伴うリスクも逆転していたのでした。

妻の言い分には全くの隙間もありません。

完全無欠の正論でした。

「その通りなんだけどさ、彼女の態度がどうにも気になるんだ」

「もしこの話に乗らなかったら公表するってわけ?そんなこと私が許さないわ。

そんなバカな小娘、なんなら私が直接話をつけにいってもいい」

妻の普段使わないとげのある言葉に驚き、たじろいでしまいました。

「そんなことして、話がこじれたら余計に大変なことになるかもしれないだろ。

なるべく穏便に済ませる方法を考えようよ」

「穏便って、それが小娘の提案に乗るってことなの?あなた、どうかしてるわよ。

本気で田中君のことを心配してるの?その小娘を抱きたいだけなんじゃない?」

正直、痛いところを突かれた思いがしました。

しかし、長い夫婦生活の中でも数えるほどしか見たことがない剣幕でまくし立てる妻を前に、それを認めるわけには断じていきません。

「由美、落ち着いて考えてくれよ。

例えばさ、俺たちが泥棒一味だったとするだろ。

それを第三者に知られてしまったとき、そいつの口を封じるには仲間に引き入れてしまうのが一番安全だと思わないか?」

事前に用意した例え話とはいえ、我ながら苦しい理屈だなと感じずにいられません。

「思わないわ。

仲間になったからって裏切らない補償はないでしょう」

話し合いともいえないほど、終始彼女のペースで会話は進んでいます。

私はサンドバッグの気持ちがよくわかる気がしました。

「まぁ、それを言っちゃおしまいなんだけどさ」

「それに口を封じるなら、もっと簡単な方法があるかもしれないじゃない」

妻の言葉の真意はわかりませんでしたが、私には既に彼女がイタリアンマフィアの女ボスに見え始めていたので、意味を考えないようにするのが精一杯でした。

「とにかく、一度会ってみようよ。

その、田中君の彼女に。

案外、信頼をおけるかもと思えたら、お前の考えも変わるかもしれないし」

「そうは思えないわ。

そんないやらしい要求してくる時点で、田中君の彼女にふさわしいとさえ思えません」

「なぁ由美、そんな感情的になってたら、話が進まないよ」

「感情的になんかなってません」

数十秒の気まずい沈黙。

すでにボロ雑巾のようになるまで打ちのめされた私は言葉を継ぐことができないままでした。

口を開いたのは妻でした。

「でも、まぁいいわ、今いったとおり、まず彼女が彼にとってふさわしいかどうか、それを見定めるだけでも会う意味はあると思うから」

妻は立ち上がり、乱暴にドアを閉めてリビングから出て行きました。

途方にくれて、つけっぱなしのテレビに目をやるとジャイアンツ対ソフトバンクの中継が映し出されています。

スコアは12対0。

大量リードを許し虚ろな表情の巨人の選手たちが、自分の姿に重なって見えました。

第二十七章
翌日、妻の反応を伝えるために田中君に電話をかけました。

彼女のいささかヒステリックとも言える反応を包み隠さず伝えると、受話器の向こうから大きく息を吐く音が聞こえてきます。

私もため息を返したい心境でしたが、とりあえず田中君の心情を聞いてみるのが先だと思い会話を続けました。

「なぁ、君はどう考えているんだ。

今回のこと」

「はい、正直言ってどうしていいかわかりません。

ただ、美佐が考えを改めて、西村さん達とのことをなかったことにしてくれてば、それが一番ありがたいとはおもっています」

「なら、そうはっきり彼女に伝えればいいじゃないか。

さっき言ったとおり妻は猛反対なんだよ」

「そうですよね、でも、西村さんも直に話してみてわかったと思うんですが、彼女の勢いときたらあのとおりで」

「そう、だよな」

女性陣の迫力に押されっぱなしの我々二人は、申し合わせたように同じタイミングで深いため息をついていました。

「これは、西村さんだから正直に話しますけど。

僕も奥さんと、もう一度っていう気持ちがないわけじゃないんです。

その位あの夜の体験は素晴らしいものでした。

でもその姿を彼女に見られるのはちょっと、というか、かなり抵抗があります。

なにより彼女がほかの男性とそういうことをっていうのは。

いえ、自分勝手なことなのは十分承知の上ですが、お相手が西村さんとはいえ、やっぱり、それは見たくないです」

「妻も、似たような考えでいると思う」

「西村さんはどうお考えなんですか。

僕はさっきもお話したように、どうしていいかわかりません。

最終的な判断は西村さんにお任せするつもりでいます」

私が美佐君を抱きたいと思っていたことは否定しません。

田中君がもう一度妻を抱く姿を見てみたいという邪な欲望もありました。

ただ一方で、それが元で私たちの関係がややこしくなってしまったり、社会的な立場が不安に晒されることは避けたいという現実的な判断もありました。

つまり、この企画、賛成度を数値で表すなら、美佐君100 私50 田中君と妻 0

といった感じでしょう。

中間の立場の私としては、多数派の妻と田中君の意向に逆らうことは難しいように感じました。

「うん、君の気持ちはわかった。

立場上、四人全員の意向を聞いた僕が最終的な判断を下すべきだという君の意見ももっともだと思う」

「はい」

「やっぱりよそう。

妻はかなり取り乱していたとはいえ、彼女の言い分が一番常識的だと思う。

君の言い分だってもっともなものだと思うし、やはり、ここは美佐君の主張が異常だということを本人にわかってもらえるよう、僕も含めた三人で説得するべきだろう」

「はい、そう言っていただいて安心しました。

実はかなり不安だったんです。

昨日の夜、西村さんとの話し合いを終えた美佐と僕のアパートで一緒だったんですが、誘ったら露骨に拒否されてしまったんです。

それで、まさかとは思ったんですが、二人の間で何かあったのかな、なんて妙な気持ちになってしまっていたものですから」

私は昨日のことを思い出していました。

実際、田中君が心配するようなことは何もありませんでした。

ただ、美佐君の圧力に押されっぱなしだった私は、彼女に聞かれるがままに、田中君と私たち夫婦が体験した酒池肉林の夜の一部始終をゲロしてしまいました。

そして、その光景に私がどれほどの快楽を感じたかということまで、まるで催眠術にかかったかのように洗いざらい話してしまったのです。

話しながら自分でも興奮しているのがわかりました。

そして、それを聞く彼女も同じように興奮を隠しきれない様子でした。

第二十八章
九州では桜の開花宣言が出されたその日、春先にしては汗ばむほどの陽気の中、田中君と美佐君が我が家を訪れたのは午後二時を回ったあたりでした。

私が玄関で二人を出迎えリビングに通します。

妻は愛想のない態度を隠そうともせず、テーブルに紅茶を注いだ白い陶磁器を並べました。

「はじめまして。

高橋美佐と申します」

深々と頭を下げる美佐君。

妻は一瞥をくれただけで「こんにちは」と素っ気なく一言返し早々とキッチンに引っ込んでしまいました。

私は早くも冷たい汗が首筋を伝うのを感じました。

美佐君には、妻と田中君の意向は伝えていませんでした。

なので、彼女が今日設けられたこの場に臨む気持ちと、我々三人のそれとの間に大きな乖離があることを知らないのは美佐君一人でした。

早くもその違和感を察したのか、美佐君は椅子に腰を下ろしながら上目遣いで私に不穏な眼差しを向けました。

私はいたたまれなくなり、とっさに目をそらし口を開きます。

「暑いね、今日は。

なにか昼間から一杯飲みたくなってきたな。

由美、冷蔵庫に冷えたビールがあっただろう。

田中君たちも、よかったらどうだい」

キッチンで洗い物をしているらしき妻からの返答はなく、重苦しい沈黙が流れました。

気まずさに耐え切れなくなったのか、田中君がティーカップに手を伸ばし、紅茶をすする音が室内に虚しく響きます。

「あの」

美佐君が、背を伸ばしたまま私を見つめ口を開きました。

「西村さん、お話が違うっていうか、そもそも話がまとまってないんじゃありませんか?」

図星の指摘に加え、冷たい眼差しで射抜かれた私は何も言えず俯いてしまいました。

「まとまるわけないでしょう」

背後から妻が発した威圧的な響きの声に、振り向きたくなるのを我慢してうつむいたままの姿勢を維持しました。

「やっぱりこうなるか」心の中で後悔しましたが、先には立ちません。

「どういうことですか、西村さん」

再び美佐君が私に向けて問い詰めるのを、うつむいて聞くしかできない私。

おそらく顔色は蒼白を通り越して真っ青になっていたことでしょう。

「高橋さんっておっしゃったわね。

あなた、いくつ?見た感じ、高校生でも通じそうですけど、もうすぐ成人になろうって年齢なんでしょう?」

「そうですけど」

妻の挑発的な口調に、美佐君も挑戦的な視線で返します。

「高橋さん。

あなたのお母様もたぶん、私とそう代わらないお年だと思うの。

だから、これは親の小言だとおもって聞いてください」

これまでの問い詰めるような口調から一転、急に柔らかな声で説いて聞かせるように話す妻の豹変振りに、思わず「上手い」と膝を叩きそうになりました。

緩急を使って彼女を説得しようとする猛獣使いの思惑に気づいた私は、ほとんど尊敬の眼差しで妻を見つめていたとおもいます。

「もっと、自分を大切にしてほしいの。

あなたみたいに綺麗で清廉なお嬢様が、田中君のような誠実な彼氏と純粋で実直な恋愛関係を育んでくれたら、これ以上のことはないと、きっとあなたのご両親もお考えになるんじゃないかしら」

「純粋、ですか」

「そう、私もそうだったからわかるけど、あなた位の年頃って自分にも自信があるから。

もっといい相手がいるんじゃないかとか、なんていうか、常に満足できないまま目移りしちゃうことがあると思うのね」

「はい」

「でも、実際はそんなことなくて。

私くらいになると思うの。

本当に自分に合ったパートナーとか幸せって探すんじゃなくて、気づくものだと」

そこに田中君とのセックスは含まれているのか、私として気になりましたが、まさかこの場で問いただすわけにもいかず、黙って聞いていました。

「なんだか、幸せの青い鳥みたいですね」

「そう、そんな感じ。

だから、ね。

田中君っていう素敵な彼氏を大事にして、二人の幸せに気づいてほしいの。

聞けば、田中君も今回の話にはあまり気乗りしていないっていうじゃない。

それなのに彼の気持ちを無視して、あなたの望むようなことをしたって、この先二人の関係にいいことはないような気がする」

「そう、ですね。

私にとって田中君が一番大切なことは間違いありません」

「でしょう。

そのことに気がついてくれれば、どうすればいいかわかるわよ、ね」

「はい、わかりました。

私がどうかしてました」

やけに従順な美佐君の様子が却って気になりました。

「よかった、わかってくれて。

見た目通り、聡明なお嬢さんでよかったわ。

ありがとう」

妻は自らの説得工作が成功したことを疑ってないようです。

「いえ、こちらこそ申し訳ありませんでした」

「さぁ、気を取り直して、食事にしましょう。

支度はできているから、座って待ってて」

妻を除く三人が席に座り、冷えた紅茶を飲んでいると、五分もせずにテーブルには料理が並べられました。

最初は重苦しい雰囲気だったのですが、アルコールが回るにつれて次第に四人の口も滑らかになり、料理の殆どが各人の胃の中に放り込まれたころになると、随分とにぎやかな宴席をなっていました。

この頃になると、私の美佐君に対する猜疑心もかなり薄まり「このまま丸く収まってくれるのかな」などと、後から考えれば随分と都合のいい妄想を抱いていました。

ほんのりと頬を赤く染めた美佐君が、座席の下から紙袋を取り出しました。

「あの、すいません、すっかり忘れていたんですけど。

実はお土産代わりにお持ちしたワインがあるんです。

よければ皆さんで召し上がってください」

「あら、ありがとう。

あなた、栓を抜いてくださる」

「いえ、かなり古いものなので、コルクが劣化してると思うんです。

抜栓するのにコツがいるんで、私にサーブさせていただけませんか」

「僕も、そんなに下手なほうじゃないと思うけど、大丈夫かい」

「向こうにいた時、フレンチのお店でソムリエールのバイトしてましたから、こう言っては失礼ですが、西村さんよりは失敗の可能性は低いと思います」

「そうか、ならお任せしよう」

「グラスは、変えたほうがいいですよね、食器棚のものをお借りしてもいいですか」

彼女は妻の返事を待たずに立ち上がると、ボトルを手に持ってキッチンへ向かいました。

「ソムリエナイフは棚の下の引き出しに入っているから」

「はい。

あ、ありました」

私は彼女の手際を見てみたくなりましたが、修羅場を乗り越えて神経が弛緩してしまったのか、腰を上げる気になれず、少し残った缶ビールを一気にあおりました。

食器棚の影になって見えませんでしたが、彼女が慎重にコルクを抜いているのが、音と気配でわかりました。

「お待たせしました」

美佐君はトレーに四脚のグラスと抜栓の住んだワインボトルを載せて運んできました。

ボトルから立ち上る芳香が、瞬く間に部屋中を満たすのがわかりました。

「美佐君、これは」

「すごいですね、私もこれほどとは思いませんでした」

各人の前にグラスを置き、優雅な姿勢で深紅の液体を注ぐ彼女。

グラスから立ち昇る香りは、さらに深みを増しています。

「どうしたの、これ」

始めてといっていいほどの濃醇な芳香に、既に私は夢心地でした。

「父が先日送ってくれたんです。

ナパバレーのカベルネなんですけど。

今ほど有名になる前に醸造されたものらしいんですが」

「いや、これはすごいよ。

飲む前からわかる」

「すごい香り、こんなの初めて」

「僕もこんなのは初めてです」

妻と田中君の言葉に先日のセックスを思い出して、いちいち反応してしまう自分が情けない。

こんなモンスターワインを目の前にして。

「本当はデキャンタージュしたほうがいいんでしょうけど、澱もそんなにないようなので、今日はこのまま召し上がってください」

口に含んだ瞬間の感動は言葉に言い表せませんでした。

予想通り、いやそれ以上でした。

「これは甘みなのか、酸味なのか、それさえもわからない」間違いなく、これまで飲んだどんなワインよりも極上のさらに上。

四人が四人とも賞賛の言葉を交わす以外できませんでした。

いつの間にか、三人の声が遠くなっているのに気づきました。

鼻に抜けていく甘い香り。

その奥にいつまでも残る、芳醇な余韻。

目の前の光景も霞み始めます。

全身の力が抜けていくような感覚。

舌の上で踊る快楽に身を任せるうちに、いつしか意識が遠のいていきました。

第二十九章
いつの間にか眠りこけてしまったようでした。

異常な喉の渇きと息苦しさを覚えながら、ゆっくり目を開けようとするのですが、焦点が定まりません。

背中に感じるシーツの感触で、ベッドの上にいることを、薄ぼんやりとした意識の中で感じました。

体を起こそうとしたのですが体の自由が利かず、呼吸もままなりません。

息苦しさの原因が私の口に猿ぐつわのようにかまされたタオルであることに気づきました。

さらには、手も動きません。

正確には動こうとしても何かに引っ張られて、身動きがとれないのです。

半分ほど開いた双眸を右手のほうに向けました。

手首に何かが巻かれています。

左手に目を向けると同じように拘束されています。

ようやく自分がベッドの上に縄で縛り付けられていることを理解しました。

足元に視線を向け、自分が全裸であることと、足首にも赤い麻縄が巻きつけられ、ベッド上に大の字でくくりつけられていることを知りました。

あまりに現実感のない光景に、夢をみているのだろうと思いました。

それならば、もう一眠りしよう、体も重いし。

そう思った瞬間、部屋の隅から異様な声を耳にして、目を見開き、その方向に頭を起こしました。

さらに信じられないものが私の視界に飛び込んできました。

全裸の妻と、田中君がドアの前に並んで横たわっています。

目にした瞬間、全身の毛穴が開いたような感覚を覚え、眠気が吹き飛びました。

両手が背中側に隠れて見えませんが、どうやら私と同じように縄か何かで拘束されているようです。

口には私と同じようにタオルが巻かれています。

二人とも意識を失っているのかピクリとも動きません。

私がタオル越しに呼びかけても反応がありません。

二人の足元に目をやると、両足首にも縄が巻かれており、どうやら背中ごしに手首を縛った縄とともにドアのノブにくくりつけてあるらしく、仮に二人が目覚めても立ち上がることすらできないであろうことが想像されました。

ふと、美佐君の不在に気づき、唯一自由のきく首から上を上下左右に動かし寝室の中を見渡しました。

やはり彼女の姿だけが見当たりません。

私は両手、両足に力をこめて縄による拘束から逃れようとしましたが、五分ほどしてそれが無駄な抵抗であることを思い知りました。

両手両足に巻かれた麻縄は思いのほかしっかりと結ばれており、いくら暴れても解けそうもないことを理解したからです。

乱れた呼吸を整えながら、私は止むを得ず今の状況を整理して考えることにしました。

私を含む三人を全裸で拘束したのが、美佐君であることは間違いないでしょう。

四人で食卓を囲んでからどれくらいの時間が経っているのかはわかりませんが、おそらく最後に彼女がサーブしたワインに睡眠導入剤のようのものが混入されていたのかもしれません。

深い眠りにおちたわれわれ三人の衣服を剥ぎ、拘束した彼女がこれから何を始めようとしているのか。

彼女の狂気を感じ、私の思考は混乱しました。

何をどうしていいのかわかりません。

いえ、それ以前に私にできることなど殆どないように思えました。

なにしろ、ベッド上で四肢を固定され、声を上げることすらできない私には、実際できることなどなにもなかったからです。

それでも尚、諦めきれず手足をばたつかせていると、ドアの向こうから足音が聞こえました。

妻と田中君を縛り上げた縄の一端が結わえ付けられたドアの影から、バスタオルを胸元に巻いた美佐君が姿を現しました。

全身から湯気が立ち上り、長い黒髪が濡れています。

彼女の愛くるしい表情の下に見える露になった白く細い肩や、くぼんだ鎖骨。

私はその美しさに、思わず現状を忘れ、見とれてしまいました。

「あら、起きてらっしゃったんですか」

言葉とは裏腹にさして意外そうなそぶりも見せず彼女が言いました。

バスタオル一枚を巻いただけの半裸の姿を私に晒しながら、恥ずかしがるような素振りはまったく見せず、口元に微笑を浮かべ私を見下ろしていました。

「美佐君、これは一体どういうことだ」と叫んだつもりでしたが、タオルに阻まれうめき声にしか聞こえません。

「すいません。

皆さんをこの部屋までお連れするだけで汗だくになってしまったものですから、無断でお風呂をお借りしました。

一応、お掃除はしておきましたので、お許しください」

「許すも何も」そこまで言いかけて、言葉にして伝えることを諦めました。

首を起こして強い抗議の意思をこめた視線を彼女に向けました。

「ああ、苦しいですよね、ごめんなさい、今ほどきますね」

彼女はそう言うと、ベッドサイドに半裸のまま腰掛けると、私の首に手を回しタオルの結び目を解きました。

彼女の長い髪が私の顔に触れ、薄い唇が目の前に近づきました。

妻とは違う、ミルクのような体臭を鼻孔に嗅ぎ取り、胸が高鳴るのを感じました。

ようやく呼吸と弁論の自由を得た私が、大きく息を吸い込み叫ぼうとするのを、彼女が人差し指を自分の口に当てて制しました。

「西村さん、大声をだして私を非難なさるのも結構ですし、近隣の方に助けを求めるのもかまいません。

でも冷静に考えてみてください。

私はいくら罵声を浴びてもこれからすること止めるつもりはありませんし、近所の方が不審に思って訪れるなり、警察でも呼ぼうものなら、かえってややこしいことになりませんか」

大きな瞳で見つめられ、反論の機会を失った私は、彼女の言葉の意味を心の中でもう一度反芻しました。

それは、彼女の言うことを打ち負かすだけの理屈や気力が自分の中にないことを確認するだけの作業でした。

私はひとつ大きく息を吐くと、小悪魔的な笑みをたたえた彼女の顔を見上げました。

「美佐君、君、自分がなにをしているか、わかっているのか」

勤めて冷静な口調で話しました。

最後の抵抗のつもりで。

「はい。以前にも西村さんにお話したとおりのことです」

「はい、じゃないだろう。

妻が言って聞かせたように、こんなことしても誰も幸せにならない」

「私はそうは思いません」

「じゃあ、どう思うっていうんだ」

「それは、わかりません。

でも、たぶん西村さんや奥様が心配されるような悪い方向にはいかないと思うんです」

「だから、それは君の一方的な」

そこまで言いかけたとき、彼女の背後で息を飲むような音が聞こえました。

続けて、聞こえたのはタオル越しの妻の悲鳴です。

その声に田中君も意識を取り戻したようです。

「あら、思ったより早かったですね」

彼女は取り乱す妻と田中君の様子を意に介することもなく二人の側に近づくと、私と同じように結ばれたタオルの拘束を解きました。

途端に、混乱したまま叫び声を発する妻。

「いやあっ、なに、これ」

田中君も次第に意識を取り戻したようです。

「うーん、あれ、ここは、あれ、僕、なんで、奥さん、これは」

二人とも混乱していましたが、先に状況を把握したのは妻のようでした。

「高橋さん、これはどういうこと?」

「あまり、大きな声を出さないでください」

美佐君は私に話したことと同じ内容を繰り返し、妻と田中君の困惑を一時的に押しとどめました。

それでも、驚きと憤懣の収まらない妻は彼女を問い詰めます。

「高橋さん、私の言ったことをわかってくれたんじゃなかったの」

「すいません、気が変わりました」

「そんな、それじゃあまりに身勝手だとは思わないの。

田中君だっているのよ」

妻は体を起こし、跪いた姿勢のまま隣の田中君のほうに視線を移しました。

田中君は、横たわった姿勢で、妻の裸体を見上げたままでした。

彼の股間でうなだれていたペニスがむくむくと隆起していくのが私にも見て取れました。

妻も同時に目にしたようで、そこで初めて田中君と自分が全裸のまま隣り合わせている状態に気づいたようです。

「いやっ」

あわてて身をよじり、田中君の視線から逃れようとしますが、両手両足を拘束されている状態ですので、隠しようがありません。

「あ、すいません。僕、そんなつもりじゃ」

田中君も自分の勃起したペニスを隠そうとするのですが、両手を背中の後ろで縛られているため、どうすることもできず、ますます大きくなる怒張をさらすばかりでした。

「さぁ、舞台は整ったみたいですね。時間はあるようでないんです。私も正直、待ちくたびれてしまって」

美佐君はそう言うと、田中君の手足の縄を解き、ベッドサイドに歩み寄ると、身にまとったバスタオルを落とし、白い裸身を私の眼前にさらけ出しました。

胸も尻も薄い彼女の体は、成熟し肉感的な妻の裸とは真逆の印象です。

「綺麗だ」とは思いましたが、正直、目にした瞬間は、性的な欲望を感じることはありませんでした。

彼女は、ベッドの上に膝をつくと、私のすぐ脇に回りこみました。

ためらう様子もなく、右手を私の愚息に伸ばし、白く細い指で握り締めると、ゆっくりと上下に扱き始めました。