熟年サオ師の真珠入り

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「亜里沙ちゃんじゃないか」

見知らぬ中年男にそう呼び止められた沢渡香代子は、さあっと顔を青ざめさせ、棒を飲んだ様にその場に立ち尽くした。

真夏の午後、繁華街での出来事だった。

「俺だよ、堤」

「つ、堤さん・」

男は堤と名乗り、かけていたサングラスを外すと、下卑た笑みをたたえながら香代子に迫った。

やたらに派手な服装と、肩をいからせて歩くその姿は、まともな職業についている感じでは無い。

「久しぶりじゃないか。今、何やってんの?」

「あ、あの・・・結婚して」

「主婦か。へえ、あの亜里沙ちゃんがね」

堤は懐から煙草を一本、取り出して口に咥えた。そして、辺りを気にする素振りを見せる香代子の方に手を伸ばす。

「あっ・」

「ちょっと話がしたいな。なあ、亜里沙ちゃん。俺、車を向こうに停めてあるんだ。ここだと人目にもつくし、一緒に来ないか」

「で、でも」

「ほんの少しの事さ。さあ」

堤は香代子の肩を抱き、引き寄せた。そして、人の流れに乗って、街の景色に溶け込んでいったのである。

堤の運転する黒塗りの高級車は街を離れ、郊外へと伸びる県道を走っていた。

「俺、亜里沙ちゃんっていう芸名しか知らないけど、本名は何て言ったっけ?」

「香代子です・」

「香代子ちゃんか。これからはそう呼ぶよ」

堤は県道を降り、市道をいくつか経てあるマンションの前で車を停めた。三十分も走っただろうか、香代子の見知らぬ街だった。

「降りなよ。俺、ここに住んでるんだ」

「あ、あの・・・私、あまり時間が無いんです」

「分かってる。ちょっと話をしたら、それで帰してあげるよ」

それで済む訳が無いのを、香代子は予感している。しかし、堤に歯向かう事は出来なかった。

「本当ですね?」

「ああ。俺、こう見えても結構、紳士だから」

堤は女を欲している。それは香代子にも分かった。それならば早めに体を預けて、さっさと帰宅したい。今、彼女が唯一出来る打算だった。

「少しの間、一緒に酒を飲んで、昔話をしようよ。それでおしまいさ」

「堤さん」

香代子は顔を上げ、堤を見つめた。

「一回だけにしてください。お願いします」

血を吐くような思いだった。香代子は堤の手を取り、切に願い出た。

「割り切りがいいね」

堤はにやりと口元を歪め、香代子を見つめる。そして二人はマンションの中へ消えていった。

(思えば、バカな事をしたもんだわ)

ベッドの上で裸になり、両手を後ろ手に戒められながら、香代子はそんな事を考えている。

よくなめした縄が鎖骨を通って乳房を囲い、脇の下から抜けて手首を縛る。

堤はこの一連の動作を鼻歌まじりで行っている。

女体を戒める事に慣れているようだった。

実は今から十年ほど昔、香代子は亜里沙という名前で裏ビデオの女優をやっていた事がある。

当時はまだ高校生で、援助交際が華やかな時代だった為、そういうアルバイトで金を稼ぐ事に罪悪感を得なかったのだ。

しかし社会に出て人を好きになり、生涯の伴侶を得て子を産むと、それがいかに愚かしい行為であるかを香代子は痛感した。

そして、愛のある家庭を育む事が、人間の幸福である事を理解したのだった。

「痛くない?亜里沙・・・じゃなくって、香代子ちゃん」

「大丈夫。あまり、気を使わないで」

堤は香代子を上半身だけ戒める縛りに決めると、自分も服を脱ぎだした。

老いはしているが、意外に引き締まった肉体が香代子の目に映る。

堤の背中には恐ろしい入れ墨があった。

身なりもそうだが、やはりこの男、まともな職についているのではなさそうだ。

「俺、太っただろう?」

「そうね。でも、痩せると入れ墨が縮むから、恰幅の良い方が格好良いわ」

香代子は知らぬ間に、蓮っ葉な言葉遣いになっていた。

そう、これからしばらくの間は沢渡香代子ではなく、亜里沙になると決めたのである。

「ごめん、しゃぶってもらえるかな」

堤はそう言いながら、驚くほど大きい肉筒を香代子の前へ出した。

しかも、筒のあちこちに異物を埋め込んだと思しき突起があるではないか。

それらはきっと、女の中をかき回す際に、効力を発揮するに違いない。

香代子は目を丸くして、肉筒を見ている。

「真珠、増やしたの?」

「そう。俺も年を喰って、焦りを感じたんだ」

「こんなに大きいのに」

縛られた状態なので、手を使うことなく香代子は肉筒を口に含んだ。

最初は雁首まですっぽりといき、その後は筒の部分に舌を這わせ、時に甘く噛んだりして、堤の分身を楽しませてやるのである。

「上手いな、さすが人妻」

「それは言わないで」

夫も子もある身で他の男に体を委ねる事は、今の自分に許されないのは分かっている。

しかし、薄汚れた己の過去を知る男が現れて、機嫌を損ねたりしたら、どうなるかを考えるのが、今の香代子には怖かった。

家庭を壊されたくない、その一心だった。

「香代子ちゃん、そろそろ本番したいんだけど」

「いちいち聞かないで、好きにすればいいのに」

やさぐれている割には人が良い。

香代子は堤をそんな人物だと思っている。

勿論、弱みにつけ込んで体を弄ぼうとするあくどさはあるが、どこか抜けた印象があるのだ。

「寝転んで・・そうそう。大丈夫?つらくない?」

「大丈夫よ」

堤は香代子を横にして、縛ったまま犯すつもりだった。

経験で、この体勢がもっとも香代子を楽しめる事を知っているからだ。

「入れるよ」

その言葉の後、香代子の中に肉筒が入って来た。

目を閉じると、女穴をこじ開けるように遡ってくる異物の感触が分かる。

巨大なそら豆のような肉傘がずずっと押し入って来ると、次は突起物のある筒の部分が肉襞を押し広げた。

香代子はうっと呻き声を漏らした後、体から力を抜く。

そうすると肉筒は一気に中へ収まり、女穴のほとんどを制した。

「はああ・」

「おっ、いい声が出たね」

「だって、堤さんの・・・大きいんだもの」

背中に中年男の肌が触れる事に、香代子は何の嫌悪感を持たなかった。

それどころか胸に回ってきた堤の手を、心地良いとすら思っている。

出来ればもっと強く、無意識のうちに香代子は身を捩る。

そして、香代子の中に収まった肉筒は前後に動き出した。

三浅一深のリズムを守り、時に右回り、左回りと腰を送り込まれて女体は悲鳴を上げた。実を言うと堤という男、元はさお師と呼ばれる裏ビデオの男優だった。

今は年を取り現役を退いているが、昔取った杵柄とばかりに、香代子を愉悦へと導こうとする。

「あっ、あっ、あっ・・・い、いやだわ、こんな事って」

「気持ち良いの?いいんだよ、もっと気持ち良くなって」

耳元でそう囁かれると、香代子はたまらなくなった。

今から十年ほど前も、こうやって堤に翻弄されていた。

その記憶と現実が相まって、彼女を淫らな牝に作り上げていく。

「駄目、駄目なの・・・ああ、本当に駄目・」

羞恥が香代子の全身を包む。

若かりし頃は性にも未熟ゆえ、これほど体が燃え上がらなかったのだが、今の快楽の凄さはどうしたものか。

あえて感じ取ろうとせずとも、胎内で暴れる堤の分身の動き全てが知覚できて、素晴らしい愉悦を齎せてくれる。

気がつけば香代子は、夢中になって腰を振っていた。

尻穴は開き、肉穴からは白濁した汁が玉になって弾け飛んだ。

生肉のぶつかり合う、あの淫猥な音が部屋中に響き、いつしか二人はひとつの肉塊と化す──

「香代子ちゃん、いくよ」

「私も・・・いくッ!」

繋がったまま、二人は唇を重ねた。

そして舌を絡め合いながら、ほぼ同時に達する事が出来たのである。

香代子は瞼を痙攣させ、波のような快感に酔った。

堤が胎内で子種を放出する事も、まったく気にならなかった。

「あ・・ん」

香代子は脱力し、シーツの波間に身を預けた。

そのすぐ傍らを堤が占め、達したばかりの敏感な女体に手をかける。

「若いっていいなあ、肌に張りがあって」

「年寄りみたいなこと言って、いやね、堤さん」

ハアハアと息を荒げる堤を、香代子は愛しげに見遣った。

いかつい顔立ちだが皺が刻まれ、好々爺の相を呈してきている。

加齢は肉筒にも表れ、達してすぐに堤の分身は縮んでしまっていた。

腰を引くと、今まで威勢の良かったそれは、先端から白い粘液を漏らしながら、頭を垂れていた。

香代子は縛られた後ろ手でそれを掴み、ああだこうだとイタズラしてみる。

触ってみると巾着みたいな感触で、案外、面白い。

堤と出会った繁華街に戻るまでの車中で、香代子は色んな話を聞いた。

堤が今、半分堅気で半分極道の生活をしている事。

相変わらず裏ビデオの製作でしのぎを出している事。

何度か結婚して子供も出来たが、いずれも離縁されてずっと会わせてもらえない事・・・

特に子供の話をした時、寂しそうな表情をした。

香代子も子を持つ身ゆえ、その気持ちは痛いほど分かる。

堤は自業自得だと笑っているが、本心は悲しいに違いない。

横道にそれた生活を送る、中年男の寂寥感が滲み出ていた。

あまり人目につかない場所で、堤は車を停めた。

香代子は降りる時、軽く口づけを交わし、携帯電話の番号を書いたメモを渡してやった。

自分でもどういうつもりか分からないが、何故だかそうしてやりたくなったのである。

「香代子ちゃん、これは・」

「電話して。平日の昼間だったら、いつでもいいから」

香代子は振り向きもせず、車を後にして雑踏に紛れていく。

今も胎内に残る中年男の子種が、自分の理性を焼いている事が否定出来なかった。

またあの男に抱かれたい。

そんな思いが、香代子の胸中に渦巻いている。

もっともまだ日も高く、このまま帰宅すれば彼女は良き妻、そして母でいられるだろう。