- 遊戯
- その頃、私は三十四歳で、奈津子はちょうど三十になったばかりでした。
もともと奈津子はコケティッシュな顔立ちとグラマーな体で人目を引くタイプでしたが、三十になってからはさらに三十女の独特の色香が加わっていました。
会社の同僚などが私の家に来て初めて妻を見たときなどは、私のように平凡な男がどうして奈津子のような女を妻にできたのか不思議に思っているようでした。
そんなときの同僚達の表情の中には、ほとんどの場合、奈津子の美しさに対する驚きというよりは押し殺した欲情みたいなものが感じられるんです。
そして、それが、いつのまにか私にとっての楽しみになっていったんです。
夜の夫婦の寝室でのピロートークでも、私と奈津子はその話しをよくするようになりました。
奈津子は、私が新たな刺激を感じることに喜んでいました。
私たち夫婦が夫婦交際に興味を持ち始めたのもその頃でした。
私が買ってきた夫婦交際系の雑誌を一緒に見ながら、いろいろ話をしたり、妄想を膨らませたりしていました。
私が特に興奮した妄想は、「奈津子が別の男とのセックスに耽る」というものでした。
私が自宅に連れてきた職場の同僚などで奈津子に気がありそうな人を相手にして、妄想の世界を演じて、二人で興奮を高めたりしていました。
あるいは、セックスのときに奈津子に目隠しをさせて、結婚する前に奈津子が付き合っていた男と今セックスしているんだと想像させ、名前もその男の名前を呼ばせたりもしました。
昔の男の名前を呼びながら奈津子が昇りつめる様子は刺激的で、昔、実際にその男からこんなふうにいかされていたのだと思うと、得も言われぬ嫉妬を感じ、そして興奮したものです。
こんな夫婦だけの遊びを楽しんでいる人も多いんじゃないでしょうか。
その他にも、私は積極的に奈津子を男達の好色な目に晒すことを楽しむようになりました。
以前から、奈津子と夜の街を歩いていると、街ですれ違ったり同じ店内で酒を飲んでいる他の男達の視線が、奈津子の脚や胸に向けられるのを感じることに興奮を覚えていましたので、それを意識的に楽しむことにしたわけです。
奈津子もその「遊び」にはまんざらでもないようでした。
私がお気に入りの奈津子の服装は、黒のタイトミニに白系のブラウスでした。
黒のタイトミニは、椅子に座ると太腿が露になり、ぴったりめの白のブラウスは、丁度いい具合に奈津子のバストを強調しました。
そんな奈津子の姿は、隣のテーブルで飲むサラリーマン男性達の目を引きつけずにはおきませんでした。
奈津子の体に男達の粘りつくような視線が絡みつく様子を感じながら、お酒を飲むのが私達が最初に見つけた楽しみでした。
男達の絡みつく視線を求めて、私は奈津子をいろんな処へ連れて行きました。
よく行ったのは、ホテルのバーです。
特に高輪にある有名ホテルのバーは、ソファが低く、うってつけでした。
奈津子が座るともう太腿がほとんど露になるくらいでしたし、ビジネス街に近いこともあってか、男性客が多かったからです。
私たちは、なにくわぬ顔で男性だけのグループの近くのソファに席を取ると、向かい合って座ります。
奈津子は、近くの男性客から見えやすい位置に座らせます。
私達は普通にお酒を飲みながら喋っていますが、奈津子が時折何気なく脚を組替えるたびに、男性客の視線が奈津子の脚に向けられる様子を見て密かに楽しむのでした。
私たちは、連れ立ってバーに行くこともありましたが、ときどきはバーで待ち合わせをすることもありました。
それで、あるとき先に着いた奈津子が一人で待っているところを見て気づいたのですが、一人で座っている奈津子を見る男性たちの方が、私と一緒の奈津子を見るときよりもはるかに好色な目をしているのです。
たぶん私に対する遠慮がない分だけ露骨になるのでしょう。
ホテルのロビーやバーなどで、さりげなく男性客の近くのソファーに奈津子を座らせ、私は少し離れたところで様子を見たりしたこともありました。
奈津子は、待ち合わせか、時間をつぶしているかのように週刊誌を読んだりしますが、私はその間、離れたところから奈津子を取り巻く男性達の反応を楽しんでいるというわけです。
このようなお話をすると、私達夫婦が露出癖を持っているとの印象を与えるかもしれませんが、違います。
奈津子の服装も決して露出的なものではありません。
普通のOLでも当たり前に着るようなものです。
それが、男の目を惹きつけずにはおかないのは、彼女が身に付けるものによって隠されたボディが人並み外れて魅力的だからだと思います。
実際、タイトミニから伸びる脚や、ブラウスを窮屈そうに押し広げるバストを見ると、夫の私でもときどきドキッとするくらいです。
そんな奈津子の体が密かに他の男性の性的関心の対象となるのを見ることは、私にとってこの上ない刺激でした。
- 出会い
- 次第に私は、奈津子を他の男性たちの単に性的な関心の対象とするだけではなく、実際に男性と性的な関係を持たせたいと思うようになりました。
そして、その関係のホームページなどを巡回しているうちに、ある男性(仮称・・・田山)と知り合いました。
私達が今楽しんでいる「遊び」の話や、奈津子に素敵な男性と性的な関係、愛人のような関係を持たせてみたいこと、ただし奈津子がそのような経験がなく拒否反応を示すのではないかと心配していることなどを、メールで話しました。
田山はデジタル写真も送っていただきました。
見るところ、私達より年は上でしたが、落ち着いて、なおかつセンスがある紳士的で、奈津子も気に入りそうでした。
田山が、一度、気軽に会って見ましょうと言われるので、二人だけで会ってみましたが、実際に会う田山は、写真から受けた印象どおりの紳士でした。
田山のアイデアにより、私達がいつもの遊びをしているときに、偶然出会った知り合いの振りをしましょうということになりました。
なるほど、そういうことだったら、奈津子もそれほど抵抗感は感じないかもしれません。
決行の日、私達は高輪の某ホテルのバーにいました。
そして、約束の時間になったとき、田山が何喰わぬ顔でバーに入ってくると、私を見つけました。
私達は、偶然出会った知人同士の演技をし、私は奈津子と田山を引き合わせました。
奈津子は、一瞬不意をくらったような顔をしましたが、いつものように愛想良く田山に会釈をします。
私と田山はしばらくの間、他愛もない話しをしていましたが、
田山が、「申し訳ありません、お邪魔しちゃったようで」と言いながら腰を浮かせようとするので、私はそれを手で制しながら、「もし、よかったら、このままご一緒にいかがですが」と、事前の打ち合わせどおり言いました。
「でも、本当に私はこれで」と、なおもその男性は言って、私達を辞そうとしたところ、
私は奈津子に、「ねえ、奈津子も、別にいいだろう?」と水を向けると、
奈津子が、「ええ、田山さんさえよろしければ、三人で一緒にお話をしません?」と言いました。
田山は、ちらと私の方を見ながら、「ええ、でも」と、言いましたが、
私が、「ほんとに、いかがですか。私達も特に用事があるわけではないですし」と促すと、
「そうですか。じゃあ、お言葉に甘えて、もうしばらく御一緒させていただくことにしましようか」と、腰を降ろすことになった。
それから、私たち三人はお酒を飲みながらお喋りすることになりました。
田山は、紳士的な語り口と豊富な話題で奈津子を魅了しているようでした。
それは、奈津子の表情からもうかがえました。
結局、あっという間に二時間ほどがたち、私達はまたの再会を約して、その晩は別れました。
帰宅の道すがら、田山の話題になったところ、奈津子は田山のことをとても気に入ったようで、この日の私達の試みは大成功だったようでした。
それから、一月に一度か二度、私達は三人でお酒を飲むようになりました。
奈津子も、いつかそれを楽しみにするようになり、そうやって回を重ねるにしたがって、二人の間には自然な親密さが通うようになりました。
バーでの座り方も、田山が奈津子の隣に座っても、違和感を感じないようになっていましたし、ときには酒が入った大胆さもあるのでしょうか、奈津子が田山と腕を組んだり、田山が奈津子の肩や腰に腕を回したりしても、それほど気にならなくなつていました。
- 初夜
- その日、田山の行きつけのクラブで三人で飲んでいました。
田山はいつもどおりスマートな身のこなしと巧みな会話で奈津子を惹きつけ、しばらく飲んでいるうちに、奈津子は「わたし、ちょっと酔っちゃったわ」といいながら、田山の肩に頭を乗せました。
田山はそんな奈津子の腰に手を廻して引き寄せると、「奈津子さんはほんとうにきれいだ」と奈津子の目を見ながら言いました。
奈津子も少し潤んだような目で田山の目を見つめ返し、「ありがとう。うれしいわ」と言います。
田山は「少し踊りましょうか」と奈津子を誘いました。
ママに勧められるまま、奈津子は田山とフロアでチークを踊りはじめました。
部屋の中央のフロアでは田山と奈津子のほかにカップルが二組チークを踊っていました。
田山は奈津子の腰に、奈津子は田山の首に手を廻して、お互い体をぴったりと合わせてスローな音楽に合わせて揺れるように踊っていました。
田山の背中に回された奈津子の手が妙にセクシーに感じられました。
踊り終わって田山に肩を抱かれながら戻る時、奈津子は少し恥ずかしそうに俯いて私の目を避けていましたが、そんな奈津子の仕草を愛らしいと思いました。
ソファに戻った田山は、左手でウィスキーグラスを持ち、右手で奈津子を抱き寄せると、黒のタイトスカートから露になった奈津子の膝の上に手を置きました。
そうやって、しばらく飲んでいましたが、やがて、左手でテーブルの上のウィスキーグラスを飲み干すと、田山は声を落として私達に「ホテルの部屋で夜景でも見ながら飲み直しませんか」と言いました。
奈津子は一瞬だけ意表をつかれた顔をしましたが、私が「ええ、素敵ですね」と答えると、私も一緒だという気安さもあるのか、特に異議は唱えません。
これから起きることを想像しながら私の胸の鼓動が高鳴ります。
私たちはタクシーの後部座席に奈津子を間にして乗り込みました。
田山は運転手に行き先を告げると、奈津子の腰に腕を廻し、引き寄せました。
奈津子はされるがままに田山に体をあずけます。
黒のタイトスカートからのぞく奈津子の膝が、車内にさしこむ街灯の光に照らされるのがとてもセクシーでした。
田山がとったホテルの部屋からは東京の夜景が一望に見渡せました。
「奇麗だわ」
窓際に立って眺めていた奈津子が呟きました。
田山は、その奈津子を後ろからそっと抱きしめます。
奈津子は一瞬体を強ばらせたようでしたが、田山はそんな奈津子の緊張を解くように、美しいセミロングの髪にキスをします。
私はソファに座って二人の後ろ姿を眺めています。
田山は奈津子のジャケットを脱がせると、ブラウスの上から豊かなバストを静かに力強く揉み上げます。
奈津子は田山にされるがままにしていたが、田山がブラウスのボタンを外そうとすると、その手を押さえました。
「心配しないで、奈津子さん」
そう言うと田山は、奈津子を私の方に向かせると、後ろから廻した手でブラウスのボタンを一つ一つ外していきます。
田山の手でブラウスのボタンを一つずつ外されて行く奈津子の表情を私はじっと見つめました。
奈津子は恥ずかしそうに目をそむけています。
「御主人の目の前でこうやって脱がされていくのはどんな感じですか」
田山は奈津子の耳元で囁きました。
奈津子はため息を洩らすと、顔を横に向けたまま目を閉じました。
ボタンを外し終えた田山は、はだけたブラウスに手を入れ、ブラに押さえられた奈津子のバストをゆっくりと大きく揉みしだきながら、奈津子の唇を吸いまた。
田山は奈津子の唇に自分のを重ね、舌を絡ませながら、タイトミニの下から手を滑り込ませました。
「あ」
田山に激しく唇を吸われたまま、奈津子は身をよじります。
田山は、それにかまわず、スカートの奥に手を進めます。
「御主人の前で、他の男の手で濡れるなんて悪い女だ」
田山は奈津子の耳たぶを軽く噛みながら小声で言いました。
奈津子がスカートの上から田山の手を抑えるのにかまわず、田山は奈津子の敏感な部分に触れ、もう一方の手で奈津子のスカートのホックに手をかけます。
奈津子は諦めたのか、今度は抗おうとはしません。
ホックを外された奈津子のタイトスカートは、ヒップに少しひっかかりましたが、田山が少し下に押しやると形のいい脚をつたってすとんと床に落ちました。
田山はしばらくの間そのままパンティストッキングの上から撫で回していたが、するりとパンティの中に手を滑り込ませると奈津子の芯へと指を進めます。
田山に塞がれた奈津子の口から小さな鳴咽がもれました。
ベッドの上で、田山は奈津子を執拗に舐め続けました。
それこそ、足の指先から耳たぶまで入念に舐めました。
特に奈津子の秘部は時間をかけ、淫猥な音をさせながら舐めつづけ、時折舌先を中に差し入れました。
田山が黒のブリーフを脱いだ時には、奈津子はほとんど気をやる寸前までになっていました。
田山の肉体は素晴らしいものでした。
暗褐色で強固にそり返った田山の男根が奈津子の秘壷にあてがわれ、ゆっくりと沈められる光景に私の頭の中は一瞬真っ白になり、何が何だかわからなくなったくらいです。
田山の男根がゆっくりと体内を進む間、奈津子は「あー」と長く声を出しました。
それから、奈津子は、田山のたくましい腕に組み敷かれ、あるいは後背位から腰を抱えられて激しく貫かれ、何度も激しくオーガズムを迎えたのです。
田山の暗褐色の男根が奈津子の白い体を激しく貫き犯すのを見つめる私の側で、奈津子は、田山が腰を使う度に忘我の境地で喜悦の声を上げつづけました。
田山は私に奈津子の手をとるように言いました。
私が言われるままに奈津子の手を取ると、奈津子は「あぁ、あなた、わたし、また、いきそう」と、私の手を強く握りながら言います。
田山は、奈津子の右脚を肩に抱え上げ交わりをさらに深くすると、腰の動きを激しくします。
「あなた」
既に何度も気をやって朦朧としている奈津子が喘ぎながら声を出すと、体をのけぞらせながら痙攣しました。
「な、奈津子、す、すごいよ」
私は思わず声を上げましたが、喉がカラカラで声がかすれていました
田山はそれで終わらせません。
奈津子をうつぶせにして腰を浮かせると、今度は後背位から奈津子を貫きました。
奈津子はほとんど忘我の境地で声を上げながら、足の指を強く内側に曲げました。
田山が情け容赦なく強靭なペニスを抜き差しし続ける度に、奈津子の体がのたうち震えます。
私が見ても奈津子は気を失う一歩手前の状況をさ迷っているようでした。
そして、奈津子が何度目かのオーガズムを迎える最後の一突きと同時に田山は奈津子の体からペニスを抜くと、奈津子の白い背中に白濁した精液を誇らしげに飛散させました。
奈津子の白い背中に田山の白濁した精液が飛散するのに私は自分の芯が震えるような興奮を感じたのを今でもおぼえています。
奈津子はヒップを上げた格好のまましばらく動きませんでした。
ただ奈津子の秘壷だけがヒクヒクと動いていました。
ホテルからの帰りのタクシーの中で、奈津子は私の腕の中で静かな寝息を立てて眠っていました。
道路脇の街灯が通り過ぎるたびに照らされる奈津子の横顔は、ついきっきまでの田山との激しい交わりが信じられないくらい無垢なものでした。
私はそんな奈津子を無性に愛しいと思いました。
- 再会
- 一週間後、私達は同じホテルで田山と再会しました。
私たちは先に着いて待っている田山と電話で連絡をとり、指定された部屋へと向かいました。
奈津子と二人だけのエレベーターの中で私は、一週間前の二人のセックスの光景を思い出し、既に激しく勃起していました。
ドアベルを押した私たちを、ガウン姿の田山がそっとドアを開けて迎え入れてくれました。
田山はドアを後ろ手で閉めるやいなや、無言で奈津子の手を取り引き寄せ、強く抱きしめると、激しく唇を吸いはじめました。
奈津子はとっさの事に身を固くしましたが、すぐに田山の求めに素直に応じます。
そのまま二人は、私の存在など忘れてしまったかのように、立ったままの姿勢で激しく抱き合い求め合います。
田山は、奈津子を壁に押し付けるとパンティを降ろし、タイトスカートをたくしあげ、左脚を抱え上げて交わり始めました。
奈津子はそうされながらも、田山の首に腕を廻し、唇を求めます。
二人は、さながら人目を避けて刹那の性愛を貪る愛人同士のようでした。
奈津子が、立ったままの姿勢で片足を抱きかかえられ、オーガズムの声を上げました。
田山は、ハアハア肩で息をする奈津子を、今度はベッドの縁に手をつかせ、後ろから交わり始めます。
奈津子はジャケットだけを脱ぎ、白のブラウスとタイトスカートを身につけたままですが、それがいっそう私の興奮を掻き立てます。
結局、田山と奈津子は夜半過ぎまで、私の存在を忘れたかのように交わりつづけました。
その間、私は奈津子にこんな獣のようなセックスができるのが信じられない思いで見ていました。
私の前で激しく交わった後シャワーを浴びた田山と奈津子は、バスローブを身にまとい、私の前のソファに並んで座っていました。
田山と私はオンザロック、奈津子はワインを飲んでいました。
スタンドライトに照らされている奈津子の顔は、ついさっきまでの激しいセックスの余韻で上気しているようでした。
田山に抱き寄せられ、その肩にしどけなく頭を乗せる奈津子は、まるで田山に身も心も許し切った愛人のようでした。
バスローブからはだけた奈津子の白い脚が私の欲情をそそりました。
自分の妻なのに、まるで他人の女に欲情しているような錯覚を覚えました。
奈津子は奈津子で、私の前で田山のものにされていくことに、今まで味わったことのないほど激しく興奮していたようです。
「今度は奈津子さんと二人だけでデートしましょうか」
奈津子は上目遣いにチラッの私を見ました。
「ええ、そうして下さい」
私は答えました。
「奈津子、田山さんと二人だけでゆっくりと可愛がってもらいなさい」
私がそういうと、奈津子は田山の腕に抱きついたまま恥ずかしそうに身を縮めました。
- 二人だけのデート
- 次の週の金曜日、奈津子は田山と二人だけで会う約束をしました。
その日、私が帰宅した時には奈津子はいませんでした。
自分が望んだこととはいえ、ダイニングテーブルの上に置かれた奈津子の置き手紙を見つけた時は、さすがに頭の中が真っ白になりました。
置き手紙には、食事の用意や着替えの事などが事細かに書かれてあって、最後に「愛してるわ。なつこ」と締めくくられていました。
それから私は奈津子が用意してくれた食事をとり、テレビを見ながらブランデーを少し飲み、シャワーを浴びてベッドに入りましたが、その間も気がつくと田山に抱かれる奈津子の姿を想像し、ペニスを堅くしていました。
奈津子を目にすることができない分だけ、想像力がたくましくなり、下腹部の芯から熱くなるような興奮が突き上げるのを感じました。
ベッドに入ってもなかなか寝付けません。
私が目にした田山との激しい交わりの様子が原色の生々しさを伴ってつぶった目の中で再現され続けるのです。
そのようなセックスに私の目の届かない所で二人だけで溺れているという思いがもたらす煩悶に私は一人身をよじっていましたが、同時に、私の身を焦がす嫉妬の火が私の奈津子への愛のために不可欠なものだということも自覚しはじめていました。
結局、夜明け近くに奈津子がタクシーで帰宅するまで私は一睡もできませんでした。
私が薄目を開けて様子を見ていると、奈津子はお気に入りの淡い水色のミニのスーツを脱いでクローゼットにかけると、キャミソールのまま私が眠った振りをしているベッドにするとり滑り込んできました。
奈津子のひんやりとした肌の感触が私に伝わります。
奈津子は私のことを見透かしているように私の耳元で「眠れなかったでしょう」と囁くと、私の唇を求めながら、「抱いて」といいました。
私は無言のまま奈津子の体を抱きしめ、髪に口づけしながら、「どうだった、二人だけの夜は」と聞きました。
奈津子は「うふっ、たっぷり愛していただいたわ」と悪戯っぽく答えました。
「わたしはもう田山さんの愛人になっちゃうわよ。いいの」
「ああ、いいよ。田山さんの愛人になった奈津子は素敵だよ」
それは嘘ではありませんでした。
私は本気で奈津子を田山の愛人にしたいと思っていましたし、そうすることで奈津子をもっともっと強く愛することができるような気がしました。
すると突然私の中に蓄えられたものが一気に吹き出すように私は奈津子の体に激しい情欲を感じました。
私は奈津子のランジェリーを荒々しく脱がせると、貪るように奈津子の体に舌を這わせました。
そして、奈津子が十分に潤うのも待てず、私の愛撫に体をくねらせる奈津子に挿入しました。
私のペニスは今までになく激しく硬直していました。
私は、腰を使いながら、ついさっきまで奈津子のこの体が田山のものになっていたことを思うと、頭の中で黒い炎が燃え盛るようでした。
久しぶりに私は奈津子の中に激しく射精しました。
その余韻の中で私は奈津子を抱いたまま、眠りに落ちることができました。
- 三人で
- 田山と奈津子が二人で逢うことの方が多くなってからというもの、三人で逢う時も、奈津子は、私をはばかることなく田山の愛人として振る舞うようになりました。
夜の繁華街を歩く時も田山と腕を組み、タクシーの中で口づけを交わしたりと、もはや私を喜ばせるための演技に止まらない本当の愛人のようでした。
田山も自分の女に買い与えるように奈津子に高価な洋服やアクセサリーをプレゼントしました。
田山が買い与えた品々を身に着けた奈津子は、気品とともに香り立つように女のセックスを感じさせ、街で通り過ぎる男達の盗み見るような目が気になるくらいでした。
そんなゾクッとするくらいいい女が腰に手を廻されて男と一緒に歩き、その横に別の男が一緒に歩くのを人はどのように見たことでしょう。
もちろん、体を合わせて歩く男と女が恋人同士で、その側にいる男がその友人か何かと思ったことでしょう。
実は女が夫の前で、別な男に抱かれながら歩いているなどとは誰も思わなかったに違いありません。
そんなことを考えながら私は、二人の様子を見せつけられることで、もう私にとっては麻薬のようになってしまった興奮に酔っていたのでした。
田山は昼間の時間が自由になるので、よく日中に奈津子をホテルに呼び出しました。
そして、ひとしきり奈津子と愛し合った後、私の仕事が終わった頃に、三人で待ち合わせをするのです。
私は、会社を出ると本屋などでしばらく時間をつぶし、待ち合わせのバーへと向かいます。
二人を待ちながら時間をつぶす私の頭の中では、私が知っている二人の交わりのシーンが渦を巻いています。
奈津子は、私を待たせながら、田山の肉体に狂おしいほどに乱れ、田山の精を注ぎ込まれていることでしょう。
しばらくして、私の待つ席に奈津子が田山に肩を抱かれてやってきます。
田山との激しいセックスで少し上気した顔で、ちょっとはにかみながら「お待たせ」と言う奈津子のその時の顔を見るのが私はとても好きです。
その日も、仕事を終えた私は、いつもの待ち合わせのバーの奥の席で、入り口の方を向いて座って待っています。
注文したギムレットに口をつけながら、なんとなく落ち着かない気持ちで二人を待っていると、ドアが開いて、二人が店の中に入ってきます。
奈津子と田山が寄り添ったまま、薄暗い店内をこちらにやってきます。
田山の手はまるで自分の妻をエスコートするように奈津子の腰に廻されたままです。
二人は私の前の低いソファに座りました。
こうやって私と向かい合って座る二人を見ると、二人が夫婦で私はその知り合いのようです。
やってきたウェイターに注文を伝えると、田山はテーブルに身を乗り出し、私に、「奈津子は、今日は下に何も身に着けていないんですよ」と耳打ちするように言うと、軽くウィンクしました。
私がチラッと奈津子を見ると、奈津子は少し紅くなってバツが悪そうに舌を出しました。
ソファに体を戻すと、田山は、奈津子のスカートの上から太腿の弾力を楽しみ、静かにスカートの中へ手を滑り込ませました。
田山の指が奈津子の最も敏感な部分に触れたのでしょうか、奈津子は体を急に固くして俯いていますが、それでも従順にされるがままにしています。
最近の奈津子は、もうほとんど田山の言いなりでした。
三人でのデートの後は、田山と奈津子は私と別れて二人だけでホテルに戻ります。
ホテルの前まで一緒に来ると、奈津子は「じゃあ、あなた、ここで」と私に別れを告げると、田山と手を握ったまま、ホテルの中に消えて行きます。
それから、私は一足先に帰宅し、悶々としながら奈津子の帰宅を待ちます。
最初の頃は、深夜になって田山に送られて帰宅していましたが、そのうち、短い電話があって、そのまま田山と泊まるようになりました。
多分、田山との激しいセックスの合間にベッドの中で電話をしているのでしょう、「今日はこのまま泊まります」と短い言葉を言い終わるとすぐに電話は切れます。
田山と泊まった翌日、奈津子は「朝帰りは目についてみっともないから」と、午後に帰ります。
そして、その時間も次第に遅くなり、やがて週末などは二泊することも珍しくなくなりました。
- 虜
- それからの私達は、ほとんど毎週、時には週に二度、三度と田山の指定するホテルに行きました。
奈津子も自分から口には出しませんでしたが、田山との性愛にどうしようもなく溺れていくのが私にもわかりましたし、それが私にいいしれないほどの被虐的な悦びを与えました。
より深く奈津子が田山のものになればなるほど、私の前で繰り広げられる二人の性愛が深まりを見せるほど、私は興奮し、さらに深く奈津子が田山のものにされ、深奥から田山によって支配されるようになること望んでいるのでした。
二か月がたった頃には、奈津子は完全に田山とのセックスの虜のようになっていました。
田山は私の前で、奈津子とセックスするのにも喜びを感じているようでした。
まるで、夫の前でその妻を自分のものにし、その体を楽しむことで興奮するかのようでした。
奈津子を抱くとき田山は、奈津子との交合部分やエクスタシーを迎える瞬間の奈津子の表情を好んで私に見せつけます。
田山が好む体位は、奈津子を後ろから両足を広げて抱え上げたまま交わるというものですが、そうすることで、田山の怒張したペニスが奈津子のピンク色の膣を押し広げながら出入りする様子や、そんな恥ずかしい姿勢のまま昇りつめる奈津子の表情を私によく見せることができるからです。
後ろから田山の太い腕で両足を恥ずかしい姿勢で抱え上げられた奈津子が、美しいセミロングの髪を振り乱しエクスタシーの声を上げると、田山は奈津子の耳元で私の方を見るようにと命じます。
すると、激しく突き上げられてうつろな奈津子の目と私の目が合ったまま、奈津子はエクスタシーを迎えるのです。
そのとき、私と奈津子は、二人でのセックスとは比較にならないような性の悦びを感じるのです。
もはや二人だけでのセックスは考えられず、田山との関係を通してしか十分な興奮を感じられないようになっていました。
私はただの傍観者でしかなく、田山によって開かれて行く奈津子の体を見るだけでしたが、それでさえ奈津子とのセックスよりも遥かに深い興奮を覚えたのです。
夫婦のセックスが一人の男に支配されるという、田山が作り出した倒錯の世界に私達は酔いしれました。
そして、田山との関係を重ねていくに従って、私達はますます田山に支配された夫婦になることを望むようになっていったのです。
- 心と体
- 奈津子は二人だけで田山と逢うことが多くなりました。
そして、時には週末を利用してどこかのリゾートホテルに二人で出掛けて、二、三日帰ってこない時もありました。
その日は土曜日で、奈津子は前日から田山と二人で鎌倉のホテルに泊まっていました。
私が、虚ろな気持ちでCDを聴きながら奈津子の事を思って一人悶々としていると、電話が鳴りました。
受話器をとってみると奈津子が出ました。
「あ、あなた、わたし。どうしてた?」
「CDを聴いていたよ。君は?」
「うふっ、ばかねえ、わかってるでしょ」
奈津子の艶めいた声に、私は興奮しました。
「今も田山さんと一緒なのか?」
私が訊くと、奈津子は何やら含み笑いをしました。
「ええ、そうよ。すぐ後ろにいるわ」
奈津子は、そう言うとくすぐったそうな声を出しました。
「彼と一緒にベットの中よ」
再び奈津子の含み笑いが聞こえてきました。
かすかな衣擦れの音に混じって、キッスの音が聞こえます。
「昨日の晩からずーっと彼に抱かれたままよ。あなた、嬉しくって?」
「うん」
思わず私の興奮が高まります。
「そうよね、あなたは彼に愛されるわたしが好きなんだものね」
奈津子はそう言うと、くぐもった悩ましい声を出しました。
私はたまらずズボンを降ろし、ペニスを握ります。
「あなた・、わたし、ほんとに彼のものになっちゃうわよ・・・あなた、喜んでくれる?」
そう言うと、奈津子は再び、さっきよりずっと長い声を上げました。
受話器が奈津子の手から離れてしまったように、声は遠くなりましたが、遠くに聞こえる声は、紛れもなく奈津子が田山に貫かれる瞬間の声です。
その後もしばらく田山と奈津子の愛の交歓の声は続きました。
私は夢中でペニスをしごき、床に射精してしまいました。
日毎に田山のものになっていくような奈津子を見ることで、私は突き上げるような嫉妬の虜となりました。
そして、その嫉妬が奈津子に対する情欲をかきたてるのです。
この感覚は、随分昔に忘れていたものが急に蘇ったように、とても新鮮なものでした。
一方の奈津子は、田山との性の悦楽に溺れていきました。
次第に、こんな二人の夫婦関係自体が、田山に支配されてくようでした。
例えば、いつの間にか私と奈津子二人だけの夫婦の営みが少なくなっていきました。
というのも、田山と奈津子の激しいセックス見ることでしか、私は性的な昂ぶりを感じられなくなっていたからです。
それはまるで、私と奈津子の夫婦関係自体が、田山の支配の下に置かれたかのようでした。
- マンションで
- その日、田山から私の携帯に電話が入りました。
「今週末、また奈津子をマンションに誘うつもりですが、どうですか、××さんも来ませんか」
田山と奈津子が一晩中愛し合っている部屋を見れるというわけです。
「ええ、ぜひ」
「そうですか。といっても、奈津子には内緒ですよ」
「内緒?」
「ええ、そうです。私が時間を指定しますから、その時に来ていただけますか。奈津子に内緒に来てください」
そう言って、田山はマンションの住所と簡単な行き方を告げると、電話を切った。
奈津子に内緒で・・・
田山はどういうつもりなのだろう。
私は多少怪訝な気持ちがしましたが、田山と奈津子のセックスを見ることができるという期待に興奮しました。
奈津子は、金曜日の夜から出かけました。
私も何気ない振りをして、奈津子を見送りました。
奈津子が田山のマンションに泊まることは、二人の間では半ば当たり前のことになりつつありましたが、やはり私にしてみれば愛する妻が他の男とこれから性愛の限りを尽くすために出かけるのを見送ることは、突き上げるような嫉妬を感じさせずにはいらせません。
その夜、私は一人でウィスキーを飲みながら待っていましたが、とうとう田山からは電話がかかってきませんでした。
次の日の昼過ぎ、田山から電話がありました。
「これから出られますか?」
「ええ」
私が答えると、田山は手短に住所と行き方を告げました。
「玄関のドアは開けておきますから、音を立てないように入ってください」
そう言うと田山は電話を切りました。
以前に奈津子から聞いていたこともあって、それほど苦労せずに田山のマンションを見つけることができました。
それは白を基調とした外観の高層マンションで、田山の部屋はその最上階にあります。
私はエレベーターで最上階まで行くと、ドアの上に書かれた部屋番号を頼りに田山の部屋を探しました。
田山の部屋は、ちょうど廊下の中央付近にありました。
黙って入って来るようにと言われても、ちょっと周囲が気になるので、私はそっと左右を見渡して誰もいないのを確かめてドアのノブを回しました。
田山の言ったとおり、ドアには鍵が掛かっていませんでした。
私は、音を立てないように、そっと入ると、後ろ手で、そっとドアを閉めました。
それから、静かに靴を脱ぎ、奥のリビングに通じる廊下を静かに進みました。
廊下を少し進んだ辺りで、人声が聞こえような気がしたので、私は立ち止まって耳を澄ませました。
聞こえるのは女の喘ぎ声です。
おそらく奈津子の声でしょう。
私は、さらに廊下を進みました。
リビングに近づくにつれて、奈津子の激しい喘ぎ声が次第にはっきりと聞こえてきました。
私はリビングの入口にたどり着きましたが、そこには誰もいません。
どうもその先の部屋−奈津子の話によればそこがベッドルームのはずでした−を目指してさらに進みます。
もう、奈津子の声が手にとるように聞こえます。
ベッドルームのドアは半開きになっていました。
その隙間から、奈津子の激しい喘ぎが漏れています。
音を立てないようにドアをそっと押した私は、その光景に釘付けになりました。
部屋の中央に置かれたダブルベッドの上に全裸の二人がいました。
こちらを向きで足を投げ出すように座っている田山の上で、背中を向けた奈津子が田山の首に手を廻し、抱き合うようにして乗っていました。
私に気付いた田山は私の方にちらっと目をやりましたが、またすぐに奈津子を下から責めたてます。
田山が激しく腰を使うたびに奈津子はのけぞり、奈津子の白い背中に黒髪が踊りました。
その様がとてもセクシーで、私は思わず生唾を飲み込みました。
まるで奈津子が別の女のように感じました。
「どうだ奈津子、いいか」
田山が腰を使いつづけながら言いました。
「あぁ、あなた、いいわ。もう、おかしくなりそう」
奈津子がうわ言のようにいいます。
奈津子は田山のことを「あなた」と呼んでいるのか・・・
私は軽い衝撃を受けました。
「ああ、わたし、もう、どうしようもないくらい、あなたのものだわ」
そういうと奈津子は自分から田山の口を激しく吸いました。
田山もそれに応えて、交わったまま長く絡み付くようなディープキスが続きました。
やがて、田山は、奈津子の尻を両手で抱えるとそのまま立ちあがり、奈津子は田山にしがみついたまま抱え上げられました。
田山は立ったまま、腰を使って奈津子を突き上げます。
おそらく田山は、私のいるところから田山と奈津子の交合部分がよく見えるように立ちあがったのでしょう。
激しく出入りする田山のペニスが私の目を釘付けにしました。
大きな尻を田山の太い腕にしっかり抱えられたまま、奈津子は体ごと上下に揺さぶられ田山の太くて長いペニスに貫かれています。
奈津子のこんな激しいセックスは私も見たことがありませんでした。
田山は奈津子を下ろすと、今度は後背位から奈津子を突き責めます。
「あぁ、もっと奥まで、来て」
その声に応えるように、田山は凄まじいまでに奈津子の体を貫きます。
「あぁ、この体はもう、あなたのもの・・・だから、もっと、もっと」
田山と奈津子のめくるめくような激しいセックス以上に、奈津子がうわ言のように発する言葉は私に衝撃でした。
それを聞きながら、奈津子が体の深部からこの男のものになったという思いに、私は身震いがするほど興奮していました。
奈津子の体に大きな震いが来たかと思ったとき、奈津子は消え入りそうな声を上げて、絶頂を迎えました。
突然訪れた静寂の中で、私は奈津子に気付かれないように、息をひそめました。
奈津子はベッドにうつ伏せになったままでした。
「どうだった?奈津子」
「んん・、もうどうにかなりそう。もう、あなたとのセックスなしには生きていけないわ」
「奈津子はもう私のものだよ」
「ええ、わたしはあなたのものよ」
そう言って激しく唇を吸い合う二人をみて、私たち三人がもう引き返すことができないところまで来てしまったことを知りました。
- ウォーターフロント
- 六月の夜、久しぶりに奈津子をウォーターフロントのドライブに連れ出しました。
三分の一ほど開けた窓から吹き込む湿った風が奈津子のサラサラした髪をなびかせています。
助手席の奈津子が黒のタイトミニから伸びた足を組み直しました。
「もうそろそろ梅雨ね」
奈津子がウィンドウの外に目をやりながら言いました。
私は黙ったまま奈津子の膝の上に手を置きました。
私達が田山と出会ってもう三か月になります。
最近の奈津子は、夫の私が見てもはっとするようなセクシーな女に感じます。
田山の愛人になる前より少し無口になったかなという気もしますが、少し愁いが含まれた表情が奈津子の魅力をかえって増したように思えました。
「あの人が、しばらく一緒に住まないかって」
奈津子が、前を見たままぽつりと言いました。
「・・・」
私は、一瞬、奈津子が何を言っているか、わからなくなりました。
「私のことをどうしようもなく自分だけのものにしたいんだって」
奈津子がナーバスに足を組み替えながら続けました。
奈津子が田山と一緒に暮らす・・・
奈津子の言っている意味がようやくわかって、私は頭の中が真っ白になった気がしました。
自分の妻が、ほかの男と同棲する・・・
「奈津子は、どうしたいの?」
私は、平静を装いながら訊きました。
「・・・」
奈津子は、すぐには応えず、前を向いたままでした。
「奈津子自身はどうしたいと思っているの?」
奈津子の沈黙が何を意味しているのかわからない私は、同じ質問を繰り返しました。
「それが、わたしもよくわからないの」
「よくわからない?」
「ええ、よくわからないの」
奈津子は私から顔をそむけるように、外を見ました。
「そんなこと馬鹿げてるって、わかっているの。私はあなたの妻だし、あなたのこととっても愛しているわ。でも、私の体がどうしようもなく、あの人を求めているのも事実なの」
「どのくらいの間一緒に住むのかい?」
「わからないけど、一月、二月、もっとかもしれない。わからないわ、私にも」
私の中には、二つの矛盾する気持ちが渦巻いていました。
奈津子がこのまま田山のものになってしまうのではないかという不安、そして他の男の女となった奈津子を焦がれるように愛してみたいという願望。
「奈津子も田山さんと一緒に住んでみたいという気持ちもあるんだね」
私は再度訊ねました。
横を向いていた奈津子は再び前を向きました。
「もちろんあなたのことを愛しているわ。でも、私の体があの人をどうしようもなく求めているの、私の気持ちとは関係なく。あの人のことを求めているの、この体が」
そういうと奈津子は両手で顔を覆いました。
「どうかしちゃったんだわ」
私は左手でそっと奈津子の手を握りました。
- 別居
- その夜、私はベッドの中で奈津子の中で昼間の話題に触れました。
奈津子はうわごとのように「ごめんなさい、ごめんなさい」と繰り返すだけでしたが、それはまた、奈津子の体が強烈に田山との性を欲しているのを自分でもどうしようもないということを告白しているかのようでした。
そんな妻に、私にどうしようもないくらいに感じていました。
田山という男にすっかり隅々まで支配されてしまった妻の体に、これまで感じたこともないくらいの欲情を感じていました。
それから一週間後、私は会社帰りに、田山、そして奈津子と三人で待ち合わせました。
妻が田山のところに移り住む前に三人で食事でも、という田山の誘いでした。
そうか、いよいよ奈津子が田山のところにいくのか、と思うと、不思議な気がしました。
奈津子と私は夫婦として愛し合っていましたし、いまもそれは変わらないと思います。
にもかかわらず、田山との肉欲ゆえに奈津子は田山の元に行こうとしているのですから。
私たちは食事をしながらいつもどおり雑談をしていましたが、もっぱらしゃべっていたのは私と田山で、奈津子は田山の隣におとなしく寄り添っていました。
それを見ると誰でも奈津子が田山の妻と信じたに違いありません。
私ですら、なんとなく奈津子のことを田山の妻のように感じてしまったくらいですから。
最後に田山は、一月後に田山のマンションにくるようにと言いました。
私は「わかりました、ぜひ、そうさせてもらいます」と言うと、奈津子に「田山さんにかわいがってもらうんだよ」と言い、二人と別れました。
私が帰宅してみると、テーブルの上に小さな封筒に入った奈津子の手紙がありました。
そこには、こう書かれていました。
************************************************************
あなた、ごめんなさい。
私自身こんなことになるなんて、思ってもいませんでした。
でも、あれからよく考えても、今の私があの人と一緒に暮らしてみたいと思っていることを、自分には嘘がつけないことがわかりました。
ほんとうにごめんなさい。
あなたのことは今でももちろん愛しています。
これからもそれは変わりません。
でも、それでもなお、今の私にあの人が必要なのです。
人の心が、こんなにも複雑で不思議なものとは、私も知りませんでした。
しばらくあの人と暮らしてみて、自分の中にあるものを見つめてみたいと思います。
あの人と暮らすといっても、この前、あの人が言っていたみたいに、あなたとはこれからもいくらでも会えるわけですから。
あなたにはしばらくの間、ちょっと不便をおかけしますけど。
奈津子
************************************************************
それから私の一人暮らしが始まりました。
不思議なことですが、「今、何をしているんだろうか」とか、いつも奈津子のことばかり考えているんです。
結婚前ならともなく、結婚してから、こんなふうに妻のことばかり考えているなんてことはありませんでした。
私と田山は一月後に再会することにしていました。
その間は、電話だけは必要なときにはすることにしていましたが、直接会うのは一月後と決めていました。
その間は、奈津子は私から離れて田山の「妻」として生活するわけです。
まあ、夫婦というにはちょっと年齢が離れている気もしますが、でも、奈津子は、実は少しファザコン気味なので、奈津子にとってはちょうどいいくらいかもしれません。
とにかくこの一月は私にとっては奈津子と結婚してから経験したことがないような日々でした。
単に離れ離れで暮らしているというだけでなく、田山という他の男のもとで暮らし、そしておそらくは毎日のように抱かれ、愛されているのですから。
- 電話
- 奈津子が田山の所に行って一週間ほどたった日の夜、電話が鳴りました。
「もしもし」
私は受話器を取りましたが、何も聞こえません。
「もしもし」
私はもう一度言いましたが、まだ何も聞こえません。
間違い電話かなと思って受話器を戻そうとしたとき、何やら音が聞こえます。
どうやら受話器の向こうで、音を拾っているようです。
その音というのは廊下をパタパタと歩くスリッパの音でした。
それが、だんだん近くなってきます。
どうやら、受話器をオンにしたままどこかにに置いているだけみたいです。
「おまたせ」
それは奈津子の声でした。
でも、私に話しているのではなく、受話器の向こうにいる田山に話しているのでしょう。
私は耳を凝らして聞きました。
「こっちにおいで」
今度は田山の声でした。
パタパタという足音が近くなって止まりました。
「パスタオルをとって」
「いやだぁ、電気を消して」
「いいから。奈津子の体をよくみたいんだ、私のものになった奈津子の体をね」
「・・・」
奈津子は田山に言われたようにバスタオルをとっているみたいです。
「ほら、手もどけて」
「んもぉ・」
「そう、それでいい」
田山は満足そうに言いました。
「奈津子は綺麗だよ。ここに、座って」
「脚を開いて」
「は、はい」
今度は、奈津子は従順です。
「奈津子のここ、きれいな色をしているよ」
田山がそう言うと、チューチューという音がしました。
「あぁん」
奈津子の喘ぎ声です。
「奈津子のここ、美味しいよ」
チュ、チューー。
「あぁぁぁん」
「奈津子、気持ちいいか?」
「は、はい、とてもいいです」
田山のクンニはしばらく続き、奈津子の喘ぎ声がだんだん激しくなっていきます。
「あ、あなた、きてください」
でも、音は止みません。
「あ、あっ、ほ、ほんとに、き、きて」
するとチューチューという音がやみ、今度は衣擦れの音。
「欲しいのか」
「は、はい」
奈津子が潤んだ声で言います。
「何がほしんだね、奈津子は」
「あなたの、あれが」
「ちゃんと言って」
「あ、あなたの○○○が」
「そうか、そんなに欲しいのか。じゃあ、いまあげるよ」
「あ、あぁぁぁぁ〜〜」
奈津子がひときわ高い声を上げました。
それから唇を吸いあうような音。
そして、ギシギシという軋む音に合わせて、奈津子の規則的な喘ぎ声が・・・
私の股間はもうカチカチです。
「奈津子はずっと私のものになりたいのか」
「はい、ずっとあなたのものにしてください」
ギシギシという音が激しくなりました。
「ほんとか」
「ほんとです、奈津子はもうあなたなしでは生きていけません」
「嘘じゃないな」
「ほんとです。もう、奈津子はあなたの女です。あ、あぁんん」
それから、少しゴソゴソと音がします。
体位を変えているのでしょうか。
そして、再び「あぁぁん」と奈津子が声を漏らすと、今度はペチャペチャと体がぶつかるような音が・・・
後背位でしているみたいです。
「奈津子はもうずっと私だけのものだよ、それでいいんだね」
「はい、嬉しいです」
奈津子が喘ぎながら応えています。
それから、尻にぶつかる音が激しくなり、奈津子の声も大きくなります。
「な、奈津子、愛しているよ」
「は、はい、奈津子もあなたのことを愛しています」
「な、なつこ〜」
ベッドの軋みに混じって二人が声を同時にあげました。
二人が同時に絶頂を迎えたのでしょう。
そして、二人が肩で息をしている様子が聞こえます。
「よかったよ、奈津子」
「わたしも。とっても。もうほんとに、あなたなしでは生きていけない体になってしまいました」
奈津子が喘ぎながら言いました。
すると、再び二人がキスする音がしました。
そこで、受話器がつかまれる音がしたかと思うと、プツンと電話が切れました。
私は興奮した頭でしばらくボーっとしていました。
- 夢の中の妻
- その夜、私は電話で聞いた奈津子と田山の交わりの様子が浮かんできて、寝つけませんでした。
結局、自慰をするしかありませんでしたが、それでも私の心の騒ぎは静まりません。
私は、あのような「隠し電話」を掛けてよこした田山の意図が気になりました。
単に私を興奮させるだけだったら、これまでのように一言そう言えばいいわけですから。
今日の様子では奈津子は電話で私が聞いているということに気がついていないようでした。
田山は、私の知らない真実の奈津子を私に知らせたかったのではないでしょうか。
いまや、完全に自分のものとなった奈津子の様子をそっと私に知らせたかったのではないでしょうか。
だとすると何のために・・・
奈津子は田山のことを愛していると言いながら絶頂を迎えていました。
以前、こっそりと田山のマンションを訪れたときは田山との肉欲に溺れる奈津子の様子にショックを覚えましたが、今日の奈津子は単なる肉欲を超えてもっと深いところまで田山のものになっているようでした。
「奈津子はもう見も心も田山のものになってしまったのか」
私の中にはそのような考えが抑えようもなく湧き起こります。
田山は本当に奈津子を自分のものにしようとしているのではないか・・・
そして、奈津子も田山のものになりたがっているのではないか・・・
夢の中に、私のもとから離れて田山の妻として生きる妻が現れました。
奈津子は、田山の腕に抱かれ、私に意味ありげな表情で微笑んでいました。
「わたしは、この人のものよ。それが、あなたの望みだったのでしょう?」
妻はそう言っていました。
私は奈津子に手を伸ばしてつかもうとします。
でも、なぜか手が届きません。
「だめよ、あなた。私はこの人の妻なのよ。あなたのものじゃないんだから」
「何を言っているんだ、お前は俺の」
「それは昔のはなしよ。今は、もうこの人の妻なのよ」
そう言って奈津子は田山の腕の中で田山と見つめ合っています。
「奈津子〜〜」
私はそう叫びながらがむしゃらに手を伸ばしますが、田山と奈津子はだんだんと私から離れていきます。
田山に貫かれるときの悦びの声を上げながら・・・
それからも、私は何度かそんな夢を見て、朝、目を覚ましました。
そして、私のペニスはどうしようもないくらい固くなっていました。
- 会話
- 昨日の夜、奈津子から電話がありました。
「あなた、わたし。元気?」
「あ、奈津子か。うん、まあね」
「何が、まあね、なの。わたしがいなくて寂しいの」
そう言って奈津子はクスクス笑います。
「どうしたの?」と私は聞きました。
「ううん、別に。あなたがどうしてるのかなって思って。だって初めてでしょ、わたしがこっちに来て」
やっぱりこの前の電話はこっそり隠れて掛けてきたものでした。
でも、私は知らん顔して、「あ、そうだね」と言いました。
「だから、あなたがどうしてるのかなって、思って掛けたってわけ。迷惑だったかしら?」
「そんなことないよ。それより、奈津子の方はどうしてた?」
「わたし?うふふ」
奈津子は思わせぶりに笑います。
「何が、うふふ、だよ。たっぷり可愛がってもらってるんでしょ?」
「まあね」
「どう、まあね、なのか、教えてくれてもいいんじゃない?」
「ダメよ、他人の夫婦生活をあれこれ詮索しないの」と言ってまたクスクス笑います。
「でも、沢山愛し合ってるわ、毎日」
毎日やってるのか、あんなセックスを・・・
私はこの前の電話で聞いた様子を思い出しながら胸の中で独り言を言いました。
あんなセックスを一月も毎日続けていたら、本当に奈津子はもう元に戻れなくなるかもしれない・・・
そもそも、今ですら私の妻に戻れるのだろうか・・・
それに一月で奈津子が私のところに戻ってくるという保証は何もないのだし。
「一緒に暮らしてみてどう?」
「あ、うん・・・あなたに言うの、悪い気もするんだけど、でも、私とあの人ってとても合うみたい。セックスはもちろんだけど、それだけじゃなくって、あの人に毎晩抱かれているだけで、なんかこう、不思議と落ち着くのよね」
「おいおい、夫にのろけるなよ」
私は苦笑いをしました。
「ごめんね、でも、あなたも嬉しいんでしょ」
「まあね」
「また、まあね、ね。でも、前からあなた言ってたしね、わたしがあの人のものになればなるほど、わたしに感じるって。今、感じてる?」
確かに私のペニスは勃起しています。
なんだか、奈津子に見透かされているみたいな気持ちがしました。
「まあね」
「あなた、まあね、しか言わないのね」
奈津子が笑います。
「それより、あなたの方はどうしてるの?」
「何が?」
「何がって、あっちよ。まさか外でしてるんじゃないでしょうね」
「バカ。するわけないだろ」
「冗談よ。でも、どうしてるの?」
「少しぐらい我慢できるよ」
まさか、田山と奈津子のセックスの様子を電話でそっと聞いてオナニーをしたなんて言えません。
「ふーん。・・・ほんと?」
「ほんとだよ」
「わたしがこっそりあなたと浮気してあげましょうか」
またクスクス笑います。
「なんだよ、僕とだと浮気になるの」
「それはそうよ、今は、わたしはあの人のものなんだから」
それを聞いて、ちょっと私は嫉妬で胸を痛めました。
この前盗み聞きした電話の会話を思い出すと、「あの人のもの」という言葉に妙な現実味があります。
「でも、やっぱり浮気するとあの人に悪いから、テレフォンセックスくらいなら、してあげてもいいわよ」
「いいよ、大丈夫だよ」
「ほんとに?」
「ああ」
「わかったわ。でも、あと少ししたらこっちに来るんだものね。楽しみにしててね」
そう言って奈津子は電話を切りました。
- メール
- 奈津子のいない一日一日がこんなにも長く感じるとは想像もしていませんでした。
相変わらず私の頭の中はいつも奈津子のことで一杯で、気が付くとぼんやりと奈津子のこと、そして田山との性愛の様子を思い浮かべている始末でした。
今日、奈津子からEメールが届いていました。
写真がいくつかファイルとして添付されていました。
************************************************************
あなた、お元気ですか。
この前電話したとき、まあまあ元気そうだっので安心しました。
わたしがいなくなって落ち込んでるんじゃないかって思って。
私は、あなたの望みどおり、毎日、あの人に愛され、可愛がられて幸せに過ごしていますので、安心してください。
そうそう、先週末、あの人と鎌倉に一泊で行ってきました。
思い出すでしょ?そうよね、私たちの最初のデートも鎌倉だったから。
あの人にその話をしたら、じゃあ鎌倉に行こうって行くことになったの。
鶴岡八幡宮や瑞泉寺とか久しぶりに回って、その後海岸を歩きました。
ここだと人の目も気にならないから、ずっと腕を組んでり手をつないだりしていたわ。
仲のいい夫婦に見えたでしょうね。
でもちょっと歳が離れているかな(笑)。
ホテルについたら、あの人がすぐ求めてきて、カーテンを全開にした窓際で、夕方の七里ガ浜を見ながら愛し合いました。
わたしが窓を背にして、ヘリに腰掛けて、あの人が立ったままわたしに入ってきて・、今のあなたにはちょっと刺激的過ぎかな(笑)。
この同じホテルであなたに初めて抱かれたことを話したからなのかな、あの人、なんだかいつもより情熱的に愛してくれました。
最後にはわたしがもうへとへとになるくらまで愛し合って、それからお風呂に一緒に入って、あの人の腕の中でウトウトしちゃいました。
なんか、とっても満ち足りて幸せな感じだったわ。
なんか、ホントにあの人の奥さんになっちゃったみたいな不思議な気持ちでした。
お風呂から出ると、またあの人が求めてきて(ほんとにエネルギッシュだわよね)、今度はベッドの上でたっぷり愛し合いました。
あんまりゆっくりしすぎちゃったので、レストランの予約の時間に大幅に遅れちゃった。
私が急いでシャワーを浴びて身支度をしようとすると、あの人、シャワーも浴びず下着も着けるなっていうのよ。
あの人がわたしの中に出したままで行こうっていうの。
エッチよね(笑)。
で、結局、そのままストッキング履かずに行っちゃった。
なんとなく不思議な感じで、でちょっぴりエッチで面白かったわ。
それからバーに行ってラブシートに座って、お酒を飲みました。
窓向きのソファだったので、庭のイルミネーションがきれいだったわ。
あの人ったら、他の人にわからないようわたしのスカートの奥に手をいれて、こっそりわたしの感じやすいところを愛撫し続けたのよ。
なんか、とても感じちゃった(笑)。
そうしながら、あの人、わたしの耳元で「奈津子を絶対に手放さないよ」って囁くの。
わたし、お酒も入ってたし、あの人の指でちょっとメロメロ状態になってて、それで、「いいわ、これからもずっと可愛がってね」って言っちゃったわ。
以上、報告します。
どう、また少しわたしに興奮してくれた?(笑)
奈津子
P.S.ちょっと恥ずかしいけど、あの人との写真送ります。
あの人が、あなたに送ってあげなさい、って言うので。
************************************************************
最後の方が少し言い訳がましくなっているところに、奈津子の心の揺れみたいなものを感じ、逆に私は嫉妬しました。
メールを読み終えて、写真を開きました。
一枚目は、鶴岡八幡宮でしょうか、境内の中で二人で写っている写真です。
誰かに頼んで撮ってもらったのでしょう。
奈津子が田山の腕に自分の腕を絡めて微笑んでいます。
二枚目はホテルの部屋の中。
窓際のソファにバスローブ姿の二人がぴったりと寄り添って腰掛けている写真。
カメラをどこかに置いてとったのでしょう、少し画面が斜めになっています。
奈津子は腰に手を回されてぴったり引き寄せられ、ちょっと意味深な笑みを浮かべています。
よく見ると田山の手が奈津子のバスローブの前を割って奥に入っていました。
三枚目は、奈津子の顔のアップ、それもイクときの顔です。
多分、上になって挿入している田山が撮影したのでしょう。
口を半開きにして目を閉じた奈津子の長いまつ毛がとてもセクシーです。
メールを読み、写真を見終えた私は、いつものようにどうしようもなく勃起してしまい、結局自分を抑えることができなくて、自分の股間に手をやっていました。
そして、パソコンの中で絶頂を迎える妻の表情を見ながら、「奈津子〜」と声を出しながら射精してしまいました。
でも、そうやってオナニーをしても、その場しのぎにしかならず、結局、私の中には奈津子への抑えがたいほどの深い欲情がますます募っていくようでした。
- 訪問(1)
- ほんとに奈津子のいない一月は、気が遠くなるくらいに長く感じられました。
それも、ただいないのではなく、田山の妻のようにして暮らしているわけですから。
こうやっている間も、奈津子の体は奥の奥まで田山色に染め抜かれ、そのうえ奈津子の心まで田山のものになっていくような気がして、気が気ではありませでした。
でも、本当に情けないというか男の性の不思議というか、そんなふうに奈津子が他人の妻のようにいくことに、同時に、私は言いようもない興奮を感じていました。
私の股間が、それこそ奈津子のことをちょっと考えただけで勃起するくらいになったとき、やっと約束の一月がたち、田山のアパートに行く日が来ました。
前の日の夜、私はやっと奈津子に会える、奈津子に触れることができる、ひょっとすると抱けるかもしれない、と思うだけで興奮して眠れないくらいでした。
そわそわして仕事も手に付かない一日をなんとかやり過ごた会社帰り、私はデパートでワインを買って、田山のマンションに向かいました。
以前、ここに来たときのようにエレベーターを使って最上階まで行き、田山の部屋の前まで行くと、ドア・・・チャイムのボタンを押しました。
すると、しばらくすると廊下をパタパタ歩いてくる音がして、ドアの鍵が外され、ドアが開くと、奈津子が現れました。
「あ、いらっしゃい」
エプロン姿の奈津子に、一瞬私はよそのお宅の奥さんに迎えられた気がして、思わず「お邪魔します」と言って中に入りました。
それを聞いて奈津子は笑いながら、ドアを閉めます。
奈津子は髪型を変えていました。
私がそれに気が着くと、「あ、ちょっとイメチェンしちゃった」と微笑みます。
エプロンの下に着ている服も私の知らないものばかりです。
奈津子の首には、これも私の知らないゴールドのネックレスが光っていました。
それらがすべて田山と奈津子の新しい生活を強く私に印象付けました。
「リビングであの人と飲んでて。いまお料理の準備してるから」
「あ、うん、わかった。あ、これ」
「あら、ワイン?うれしいわ」
そう言って私に微笑むと、両手で私からワインを受け取ります。
奈津子に買ってきたワインを手渡しながら私は、久しぶりに見る奈津子をまぶしく感じていました。
私がリビングに入っていくと田山が立ち上がり、「やあ、いらっしゃい」と私に座るように手振りをします。
私はもう一度、「お邪魔します」と言って田山の前に座ります。
「水割りで?それともロックがいいですか」
田山は私に聞きます。
「あ、水割りでお願いします」
それから、私たちは向かい合って軽く乾杯しました。
「久しぶりです」
グラスを三分の一くらい飲み干した田山が私に言いました。
「ええ、そうですね」
それから田山は奈津子との一ヶ月間を、当たり障りのない話ばかりでしたが、私にしました。
鎌倉に行ったときのこと、それから、奈津子との生活に必要なものを揃えるためにショッピング三昧だったことなど。
それはまるで、若妻をめとった男が新婚生活の成果を私に報告しているかのようでした。
私に話しながら、田山は、私の水割りを足そうとしましたが、アイスペールに氷がもうないのに気が付いて、
「おーい、奈津子、氷を持ってきてくれないか」
まるで夫が妻を呼ぶように、キッチンにいる奈津子に向かって声を掛けます。
今度は奈津子が「はーい、今、持って行きま〜す」と返事をします。
私は、夫婦のような二人の会話に密かにショックを覚えていました。
以前このマンションをこっそりと訪れたときは、田山との激しい性愛に溺れていく奈津子に衝撃を受けましたが、今回はセックスという一部分だけの関係でなく、奈津子と田山の生活に安定感みたいなものが感じられます。
奈津子が、氷を持って来ると、それをアイスペールの中に入れました。
私の前に手を伸ばしてアイスペールを取る奈津子は、ひと月の間見ないうちに、ますます女の色香を増したように感じます。
ほんのり奈津子がよくつけている香水の香りがしました。
「今日は○○さんが来るというので、奈津子が腕によりをかけて料理をしているんですよ」と言って田山が笑います。
「○○さんに一月寂しい思いをさせたお詫びとか言って」
それを聞いて奈津子がちょっと恥ずかしそうに笑います。
それから、奈津子がテーブルに料理を並べ、ワインクーラーに入れたワインを運んでくると、
「さあ、準備ができました。いただきましょう」と私たちに言いました。
「○○さん、じゃあ、向こうに行きましょう」
田山に誘われ、私たちはテーブルの方に向かいました。
すると、テーブルでは当然のように田山と奈津子が並んで座り、私は田山の前に座りました。
奈津子が三人のワイングラスにワインを注ぐと、「カンパーイ」という奈津子の声で、三人は乾杯をします。
田山に睦まじく寄り添い、上目遣いに私を見ながら微笑んで、ワイングラスを口に運ぶ奈津子を見て、私はどうしようもないくらい欲情していました。
- 訪問(2)
- 当たり障りのない会話で終始した食事が終わり、「あっちで飲みなおしましょうか」という田山の誘いで私達は再びリビングのソファに移動しました。
ここでも奈津子は田山の隣に座り、二人の前に私が座る形になりました。
田山は、立ち上がると「ちょっと雰囲気を出しましょうか」と言いながら部屋のライトを少し暗くし、静かなイージー系の音楽をかけました。
それから田山は、私に水割り、奈津子にはウィスキー・・・ソーダを作り、自分はウィスキーのロックにしました。
再び三人でグラスをカチンと合わせます。
奈津子はウィスキーソーダを一口飲んで、「ふぅ、なんだか酔っちゃった」と言いながら、田山にもたれかかりながら私に微笑みます。
その仕草がほんとに自然なので、私はよその奥さんを見ている錯覚をおぼえました。
そして、深く座った奈津子のスカートから露になった形のいい脚を盗み見て、私は勃起していました。
これでは、まるで人妻に密かに欲情している男と同じです。
「こうやって一緒に飲んでいると、初めて三人でホテルに行ったときのことを思い出すね」
田山が、もたれかかっている奈津子に目を向けながら言います。
奈津子は黙ったまま、ちょっと恥ずかしそうな顔をして私をチラッと見ます。
ずいぶん昔のことのように感じる一方で、ついこの前のような気もします。
でも、あれからほんとにいろんなことがありました。
私がそんなことを思っていると、田山が、
「今日は、あのときみたいに○○さんの前で愛し合おうか、奈津子」
「え、・、なんだか恥ずかしいわ」
奈津子がうつむいたまま小さな声で言います。
毎晩田山に抱かれているはずの奈津子は、私に対して恥ずかしがっているのでしょうか。
田山に抱かれるところを夫である私に見られるのが恥ずかしいというのでしょうか・・・
田山はその言葉に構わずに、寄りかかっていた奈津子を両手で抱くとキスをしました。
突然のことに一瞬戸惑った奈津子も、すぐに田山の首に手を回して応えます。
それから二人は音を立てながらお互いの舌を吸い続けます。
目をつぶって田山とディープキスを続ける妻をみて、私の股間はカチカチになっていました。
しばらくしてやっと二人が体を離すと、奈津子は私を見つめながらはにかんだように微笑みます。
「奈津子、そこで服を脱いであげなさい」
田山が奈津子に言います。
「ええっ、ここで?」
「そう、そこで」
「だって」
「○○さんはこの1ヶ月奈津子のことばかり思ってきたんだよ。ねえ、○○さん、そうでしょう?」
「え、ええ、まあ」
私は少し口ごもりながら答えました。
でも、実際のところ、寝ても醒めても奈津子のことを思ってきたことは事実でした。
「だから、○○さんに見せてあげなさい、奈津子の体を」
そう言われると、奈津子はゆっくり立ち上がり、私と田山の間に立ちました。
そして、私を見つめながら脱ぎ始めました。
まず、ブラウスのボタンを外し、袖から腕を抜くと、軽くたたんで自分が座っていたソファのそばに置きました。
それから、スカートのホックを外し、ストンと床に落すと、ブラウスの上に重ねます。
それからパンティストッキングを脱ぐとパンティとブラだけです。
そこで奈津子は少し躊躇しています。
「やっぱり恥ずかしいわ」
田山に向かって奈津子は言いますが、田山はただ黙ってうなづきます。
奈津子が仕方なく背中に手を回してブラのホックを外すと、奈津子の形のいいバストが弾けるように露になります。
それから奈津子は再び躊躇していましたが、パンティに手をかけてサッと片足ずつ抜きました。
落したライトの中に白く浮き上がるような奈津子の裸体はとても美しいものでした。
奈津子は恥ずかしそうに俯いて、茂みと両乳首を手で隠しています。
夫の私に裸体を見られるのが恥ずかしいと感じるようになってしまったのでしょうか・・・
「手をどかして、ちゃんと見せてあげなさい」
田山が奈津子に命じます。
奈津子は言われるままに手をどかします。
「もっと近づいて」と田山。
すると奈津子は私のすぐ前まで進みます。
私が夢にまで見た奈津子の体が目の前にあります。
懐かしい奈津子の香りがします。
私の股間はもうはちきれそうになっています。
田山が立ち上がり奈津子の背後に立ちました。
「○○さん、よく見てあげてください」
田山はそう言いながら奈津子の後ろから手を回し、奈津子のバストを揉み上げながら、指で乳首を刺激します。
「あぁ」
奈津子が身をくねらせながら声を漏らします。
その首筋に田山は舌を這わせます。
田山はもう奈津子の性感帯を知り尽くしているようです。
田山は奈津子のバストを揉みしだきながら、足を使ってそっと奈津子の両足を開かせます。
「○○さん、触れてあげてください」
田山が言います。
「い、いいですか」
私は思わず尋ねました。
夫である私が妻の体に触れるのに了解を得ているのですから、変な話ですが・・・
「い、いゃ・」
奈津子が小さい声で言いますが、田山は奈津子の首を後ろに向かせ、自分の口で奈津子の口を塞ぎます。
手は相変わらず奈津子のバストをまさぐり乳首をつまみます。
昔から奈津子は乳首周りの性感帯も鋭く、これだけで全身の力が抜けてしまいます。
今も、もう力が半分くらい抜けているみたいで、後ろから回された田山の手に支えられています。
私は軽く開かれた奈津子の股間の茂みに指を這わせました。
そこはもう雫がたれそうに潤っていて私はそのネトッとした感触を楽しみながら、茂みに隠された割れ目にそって指を動かし、敏感な蕾の部分で指をとめ、コリコリとした感触を味わいながら軽く掻きあげます。
「あぁぁぁん」
奈津子が長いため息を漏らします。
それを聞くと、私までイキそうになります。
胸を田山に揉みしだかれ、股間を私の指で刺激されるうちに、奈津子は全身から力が抜けてしまったみたいで、もうほとんど田山に抱きかかえられているような格好になってしまっています。
すると田山が突然奈津子の両足を後ろから抱える格好で、まるで幼児にオシッコをさせるような姿勢で奈津子を持ち上げました。
「いやん」と奈津子が驚いて声を上げました。
抱え上げられた奈津子の股間は大きく開かれ、ソファに座る私の目の前にあります。
「舐めてあげてください、○○さん」
「は、はい」
私はグチュグチュに潤った奈津子の股間に顔をうずめ、蕾を吸い、割れ目に舌を這わせ、ヴァギナの中に舌を入れました。
いとおしい奈津子の香りがします。
この香りを最後にかいだのはいつだったでしょうか・・・
私は夢中で奈津子の股間をクチュクチュと音をたてながら愛撫し続けました。
その間中、私の頭の上で、田山に抱え上げられた奈津子の喘ぎ声を聞いていました。
次第に私の頭がボーッとしてきたとき、奈津子の体が私から離され、私の向かいのソファに両足を立てたまま座らされました。
奈津子は、私が今まで口をつけていて股間の茂みを露にしたまま肩で息をしています。
田山はすばやく自分が身に着けていた服を脱ぐと奈津子の隣に座ります。
田山のペニスは「そそり立つ」という表現がぴったりするくらい上を向いています。
田山は奈津子をいったん立たせててから少しずつかがませ、ペニスを奈津子の中心にあてがうと、自分の膝に据わらせるような格好でゆっくり腰を降ろさせます。
「あ、あぁ〜〜〜」
奈津子はゆっくり腰を降ろしながら、顔を上に向けたまま長い声を漏らしました。
奈津子が腰を降ろし終わると、下にいる田山が奈津子の両腕を後ろから引っ張りながら腰を使い始めます。
次第に奈津子は我を忘れたように喘ぎ声を出し続けます。
「どうだ、奈津子」
「い、いいわ、とっても」
奈津子は髪を振り乱しながら言います。
「○○さんを見て、ちゃんと教えてあげなさい」
そう言われ、奈津子は田山に両腕を後ろから引っ張られたまま、トロンとした目で私を見つめながら、「と、とってもいいです」と言います。
「どれくらい?」
「とても、とっても・・・おかしくなりそうなくらい」
田山の膝の上で貫かれたまま、私の目を見つめながらうわ言のようにそう言う奈津子を見て、私は喉がカラカラになっていました。
それからほどなく奈津子はその姿勢でアクメを迎え、今度は田山と向き合う姿勢で交わり、田山の首に両腕を回してしがみつきながら二度目のアクメ。
そして、ソファに横になった奈津子の片足を高く持ち上げながら、松葉崩しのような姿勢で田山が上になり挿入しました。
田山から激しく突かれながら、奈津子も朦朧とした表情で「あ、あなた、い、いいわ」と田山の背中に手を這わせています。
私はもう我慢ができず、サイドテーブルにあったティッシュを手にしながら、ズボンから今にもはちきれそうなペニスを引きずり出してしごきました。
まず最初に奈津子が長い声を上げながら三度目のアクメを迎え、それを確かめるように田山が射精。
そして、私。
ほぼ同時に三人でオーガズムを迎えました。
それからしばらく三人は無言のまま肩で息をしていましたが、奈津子と田山は脱いだ服を身に着け、またもとのように三人ともソファに座ってウィスキーを飲みました。
「○○さん、どうでしたか、久しぶりにご覧になる奈津子は?」
田山が私に聞きます。
「と、とてもよかったです。ほんとに興奮しました」
奈津子は田山のそばで体を縮め、私を上目遣いにチラッと見ると「えへっ」というバツの悪そうな表情で舌を出しました。
- 訪問(3)
- 「奈津子、○○さんと話がしたいんだろう?」
田山が奈津子を向いて言いました。
「あ、ええ」
奈津子はちょっと口ごもります。
「じゃあ、久しぶりに二人だけで話ができるように、私はちょっと外に出ているよ」
田山はそう言ってグラスを手にして、リビングルームを出てキッチンの方に行きました。
バタンと音がしたので、バルコニーに出たようです。
「なに?話って」
私が奈津子に聞きます。
「あ、うん・・・あのね・、わたし、もう少しあの人と一緒に暮らしていいかな」
心のどこかで予想していた言葉とは言え、やはりショックでした。
「もう少しって、どのくらい?」
「・、わからないわ、わたしにも」
「戻って、それで、ときどき会うっていうのじゃ、ダメなの?」
「」
奈津子は困ったように目を落とし、しばらく黙っていましたが、やがて小さな声で、「うん」と言いました。
「そう」
私はそう言うしかありませんでした。
「ごめんなさい・・・わたしも自分が何を考えているのかわからないの。でも、今は、あの人なしではだめみたい」
そう言うと奈津子は両手で顔を覆って下を向きます。
「いいよ、奈津子。納得するまで田山さんと一緒にいなよ。大丈夫だから、僕は」
とは言ったものの、私自身、「納得するまで」がいつまでになるのか、そもそもそれが来るのかすら、分かりませんでした。
「ほんとにごめんなさい」
奈津子はうなだれたまま繰り返します。
「いいよ、ほんとに。それに、ときどきは会えるんだろ?」
「ええ、もちろんよ」
奈津子が顔を上げてそう言いました。
「そうやって奈津子とデートをするのも新鮮かもしれないな」
「うん、きっとそうだわ」
奈津子が顔を輝かせてそう言うと、微笑みました。
「もう少し飲む?」
空になった私のグラスを見て、奈津子が言いました。
「あ、ああ」
「じゃあ、グラスこっちにちょうだい」
奈津子言われて、私がグラスを手渡します。
手渡すとき、指と指が触れて、よその奥さんとそうなったみたいに、ちょっとドキッとしました。
ちょっと横座りをして私のために水割りを作る奈津子の、タイト・・・スカートに隠された腰からヒップのラインを盗み見ながら、この一か月の間にずいぶんと女の色気が増したと感じていました。
「奈津子、ちょっと見ない間になんだかずいぶんセクシーになったね」
奈津子は水割りを作る手を一瞬止めて、私をみてきょとんとしたかと思うと、
「なによお、急に」と言って笑いました。
「ほんとだって」
「あはは、ありがとう。夫にそんなこと言ってもらえるなんて、嬉しいわ」
そういいながら出来た水割りを私に手渡します。
そして、自分のウィスキーソーダをとり、両手で持つと、私を上目遣いに見て微笑みながら一口飲みます。
私は、この愛しい奈津子の体が、私と離れている間に田山との性に染められていたのだと思うと、心の奥底から熱い嫉妬が湧き上がり、そして同時にどうしようもないくらい奈津子に欲情していました。
この体がすべて田山の性で染め抜かれてしまったとき、私たちはどうなっているのでしょうか・・・
いや、もう既に・・・
「どう?」
私は聞きました。
「・・・?」
奈津子が首をかしげます。
「田山さんとの生活」
「気になる?」と奈津子。
「当たり前だろ」
「うふ、それはそうよね」
奈津子が含み笑いしながら、グラスをテーブルに置きます。
「そうねえ、なんだか自分が自分じゃなくなっちゃったみたい」
奈津子は、遠くを見るような目で床を見つめながらそう言いました。
「こんなことあなたに言っても、よくわからないわよねえ」
今度は私を見ながら言います。
「なんていうのかしら、自分もこんなふうになれるんだって・・・そんな感じ」
そのとき、バタンという音がして、田山が戻ってきたようでした。
それを聞いて私は、「じゃあ、そろそろ遅いから僕はおいとましようかな」と言って立ち上がろうとすると、「あら、泊まっていかないの?」と奈津子が言います。
そこに田山が入ってきたので、私が、「そろそろ、これで・」と言うと、田山も泊まっていくように勧めます。
「あなたのお部屋も用意しているのよ」
「そうですよ、もう遅いし、ゆっくり泊まっていかれたらどうですか」
結局私は、二人に勧められるままにその夜は田山のマンションに泊まることになりました。
- 訪問(4)
- 「ということで、飲み直しましょう。夜は長いですから」と田山は私に言い、私は促されるままに、またソファに座りました。
そしてキッチンで私たちのためにつまみを用意をしてくれた奈津子が、「もう乾きものみたいなのしかないけど」と言いながら戻ってくると、三人でまた乾杯をしました。
それからの私は二人の聞き役でした。
奈津子と田山がこの一月の間のことを、嬉しそうに私に話して聞かせます。
二人が時折ああでもない、こうでもないと言い合っているのを聞きながら、次第に私は、酒も回ったのか、眠気に襲われました。
それでも、最初は、眠気の中で相槌を打っていましたが、だんだん二人が談笑する声が遠くなり、とうとう自分でも気がつかないうちに寝込んでしまったようです。
どれくらい寝込んだのでしょうか、私が目を覚ましたとき、私はソファに横になっていて、その上に毛布が掛けられていました。
リビングのライトも暗く落とされています。
一瞬私は自分がどこにいるのか思い出すのに時間がかかりましたが、やがてそれがわかると、奥の部屋の方から談笑する声が聞こえるのに気がつきました。
私は、トイレを借りようと立ち上がり、廊下に出ると、二人の声はバスルームの方から聞こえます。
廊下も照明が落とされていて、バスルームの前の洗面所のドアの下から光が漏れています。
どうやら二人は一緒にお風呂に入っているようです。
トイレに向かおうとしていた私ですが、二人のことが気になり、洗面所の引き戸を音を立てないようにそっと少しだけあけ、中を覗きました。
洗面所もライトが落とされているので、私のことは多分気づかれていません。
照明に照らされたバスルームが模様ガラス越しにぼんやり見えます。
模様ガラス越しなので、二人の表情は見えませんが、でも様子はわかります。
どうやら二人ともバスタブの外にいて、田山がバスタブのへりにこちらを向いて腰掛けて脚を開き、その前に奈津子がかがんで、田山の股間に顔をうずめているようでした。
時折バスルームに響く、「チュバッ」という音を聞けば、奈津子が何をしているかは言うまでもありません。
よく見ると奈津子が一生懸命頭を動かしています。
やがて田山の声が漏れ、奈津子の頭の動きが早くなったところで、田山が今度は奈津子をバスタブのへりに手をつかせ、ヒップを高くかかげさせると後ろから奈津子の中に挿入したようです。
それからは、ベチャン、ベチャンと二人の体がぶつかり合う音と、奈津子の押し殺したような喘ぎ声がバスルームに響きます。
そして、「あっ、あぁぁぁ」という糸を引くような奈津子の声と同時に田山の動きが遅くなります。
どうやら二人は同時に果てたようです。
田山は奈津子の後ろから背中に重なったまま、しばらくじっとしていましたが、やがて体を離すと奈津子を立たせ、抱きしめてキスをしているようでした。
「あの人が起きてたら、聞かれちゃったかなあ」と奈津子が言っています。
「いいじゃないか。奈津子も聞いせたいんじゃないのか」と田山が言って笑います。
「んもお、意地悪ねえ」と言って、奈津子も笑っていました。
その奈津子が、「わー、こんなに沢山出てたのー」と下を向いて自分の股間を見ながら言っています。
すると、田山が「どれ、どれ」と言いながらかがみこんで奈津子の股間を覗き込んでいます。
そして、「ほんとだ」と田山が満足そうに言います。
そしてシャワーの音。
田山が奈津子の体をシャワーで流し、そして自分の体を流すと、二人一緒にバスタブに入りました。
田山が先に座り、田山に後ろから抱きかかえられるようにしてその前に奈津子が座っているみたいです。
しばらく二人は無言で、湯の音だけがしていましたが、
「わたし、まだしばらくあなたと一緒にいていいって」と奈津子がポツリと言いました。
田山は黙って聞いています。
「あの人が、私が納得するまでいていいって」と奈津子。
「いつまでもいていいんだよ」
「・・・」
奈津子が後ろを振り返って田山を見ているようです。
「ほんとだからね」
田山が念を押すように言います。
奈津子は田山の胸に頭をあずけたようです。
「わからないわ、わたしにも。そうなるかもしれないし」
奈津子が風呂の湯を静かにかきながら言いました。
そして、再び体を少し浮かせて後ろを振り返り、田山の方を向くと、
「でも、今のわたしには、あなたが必要なの。あなたしかダメ」
言うと、クスクスと笑い、また田山の胸に抱かれます。
それを聞いて私は、洗面所の引き戸を音をたてないようにそっと閉めました。
- 抱擁
- リビングに戻ってソファで寝た振りをしていると、二人がバスルームから洗面所に出てくる音が聞こえました。
妻が押し殺した声で「まだ寝てるみたいね」と言っています。
「残念だった?声を聞いてもらえなくて」
田山も小さな声で言っています。
「んもお」
「じゃあ、続きはベッドでね」
「まだするの?」
妻が呆れたように言っています。
「あ、わたし化粧ポーチ、リビングに忘れてきちゃった。待ってて、お手入れしてから行くから」
「早くしてくれよ、ほら。これみてくれよ」
「はい、はい。まあ、もうこんなに。元気だわね」
妻がクスクス笑います。
それからリビングのドアがそっと開いて妻が入ってきました。
私は気がつかれないように薄目を開けて見ます。
暗く落とされたかすかなライトの中に、胸から下にバスタオルを巻きつけた妻の姿がうっすらと浮かび上がります。
妻は足音を立てないように私の前を通りました。
湯上りのいい香りが漂います。
奈津子は私が寝ている前を通ってリビングの反対側のコーナーの方に行き、ちょっとかがんで化粧ポーチを取ると、またドアに向かいます。
そのまま通りすぎようとした奈津子は、ちょっと立ち止まっていましたが、私の足のところの空いたスペースに腰をかけると、そのままじっとしています。
暗いので私が薄目を開けているのに気がつかないのでしょうか、妻はじっと私を見つめているようでした。
それから、立ち上がる前に、私の毛布をきちんと掛けようと手を伸ばしました。
そのとき私は、奈津子の手をつかんで引き寄せました。
「キャッ」と奈津子は言いましたが、それには構わず私は、妻を自分の上に乗せるようにして強く引き寄せ、抱きしめ、口づけしました。
妻は何か言おうとしていましたが無理やり唇でふさぎ、奈津子の唇を、そして舌を吸います。
それから奈津子を包んでいたバスタオルを荒々しく手ではがすと奈津子の豊かなバストを揉みしだき、まだ風呂上りで暖かい奈津子の体に唇をつけ、乳首を吸いました。
「ちょ、ちょっと、あなた、な、なに、急に」
虚をつかれた奈津子は一瞬抵抗しましたが、私が強く抱き寄せると観念したように私に体を委ねます。
そして横向きになって向かい合いながら抱き合うと、奈津子も積極的に脚を絡めてきました。
私は奈津子のきめの細かい肌の上に唇を這わせ、手を滑らせます。
ほんとに久しぶりに触れる奈津子のしっとりとした肌の感触に頭の中が痺れるくらい欲情していました。
そして、この愛しい奈津子のこの体が、ついさっきも田山に好きなように貫かれ、突き上げる快感に悦び震えていたかと思うと狂おしい気持ちになります。
「奈津子、奈津子が欲しいよ・」
シャンプー香りのする奈津子の髪に顔を押し付けて、私はしぼり出すような声で囁きました。
「もう、だめなんだ。
どうしようもなく欲しい」
「・・・」
奈津子は無言のまま私の背中に手を回します。
奈津子の細い指先が私の背中をゆっくりとなぞるのを感じます。
そのまま私たちは黙ってしばらく抱き合っていましたが、やがて奈津子がぽつりと「ごめんね」と言いました。
「今はだめなの」
「なぜ?」
「だって、今はあの人が・・・ね、ごめんね、ほんとに」
そう言うと、奈津子は今度は自分から私の唇を求めてきます。
そして、ひとしきりキスをしてから、体を離すと、私から視線をそらせ、「今のわたしは、もうあなたが知ってるわたしじゃないの」と言いました。
そして起き上がると、床に落ちたバスタオルをまた体に巻きつけると、「ごめんなさい」と言って、急ぎ足でリビングを出て行きました。
「な、奈津子」
私は思わず奈津子を呼びました。
奈津子は一瞬足を止めましたが、振り返ることもなくリビングのドアを押し開けて出て行きました。
私は起き上がり、奈津子の肌の余韻を手に感じながら、呆然としていました。
奈津子はいったいどうなってしまったのでしょうか・・・
狂おしいまでに求めている私にさえ体を許そうともしない奈津子。
それほどまでに今の奈津子は田山のものになってしまったのでしょうか。
私は私で、奈津子の体を抱きながら、まるで他人の妻を抱いているような錯覚を覚え、そしてそのことがいっそう私の奈津子への欲情を激しいものにしていました。
そう、今日、このマンションを訪れてからずっと私は、奈津子のことを、まるで田山の妻のように感じていました。
そして、そんな奈津子に私は、これまでに感じたことがないほどの欲情を感じ続けていたのです。
私は立ち上がると身づくろいを整え、紙に簡単に今日の礼を書き置きすると、廊下に出ました。
すると寝室から声が聞こえます。
でも、それは話し声ではなく、奈津子の喘ぎ声のようです。
私はたまらず足音を忍ばせ、ドアの前まで行きました。
さすがにドアをあけるわけにもいかず、外で盗み聞きしていると、やはりそれは奈津子の喘ぎ声でした。
「ああ、あなた、いい・・・もっと、愛して、もっと」
「奈津子、奈津子」
田山は奈津子を呼び続けていました。
「ああぁ、あなた。もっと来て、もっと奥まで。わたしをぜんぶあなたのものにして」
「奈津子、奈津子。お前を離さないよ・」
「あなた、ああ、嬉しいわ。もう、どうなってもいいわ・・・あぁぁぁぁ」
私は、奈津子が絶頂を迎える声にたまらなくなり、静かにそこを離れると玄関に向かい、靴を履くと、音を立てないようにそっとドアノブを回して外に出ました。
- 一人
- 一人で自宅に戻ってからの私は、まるで人妻に恋焦がれる男みたいでした。
あの夜目にした奈津子の姿がいつも頭の中で甦り、その度に私は抑えようがないほどに欲情を募らせました。
田山に後ろから抱え上げられた奈津子の股間に顔を埋めたときの懐かしい香り。
奈津子の茂みの中のクレバスに沿って這わせた舌の感触と体液の味。
田山のペニスが誇らしげに出入りを繰り返す奈津子のヴァギナ。
そしてソファの上で刹那抱き合った奈津子の肌のキメの細かい肌の感触。
それらを思い出しては反芻しては自らを慰めていました。
私が帰った日から三日後の夜、奈津子から電話がありました。
「こんばんわ」
愛しい奈津子の声です。
「うん」
「どうしてた?」
「うん、特に。いつもどおりかな」
「そう」
「どうしたの?」
「あ、うん、別に。どうしてるかなと思って。だって、朝起きたらいないんだもん」
「ああ、ちょっとね」
「怒った?」
「何を?」
「わたしがしてあげなかったこと」
「あ、そのこと」
「怒ったでしょ?」
「それほどでも」
「ということは、やっぱり怒ったんだ」
「ちょっと悔しかったかな」
「ごめんね」
「ああ・・・でも、どうして?」
「うん・・・なんかね、もうあの人、なんていうのかしら、わたしにすっかりのめり込んじゃってるの」
「そうみたいだね」
「最初はね、やっぱりあなたに気を使っていたみたいだけど。最近は自分で自分のことが抑えられないみたい」
「だって、奈津子もそうなんだろう」
「・、うん」
素直に言うところが逆に可愛らしく感じます。
「ごめんね。でも、あなたのこと愛してないとか、そんなんじゃないの。ほんとに」
「ああ、わかってる」
「あなたに言うのも変なんだけど、でも、あなたにしか言えないの、こんなこと・・・お互いこんな風に息苦しいくらいのめり込んじゃってて、こういうことってあるんだ、って感じなの。もう、自分の体が自分じゃないみたいにあの人のことを求めちゃうし、あの人もそうみたい。こんな状態であなたとするのが怖かったの」
「ああ、いいよ。熱病みたいなもんだろ」
「あはは、熱病か。そうかも、うんん、そうだわ、きっと」
「まあ、好きなだけのめり込んでればいいよ。そんな奈津子を見るのも悪くないし」
「ほんと?」
「ああ」
「でも、わたしとできなくて辛い?」
「ちょっとね。でも、見るだけで我慢するよ」
「ほんと?」
「ああ」
「でも、この前みたいにあなたに見られながらすると、なんか感じちゃうわ。あの人もそうみたい」
奈津子がクスッと笑います。
「僕もすごく興奮した。なんだか奈津子が人妻みたいで」
「へえ、あなた人妻趣味があるの」
「そうなのかなあ」
「あはは、人妻かあ・、今の状態だとまるでそうだわね」
「ほんとだね」
「じゃあ、今度あなたと浮気してあげる」
奈津子がまたクスクス笑いながら言います。
「浮気ね」
私も苦笑します。
「でも、大変かも。あの人にいつも見張られてて」
「ふーん、でも、それがまた嬉しいんだろ?」
「・・・エヘッ、まあね」
「なんだよ」
私がちょっとふくれたように言います。
しばらくそんなやりとりをして、「じゃあ」と言って奈津子は電話を切りました。
奈津子にはそう言ったものの、実際の私は日々狂おしくほどに奈津子のことを思っていました。
確かに今の奈津子と田山の関係は、私が言ったように熱病のようなものかもしれません。
でも、その熱病がいつ醒めるのか、そもそも醒めるのかさえ私には分かりません。
そして、仮に醒めたとして元の奈津子に戻っているのか、それともまったく別の奈津子になってしまっているのか・・・
それからも奈津子はときどき私に電話を掛けてくれますし、メールも書いてくれます。
仕事の関係で田山は頻繁に地方に出張するみたいで、その田山についていったときの写真とかも送ってくれます。
奈津子が特に行きたいと言っているわけでもないのですが、田山が連れて行くといってきかないと、苦情かノロケけ分からないようなことが書いてありました。
写真の方は、道行く人に撮ってもらったのか、二人が寄り添い、奈津子が田山の腕に軽く手を廻している姿で、ちょっと年が離れていますが仲の良いカップルのように見えます。
おそらくこの写真を撮った人は、年不相応に若い妻を娶った田山の幸運にジェラシーを感じたに違いありません。
そんな当たり障りのない写真の後は決まって、「これはあなたへのサービスだって」と、ホテルの部屋での艶めかしい二人の写真がつけてあります。
テーブルの上にカメラを置いて撮ったのでしょう、ソファに座る田山の膝の上で抱き合いキスをする二人とか、バスローブ姿でワイングラスを傾ける奈津子の写真とかがつけてありました。
もちろん、二人はこの写真を見ながら私が自分を慰めることを知っているからこそ、「サービス」だって言っているのでしょう。
- 妻
- それからも奈津子はちょくちょく電話をしてくれ、田山との生活のことをあれこれ報告してくれます。
もちろんそれは、奈津子が一人でいる私を気遣ってのことでしょうが、その話のどれも、田山の「妻」として生活する奈津子を強く私に感じさせるものでした。
そして、そんな話を聞く私は、人妻になった元彼女に思いを寄せる男のような気持ちで聞きます。
奈津子は奈津子で、まるで親しい友人に話すみたいに、なんでも話して聞かせてくれます。
会話を聞く限り、今の私たちは夫婦というより、何でも話せる親友みたいな感じでしょうか。
でも、実際のところは、私はいつも密かに、そして激しく奈津子に欲情していました。
掛かってきた電話に出ると、ちょっと甘ったる響きで「もしもし、あなた?」と言う奈津子の声を聞くだけで私のペニスははちきれんばかりに固くなっていましたから。
今の奈津子は、以前と違って田山の女になりきってしまったことを、悪びれる風もなく私に話します。
例えば、奈津子は、田山と暮らし始めて、ますます田山とのセックスに感じるようになったと言います。
「あの人の話だと、もともとセックスが合う者同士がその相手とセックスし続けることで、女の膣の形が相手の男性のペニスの形にますます合うようになるんだって。だから、ますます感じるようになるんだって」と真面目に言います。
「このごろ、もう、ほんとにもう怖いくらい感じちゃって。あの人に抱かれると、いつも自分でわけがわからなくなるの」
私が目にした奈津子と田山との激しい交合のシーンが蘇り、私は一瞬めまいがしそうになりました。
「どのくらいしてるの」
「ほとんど毎日かな」
そう言って奈津子はエヘッと笑います。
「へーっ、毎日?あの年で」
「ほんとよ。それに、あの人、わたしを抱いているとき、ときどき何かに憑かれているみたいになる感じなの」
「憑かれてる?」
「そうなの・・・そういうときは、わたしがヘトヘトになって動けなくなるくらいまでセックスし続けないと気が済まないみたいだし。セックスの間も、私のことを呼び続けて、わたしのすべてがほしい、ほしいって言い続けるの」
「・・・ふーん」
私は思わず苦笑いしました。
「あ、ごめん」
「別に、いいんだよ」
私が田山のマンションを出るとき、田山が奈津子と交わりながら奈津子を呼び続けていた声を思い出し、しばらくの間無言になりました。
「辛い?」
奈津子がポツリと聞きました。
「ん?」
「わたしとできなくて」
「そりゃね。でも、こんな感じもいいかな、変だけど」
「どんな感じ?」
「奈津子のことがいつも欲しくて、欲しくて、いつもアレが大きくなってる」
「あはは、嬉しいわ。どうしてもしたかったら、浮気してあげるわよ」
「いいよ。こんな感じで悶々と奈津子のことを思うのも悪くないかな」
「そう・・・じゃあ、もっと悶々とさせてあげるわ」
そう言って、奈津子はまたクスクス笑います。
「ときどき、いつもあのときの奈津子の姿を思い出してる」
「あの人に抱かれてたときの?」
「そう」
「なんか恥ずかしいわ・・・どうだった?」
「ものすごく色っぽくて、痺れた」
「また見たい?」
「もちろん、見たい」
「あのときよりもっと乱れるかもしれないわよ。でもいいの?」
「ますます、いい」
「あの人に抱かれながら、あなたが嫉妬で狂いそうになるような事を言っちゃうかもしれないわよ」
「それがまた、いいんだよ。それに、この前も言ったけど、田山さんのマンションに行ったときの奈津子、人妻みたいでなんかゾクッとした」
それを聞いて奈津子はクスッと笑います。
「わかったわ。もっともっとあの人の妻みたいになって、あなたを、嫉妬で狂わせてあげる。いいわね」
奈津子の口から出た「田山の妻」という言葉に妙に現実味を感じて、私は一瞬唾を飲み込みました。
そして言葉が妖しく私の心に響き続けていました。
「あ、そうそう」
奈津子が思い出したように言います。
「なに?」
「前によく三人で行ってたクラブ、おぼえてる?」
田山と奈津子を引き合わせた最初の頃、よく三人で行っていた田山の行きつけのクラブのことでしょう。
四十くらいの落ち着いた、感じのいいママさんがいるクラブです。
そういえば最近は行っていません。
「ああ、あのクラブね。どうしたの?」
「あの人がまた一緒にどうですか、って」
「君たちさえよければ、いいよ」
「そう、よかった。じゃあ、来週の金曜日空いてる?」
私は頭の中で来週のスケジュールを確認します。
「うん、大丈夫だと思う」
結局、私たちは来週の金曜日の夜に再会することにしました。
- ネックレス
- それからは次の金曜日までの間、私はまるで恋人に久しぶりに再会する男のような気持ちで待ちました。
最近の奈津子は、私と電話で話しているときでさえ、田山の「妻」のような雰囲気を漂わせています。
私も自分の妻と話しているというよりは、人妻になった元妻と話しているようです。
それにしても、奈津子が毎日のように田山に抱かれているとは・・・
それに、あの激しさで・・・
二人の交わりの様子を自分の目で見てしまっているだけに、奈津子自身の口から「毎日田山に抱かれ、その度に自分でもわけが分からなくなるくらい感じてしまう」と言われると、何か特別の生々しさで二人の姿がよみがえり、私のペニスは抑えがたいほどになります。
そして、以前、私にメールで送られてきた二人の写真を見ながら、自分で自分を慰めなければならないことも度々です。
そうしている間も、日々、奈津子の体は隅々まで田山の女として完成されつつあるのかもしれません。
奈津子が言うように、性器の形状さえ田山に合うように・・・
ところが私は、そんな奈津子にこれまで感じたことがないようなエロスを感じているのです。
さらに深く奈津子の体がもっとも奥深くまで田山のものになることを怖れ、そしてその一方で密かに期待し、欲情するという矛盾に満ちた気持ちでした。
約束の金曜日、私は職場の同僚と軽く飲んだ後、ちょっと早かったのですが、九時少し前に例のクラブに向かいました。
「あら、いらっしゃい」
ママの華やいだ声に迎えられ、私は奥まった席に座りました。
時間が早いので他の客はまだいません。
店としてはそれほど大きくはありませんが、シックなインテリアです。
ママと、それから三人のホステスたちも落ち着いた感じです。
ミナという二十代後半くらいのホステスが作ってくれた水割りを飲んでいると、ママさんが隣に来て座りました。
「最近、いらっしゃらないので、どうしたのかと思っていましたわ」
「ええ、ちょっと」
私は生返事をしながら、ママにも水割りを勧めます。
ママさんは軽く礼を言って自分の水割りをミナに作らせ、目の高さにグラスを持ち上げ乾杯のジェスチャーをして一口飲むと、「お久しぶり」と言います。
「田山さんは、相変わらず?」
「ええ、ときどき。奈津子さんとご一緒に」
ママには、誰も奈津子の本当のことは話していませんでした。
それは三人でのデートを楽しくする工夫でしたし、込み入った事を深く聞かないことは、この業界のマナーなのでしょう。
「素敵な方よね。わたし、奈津子さんととても話が合うのよ。だから、いつも田山さんとご一緒に来られると二人で話し込んじゃって、田山さんに叱られますのよ」とママが笑います。
「田山さんが夢中になるの、無理ないわ」
「田山さん、そんなに夢中ですか」
私が苦笑しながら聞きます。
「ええ、それはもう」とママは言うと、可笑しそうに口を押さえながら笑います。
「あら、噂をすれば・・・いらっしゃったわ」と言ってママは立ちました。
入り口の方を見ると、田山と奈津子が別のホステスに迎えられていました。
二人も私を見つけて、目を合わせ、軽く会釈します。
久しぶりに目にする奈津子に私の胸が少しドキドキします。
やがて二人は私のところにやってきて、ちょうどコーナーになっている席に座りました。
田山と奈津子を真ん中にして奈津子とママが、私と田山が並ぶ形です。
久しぶりに見る奈津子はなんとなくまぶしく感じます。
私が見たことのない薄い水色のミニ・・・ワンピースがとても似合っていました。
細い腰からヒップのきれいな曲線を強調し、胸もほど良く開いて、上品でありながらセクシーな服で、多分田山の趣味なのでしょう。
そして、奈津子の首にゴールドのネックレスが光っています。
私が見たことがないものなので、これも多分田山が身に着けさせてものなのでしょう。
「お待たせしてしまいました」と田山が詫びました。
「いえ、ママと話をしていましたから」
「どうせまた、ママのことだから私の悪口を言ってたんでしょう」
田山が悪戯っぽくママを睨みながら言います。
「まあ、とんでもありませんわ。素敵な方をゲットしてお幸せみたい、と申し上げてただけですわ」とママが笑います。
ミナが作ってくれた水割りがみんなに行き渡ると、軽くグラスを持ち上げ、乾杯をしました。
それから私たちはしばらく雑談をしていましたが、そのうち別の客が来たので、ママは「ごめんなさい」と言って、出迎えに行きました。
「三人でよく来た頃のこと、思い出しますね」と田山が言います。
「ええ、そうですね」と私が相槌を打ちます。
そういえば、奈津子が最初に田山に抱かれたのも、この店で飲んだ後でした。
それからというもの、奈津子は坂を転げ落ちるように田山との性愛に溺れ、田山と同棲するまでになったのでした。
奈津子も同じことを思っているのか、田山の隣で静かに水割りを口にしていました。
「今日はあの頃みたいに楽しみましょう」と田山が言いました。
「ええ」と私が答えます。
ちょうどそのとき、さっき店に入って来た客の一人が少しムーディーな曲を歌い始めました。
それに合わせて、別の客がホステス相手にフロアでチークを踊りはじめました。
それを見た田山が、「奈津子、○○さんと踊れば?」と言います。
下を向いて静かに水割りを飲んでいた奈津子が、ちょっと驚いた表情で顔を上げ、「え、ええ、そうね」と言うと、私に向かって「踊ってくださる?」と微笑んで言います。
「あ、うん」
私も一瞬虚を突かれた感じで戸惑いましたが、奈津子の手をとり中央のフロアに出ると、奈津子の背中に手を廻し、踊り始めました。
奈津子も私の腰に手を廻します。
服の上からではあるものの、奈津子の体に触れるのは久しぶりです。
薄手のワンピースから手に伝わる奈津子の体の感触で思わず股間が固くなります。
「あなたとこうやって踊るなんて、ほんと久しぶりだわね」
私の耳元で奈津子が言います。
奈津子がいつもつけている香水の香りがします。
香水だけは以前のままのようです。
「ああ、ほんとに」
「どう?」
奈津子が聞きます。
「何が?」
「わたしとこうやって踊るの」
「うーん、なんかよその女と踊ってるみたい」
それを聞いて奈津子はくすっと笑い、「どうして?」と聞きます。
「髪型も変わったし、服も僕の知らないものだし。そのネックレスも」
「あ、これ」
そう言うと、奈津子は私から体を離し、首にかかっている細いゴールドネックレスを手にとって私に見せると、また私に体を寄せます。
「これ、今日あの人が買ってくれたんだけど、ちょっと特別なの」
「そりゃ特別だろうね」
私はちょっと皮肉を込めて言いました。
「うんん、そうじゃなくて、これ自体が」
「あんまりそうは見えないけど」
「これね、一度つけると取れないの」
「えっ」
「特別な店でつけてもらうとね、もう外せないよ」
確かにそのネックレスと首の周りにはあまり隙間がないので、どこか外れるところがなければとれないみたいです。
「なんでまた、そんなものを」
「あの人が、わたしのことを自分のものにした印がほしいって言って、『指輪は外せるけど、これなら外せないから』って言って」
「それでオーケーしたんだ、それをつけるのを」
「・・・うん」
それからしばらく二人は無言のまま歌に合わせて体を揺らせていましたが、ちょっと悪戯っぽい目で私を見ると奈津子は私の耳に口を近づけ、「その後で、ここにくる直前まであの人に抱かれてたの」と言いました。
私が驚いた表情をすると、また私の耳に口を寄せ、「あなたと一緒にいる間もセックス余韻を感じさせていたいんだって」と言います。
それからまたしばらく静かに揺れていましたが、今度は私が「どう、田山さんとの生活」と奈津子の耳元で聞きます。
「聞きたい?」
奈津子が私に体をくっつけたまま言います。
「ああ」
「ほんとに?」
「ああ」
「・・・」
奈津子はしばらく黙ったまま音楽に合わせてゆっくりと体を揺らします。
奈津子の体がぴったりと私にくっつく感触に、自然と私の股間の固さが増します。
「あなたの望みどおりになったわよ」
奈津子が私の耳元に口を近づけて囁くように言いました。
「・、というと?」
「もうすっかりあの人のものになっちゃった気がするわ。自分でもどうしようもないくらい」
「」
「だからこのネックレスを着けることをオーケーしたの。もう自分でも、わたしの体はあの人のものだって気がするんだもん」
「心は?」
「・・・あなたのこと愛してるわよ、もちろん。それは変わってないわ。でも」
「でも?」
「この前、あの人のマンションにあなたが来たとき」
「うん?」
「ごめんね」
奈津子が謝ります。
眠ったふりをしていた私の近くに来た奈津子を抱きしめたときに私を拒んだことを言っているのでしょう。
「いいんだよ」
「・・・・・・実はね、昔も同じことがあったの」
「昔?」
「あなたと一緒になる前に、付き合っていた彼の話したでしょう」
「ああ」
奈津子は私と結婚する前、それまでに付き合っていた男性の話をすべて私にしてくれました。
「その中のEさんとのこと、憶えてる?」
「うん」
「彼と付き合っているときにね、彼の友達と体の関係になっちゃったの。この話もしたわよね」
「ああ、聞いた」
「わたし、彼のこと、とても愛してたし、彼の友達とそんな関係になった後も、愛してたの」
「・・・」
「彼の友達とはただの体の関係だった。セックスの相性がとてもよかっただけ」
「そのことも聞いた」
「でも、わたしの体はひとりでに彼の友達の方を求めていたわ。頭じゃ分かってるのよ、わたしがほんとに愛してるのは彼だけだって。でも、体は彼の友達の方を求めていたわ」
「・・・」
「でね、それまでなんとなく彼に抱かれるのを自然と避けていたんだけど、あるとき激しく求められて抱かれたの」
「それで?」
「できなかったの・、あんなに愛してた彼と。濡れないし、体が受け付けないの。信じられなかったわ、自分が」
「・・・」
「それ以来、彼とどんどん気まずくなっちゃったの。彼も薄々気づいていたのかもしれないわ、彼の友達とのこと。で、確かめたかったのかもしれない」
「なのに、できなかったってわけか」
「わたしもショックだった。彼から別れを告げられてから、毎日泣き続けてたわ」
「そう」
「この前、その事を思い出しちゃって怖かったの。もし、前みたいになっちゃったらどうしようかと思っちゃって」
「ははは、馬鹿だなあ、そんな心配しなくたって。大丈夫だよ、僕は」
私がそう言うと、奈津子は私からちょっと体を離して私を見つめ、「ごめんね」と言うとエヘッと微笑み、また私に体をぴったりくっつけます。
それからしばらく私たちは体を寄せ合ったまま黙って揺れていましたが、曲が終わったので、もとの席に戻りました。
- 面影
- 席に戻ると奈津子は、また田山の隣に寄り添うように座り、俯き加減に両手で水割りのグラスを口に運んでいました。
「素敵だったよ」
田山が奈津子に目をやりながら言います。
そう言われて奈津子は、恥ずかしそうに身をすくめながらエヘッと上目遣いに田山を見ます。
その表情が何とも言えず私をそそります。
その気持ちはほとんど知人の妻に心をひかれる男そのものです。
田山は田山で、奈津子に別の意味を込めてそう言ったのかも知れません。
自分の目の前で、踊りながら私に抱かれている奈津子の体を、ついさっきまでの激しいセックスの余韻が支配していることを知って、密かな興奮を感じていたのかもしれません。
あるいは、奈津子の首に光るネックレスを見ながら、奈津子を自分のものにしたことに静かな満足を覚えていたのかもしれません。
「今度は私と踊ってもらおうかな」
再び静かな曲を別の客が歌い始めると、田山が奈津子に目を向けながら言いました。
「ええ」
奈津子も田山を見つめたまま微笑んで答えます。
田山は奈津子の手を引き、さっき私たちが踊っていた場所まで行くと、奈津子の背中と腰に手を廻し、奈津子も田山に体をぴったり寄せて踊り始めました。
私は一人で、水割りを口に運びながら、ゆっくりと揺れる二人の姿を眺めていました。
最近の奈津子はさらに女としての魅力を増した気がします。
それに、以前より華やいだ感じがします。
決して派手になったというのではなく、女としての魅力が外に出てきたという感じです。
田山の手が廻されている腰からヒップのラインや田山の胸に押し付けられているバストを見ると息苦しくなる気さえします。
「素敵なカップルよね、あのお二人」
ママが私の隣に来て、体を寄せ合う二人を見ながらつぶやくように言いました。
「ええ」
私も相槌を打ちます。
「あちらのテーブルのお客様も『ママ、あのすごい美人は誰、紹介してよ』とかおっしゃってたわ」
ママが小声で言いながらクスクス笑います。
「『ダメですわ。もう先約がありますから』って申し上げましたけど」
「ママは田山さんとは長いんですか」
私が聞きます。
「ええ、まあ」
「どのくらい?」
「まあ、いやだわ、年がばれるじゃないの」
「もう20年近くになるわ」
「ということは5才からの付き合いですか」
「まあ、お上手ね」
ママが口に手を当てて笑います。
笑ったときにちょっとだけ出る、くっきり二重の大きな目の目尻の皺がとても素敵です。
「でも、そんなに長いんだ」
「そうなの。わたしが別の店で働いていたときからのお付き合いだから」
「へー、そうだったんですか」
「その前に働いていた会社でいろいろあってね、それで結局辞めることになってこの商売に入ったんだけど、その頃、田山さんが付き合っていた女性がわたしの親友だったのよ。そういう縁でよく来ていただいたわ、彼女と一緒に」
「そうですか・・・で、ママのお友達と田山さんは?」
「・・・彼女、死んじゃったのよ、急性白血病とかいう病気で」
「そうですか」
「あの頃の田山さん、見てられなかったわ、ほんとに」
ママが自分のグラスの中を見つめながらポツリと言ったかと思うと、すぐに、「あら、わたしお喋りし過ぎちゃったみたい」
微笑を取り戻しながら言います。
「それから田山さんは?」
私はそれに構わず尋ねます。
「ずっとお一人よ。それまで勤めていた会社もやめて自分で事業を始めて、仕事一筋。ときどき私が勤める店に来てくれては、二人で思い出話をしていたわ」
ママがグラスを両手で持ったまま、下を向いて懐かしそうに微笑みながら言います。
「私がこの店を持つときも随分とお世話になったの。『君だけが彼女との唯一のつながりだから』って言ってくれて。そして昔みたいに来てくれては彼女の話をしていたの。でも、ここ二年くらいお仕事がお忙しくなったみたいで、しばらく来られなかったところに、久しぶりに来られたかと思ったら、素敵な方を連れて三人で来られたというわけ」
「○○さんも田山さんとのお付き合いは長いの?」
今度はママが尋ねます。
「あ、ああ、私ですか。私はちょうど最初にここに連れて来てもらった頃に、ちょっと仕事の関係でお二人とご一緒することになって」
私は当たり障りのない嘘をつくしかありませんでした。
「そう・・・奈津子さんもそんなこと言われてたわね、そう言えば。でも、よかったわ、田山さんが奈津子さんと出会われて」
ママが踊る二人を眺めながら言います。
「昔の田山さんに戻ったみたい。わたしの親友と付き合っていた頃の。最近の田山さん、生き生きしているもの」
そう言ってママは、水割りが少なくなった私のグラスをとり、ミナに作らせます。
「わたし思うんだけど」
再びママが二人に目を向けながら言います。
「田山さんね、奈津子さんに昔の彼女の面影を見ているんだと思うわ」
「そうですか」
「だって、こうやって見ていると、奈津子さん、私の親友にそっくりなんだもの。だから、私たちもウマが合うのよ、きっと」
「そんなに似てるんですか」
「ええ、そうね。顔かたちというより、全体的な雰囲気とか性格とか、とても似てると思うわ。わたしでさえ、ときどき奈津子さんと話し込んでいると、昔の親友と喋っているみたいに錯覚するくらいだし。田山さんもきっとそうだと思うの」
「そうですか」
「だから、あんなに夢中になるんだと思うわ、田山さん」
ママから聞く話はもちろん初耳でした。
奈津子は知っているのでしょうか、田山が若い頃に亡くした恋人の面影を奈津子の中に見ているということを。
田山は、病魔に奪われた自分の恋人が長い時を越えて自分の前に再び現れたと感じているのかもしれません。
そうだとすると、田山の奈津子に対するあの燃えさかるような性愛は、田山が亡くなった恋人との失われた時間を取り戻そうとしている激しい気持ちの現れなのでしょうか。
体を合わせて静かに揺れる二人を、ママと一緒に眺めながら、そんなことを考えていました。
- 提案
- やや暗いくらいに落されたライトの中で、田山に体を寄せ、その腕に抱かれている奈津子は、なんともいえない色気を感じさせます。
ママが話していたテーブルの五十がらみの客が、さっきからチラチラと露骨に粘り気のある視線で奈津子を見ています。
そのうち曲が終わって田山と奈津子がテーブルに戻ってきました。
奈津子の顔が少し上気しているように見えるのは、田山に抱かれながら、ここに来る前の田山とのセックスの感覚が蘇ったからでしょうか。
いつの間にかお客も増えて、ママは別のテーブルに移っていきました。
私たちはしばらく雑談をしていましたが、田山が、別のテーブルの客の中に知り合いを見つけたようで、「ちょっと失礼、知り合いと話してきます」と私と奈津子に言うと、その客のところに行きました。
思いがけず二人だけになって私はしばらくの間、何を喋ったらいいかわからず、黙ったまま水割りを飲んでいました。
「長いようで短かったわね、それとも短いようで長かったのかな」
奈津子がフロアに目を落したままポツリと言います。
「何が?」
「田山さんと出会ってから、こうなるまで」
「ああ、そうだね」
「私たちがこんなになるって、あなたも想像してた?」
奈津子がフロアから目を上げ、私を見て言います。
「どうだろう、ここまでは予想してなかったかな」
私は奈津子を見ずに言いました。
「そう・・・嫌だ?」
「・・・わからないな、僕にも。ちょっと複雑」
それを聞いて、奈津子はクスッと笑い、「でも、いつまでもこのままってわけにもいかないわね」と私から目をそらせて言います。
「というと?」
「このまま中途半端な生活を続けることよ」
「中途半端?」
「うん、なんだかわたしのワガママで二人を宙ぶらりんの状態にしてるみたいで・・・あの人もできれば一緒になってほしいみたいなこと、それとなく言いはじめているし、いつまでもこのままこんな生活を続けるわけにはね」
「じゃあ、どうするの?僕と別れて田山さんと一緒になるということ?」
「どうして?わたし、あなたのこと愛してるわ」
「じゃあ、僕のところに戻ってくる?」
「あの人から離れることも、もうできないと思う」
「それじゃあ、どうしようもないじゃないか」
「・・・ほんとね、どうしようもないわ」
奈津子が力なく微笑みます。
「わたし、欲張りなのよ、きっと。二人ともわたしの旦那さんにしたい」
「おいおい」
私は苦笑します。
「ほんとに」
奈津子が私の目を見つめながら言います。
「無茶言うなよ、そんなことできるわけないだろう」
私が少し呆れ顔で言います。
「そうよね」
奈津子がまた床に視線を落して言います。
「もう、わたしにもどうしたらいいのかわからないわ」
「以前のようにときどき会うというのではだめなの?」
「あの人がわたしを手放すことに耐えられないわ。それに」
奈津子がちょっと言いよどみます。
「それに?」
「わたしも、あの人から離れて、あなたと今までの生活に戻れるか自信ないし・・・もう、わたしの体がそれを許さないわ・、この前言ったみたいに」
「」
それを聞くと、私は黙るしかありません。
それからしばらく、二人とも無言でした。
「もしも」と、私が口を開きます。
「なに?」
奈津子が床から視線を上げて私を見ます。
「も、もしもだよ、君が僕のところに戻って以前のように暮らす代わり、君とはセックスしなくていいって言ったら?」
「どうしたのよ、急に」
「だからさ、以前のように一緒に暮らしても、セックスは田山さんだけのものでいいって言ったらなんとかならない?」
「本気で言ってるの、それ?」
奈津子が呆れ顔で聞きます。
「ああ、本気だよ。田山さんも君が自分のものでなくなることが耐えられないんじゃないの?それに君だって、田山さんとのセックスがこれまでどおり続けばいいんでしょ?」
「あなた、わたしと一緒に暮らして、わたしとセックスなしでいられるの?」
「我慢するしかないじゃないか、そうなったら」
「ほんと?いつまでそれが続くかわからないのよ。ずっとかもしれないのよ」
「ああ、わかってるよ」
それを聞いて奈津子はソファの背に身を投げるようにもたれかかりました。
「信じられないわ、それって」
私もそんな提案をした自分が信じられないくらいでした。
でも、今の解決策としてはそれしかないように感じられましたし、なによりも思わずそういう提案をしながら密かに興奮していたのですから、不思議です。
「ほんとだって。君と田山さんはこれまでのように愛し合えばいいよ、好きなだけ。そんな君を、僕は僕なりに愛するから」
「あなたなりに?」
「うん。なんていうか、プラトニックに」
そう言いながら、私は奈津子に欲情していたのですから、決してプラトニックなんかではありません。
むしろ、奈津子と一緒に暮らしながらも体の交わりが許されなず、悶々と奈津子に欲情し続けるしかない境遇となることに、倒錯した悦びを感じていたのかもしれません。
「プラトニック・・・夫婦なのに?」
「うん。でも、田山さんも夫なんだろ、君にとっては。そして田山さんは他の男とのセックスはで許してくれないんだろう?それに奈津子自身が多分できないんだろうし」
「・・・」
奈津子が俯きます。
「じゃあ、仕方がないじゃないか」
私は奈津子を見つめて言いました。
「あなたは、ほんとにそれでいいの」
奈津子が顔を上げて真剣な顔で聞きます。
「奈津子と一緒に住めるんだったら、いいよ」
「そう」
そう言って、奈津子はまた俯き、しばらく黙っていましたが、やがて、「わかったわ。あの人と相談してみる」とポツリと言いました。
- 思い出
- 別のテーブルに行っていた田山が戻ってきました。
「もう奈津子のことを呼べってうるさくて。そうそうに逃げてきたよ」
田山が笑いながら座ります。
「まあ、うれしいわ」
奈津子はニコニコしながら田山に体を寄せます。
「すみませんでした」
田山は今度は私に向かって謝ります。
「どうですか、これから、最初に三人で行ったホテルに行きませんか。昔を思い出して」
奈津子はちょっと恥ずかしそうに田山の隣で身をすくめます。
「ええ、いいですね」
私は同意しながら、奈津子がここに来る直前まで田山に抱かれていたという話を思い出していました。
ということは、奈津子はそのホテルで田山に抱かれていたということでしょう。
席を立った私たちを見つけて、ママがやって来ました。
「あら、もうお帰りになるの」
「ああ、だんだん客が増えてるのにいつまでも邪魔しては悪いからね」
田山がママに言います。
「あら、そんなこと、よろしいのに」
田山はそれには構わず奈津子の背中に手をまわしながらドアへ向かいます。
二人の後をついていくように、私とママが並んで行きます。
ママがそっと私の耳に口をよせ、私だけに聞こえるように、「また、ぜひいらしてくださいね、お一人でも。田山さんからもそう言われていますから」と言いました。
「ありがとう。ママの顔が見たくなったら、また来ます」と私が言うと、「きっとよ」とママは軽くウィンクします。
タクシーに乗り込んだ私たちは、奈津子が最初に田山に抱かれた夜と同じホテルに向かいました。
そこは、さっきのクラブに来る直前まで、奈津子が田山に抱かれていたホテルでもありました。
タクシーの中では後部座席に奈津子を真ん中に挟んで三人で座り、奈津子は田山がまわした腕の中に抱かれていました。
ときどき、奈津子がねだるような表情で上を向くと、田山が奈津子の唇に自分の唇を重ねます。
私はそんな二人の様子を横で見ています。
運転手はそんな三人をミラー越しに見て、どう思っていたのでしょうか。
タクシーを降りて、ホテルに入るときも、二人は手をつないだままで、私は二人から少し離れて歩きます。
部屋がある階までのエレベーターには、私たち以外は誰もいませんでした。
奈津子は自分から田山に抱きつくように背中に両手を回し、キスをねだる仕草をします。
田山はそれに応えて奈津子を引き寄せ、唇を合わせ、さらに舌を入れているみたいです。
二人とも、私の存在はまったく気にしていないというか、わざとそうしているようにさえ感じます。
そうやって二人は、目的の階に着くまで、衣擦れの音をさせ続けながら、キスを続けていました。
奈津子は、田山の首に手をまわし、くぐもったような喘ぎ声さえ漏らしていました。
目的の階について、小さなチャイムの音と同時にドアが開くと、ドアの前に中年の男性が立っていました。
奈津子は田山から唇を離したばかりで、田山の首に手を掛けたままです。
その男性は異様な雰囲気に一瞬ぎょっとしたようですが、私たちと入れ代わりになにくわぬ顔でエレベーターに乗り込みます。
田山に腰に手をまわされたまま廊下を歩きながら、奈津子は田山、そして私を見て、エヘッとバツが悪そうに微笑みます。
部屋に入るやいなや、田山と奈津子は再び、抱き合い、激しく口付けし合いました。
お互いの唇と舌を激しく吸い合いながら、奈津子の手は、待ちきれなかったように田山の上着を脱がせ、ワイシャツの上から田山の体を確かめるように背中を這い回ります。
田山は奈津子の頭を両手で挟み、奈津子の唇の求めに応じています。
そのうち奈津子の手が田山のズボンのベルトに掛けられたかと思うと、それを緩め、田山のズボンをブリーフと一緒に降ろしました。
そして、田山の前に屈むと、大きく怒張した田山のベニスを両手でくるむようにして口に運び、亀頭からゆっくりと口に含みます。
それから、さも愛しいように飲み込んでいきます。
私のことなどまったく気にならないかのように、自分から田山のぺニスを求め、愛しげに口に含む奈津子を見て、私はショックを感じました。
田山のペニスを奥まで飲み込んだ奈津子は、ゆっくりと、頭を前後に動かしながら、淫靡な音をさせて愛撫し続けます。
田山は、自分でシャツを脱ぎ、足首に絡まったズボンをどかせ、奈津子の頭に両手を置いています。
全裸で仁王立ちする田山と、ワンピースを着たまま田山の股間の前にしゃがんでいる奈津子のコントラストはエロティックでした。
田山は目をつぶり、奈津子の口による奉仕の快感に身をゆだねているようです。
そして、目を開けると、私と目を合わせ、微笑み、また目をつぶりました。
田山の口から快感の声が漏れます。
「奈津子、行くよ」
田山が奈津子に呼びかけます。
奈津子が両手を田山の尻に置き、頭の動きを早めます。
「あ、うっ」
田山が少しのけぞり声を漏らします。
それと同時に奈津子の頭の動きがゆっくりになり、やがて止まります。
私は、奈津子が田山の精を口で受けるのを信じられない思いで見ていました。
奈津子はしばらく田山のペニスを口に含んだままじっとしていましたが、やがてゆっくりとすべてを舐めとるようにしてペニスから口を離しました。
そして、立ち上がると、田山の背中に手を回し、抱きつくようにして田山を見上げます。
奈津子は田山から受けた精をそのまま飲み下したようでした。
「良かったよ」
田山が、奈津子の頭を撫でながら言いました。
奈津子は嬉しそうに田山の胸に顔をつけています。
そうやって二人は立ったまま抱き合っていました。
そんな二人の前では、もう私はまるで存在しないかのようでした。
「そこの椅子の背に手をついて」
田山が指差しながら奈津子に言います。
奈津子は言われたように椅子の背に手をつきます。
私が座っている椅子の向かいなので、私と顔を合わせる姿勢です。
田山は奈津子の後ろに回り、ミニのワンピースの裾をたくし上げ、パンティを太もものところまで降ろします。
そして、田山は、奈津子の両足を心持ち開かせると、もう固さを取り戻したペニスを奈津子の中心にあてがい、ゆっくり体を重ねていきます。
奈津子は悦びの表情を浮かべ目をつぶります。
田山はワンピースの裾がたくし上げられた奈津子の腰に手を置き、ゆっくりと前後に腰を使い始めました。
「ああぁ・」
半開きの奈津子の口から声が漏れます。
田山が奈津子の両手を後ろからつかみました。
奈津子は椅子の背に胸を乗せる格好で田山の突き上げを受け止めています。
田山は奈津子の両腕を後ろからつかんだまま、腰を露になった奈津子の尻に音をさせながら打ちつけます。
そのたびに、奈津子の体はゆれ、首のまわりのネックレスが光ります。
ワンピースを着たまま、裾をたくし上げられて後ろから田山に突き責められてている奈津子・・・
服装も髪型も変わり、口紅の色も変わり、首には田山への誓いのネックレスが光る奈津子・・・
三人で最初にこのホテルに来たときから、なんと変わってしまったことでしょうか。
今はもう田山の妻にしか見えません。
あのときは、紛れもなく私の妻として、性的好奇心から私以外の男性に抱かれていました。
でも今の奈津子は、別の男に見られながら、田山の妻として田山に抱かれる悦びをかみ締めているかのようです。
もう私にさえ、人妻のように感じる奈津子の喜悦の表情を見ながら、私の股間は張り裂けそうになっていました。
- 涙
- 椅子の背に胸を置いた姿勢の奈津子の両腕を後ろからつかんだまま、田山は、激しく体をぶつける音をさせながら、突き責めます。
その度に半開きの奈津子の口から嗚咽がもれます。
「あ、あなた、ここにきて」
一瞬、奈津子がどっちを呼んでいるのかわかりませんでしたが、私のことだと気がついて、奈津子が背に胸を乗せている椅子に移って斜めに座ります。
「あなた、よく見て、わたしのこと」
「み、見てるよ」
「どう、わたし?」
「あ、ああ、すごいよ」
奈津子は目をつぶったまま、田山に突き上げられる度に体を揺らせます。
「こんなわたしのこと、愛してくれる?」
体の揺れで奈津子の首の周りのネックレスが跳ねます。
「も、もちろんだよ、愛してるよ」
「田山さんのものになったわたしを、愛してくれる?」
「ああ、愛してるよ、とても」
「うれしい」
奈津子の喘ぎ声が激しくなります。
「あ、あなた・」
「ん、なに?」
「キスして。そして、私と一緒にイッて」
私は奈津子に言われるままにズボンを降ろし、左手で奈津子の頭をおさえ、唇を重ねながら自分のペニスをしごき始めます。
奈津子の口の中に舌を入れました。
気のせいか奈津子の口は精液の香りが残っているようでした。
強く合わせた口から、田山が奈津子を突き上げる振動が伝わります。
そのまま私は自分のペニスをしごく手に力を入れます。
田山が奈津子を突き上げる力を強めたようです。
「あぁ、あなた、いい」
私から口を少し離すと、奈津子が嗚咽をもらします。
奈津子も一気に昇りつめていくようです。
「あ、あぁ、あぁ、いい、あなた、あ、あん、いい、いい・」
私が奈津子の口をふさいでも奈津子の喘ぎがもれます。
「あ、あぁぁ・」
私は奈津子の頭を抑える手に力を込めて奈津子の口の奥まで舌を入れ、ペニスを激しくしごき、一気に昇り詰めようとします。
そして、私にふさがれた口からわずかな声をもらしながら奈津子が絶頂を迎えてすぐ、私も激しい射精を迎えました。
それを見た田山が腰の動きを緩め、やがて止めました。
私は射精を迎えてもしばらく奈津子と舌を絡めたままでしたが、ゆっくりと離れました。
田山から腕を離してもらった奈津子はそのままの姿勢で椅子の背に置いた両手の上に顎をのせ、肩で息をしていました。
田山はまだ後ろから挿入したままで、奈津子の髪を撫ぜながら私を見ると、「二人とも素敵でしたよ。少し妬けるくらいに」と言いました。
奈津子は黙って目をつぶったままハアハアと息をしていました。
田山はなおも奈津子の体に挿入したままで、あらわになった奈津子の尻を愛しそうに撫ぜています。
そして、奈津子の呼吸が少しだけ穏やかになると、再び腰を使い始めました。
「あ、あっ」
奈津子の口がまた半開きになりました。
奈津子がまた田山に体を揺らされながら、私の座る椅子の背に手をついて体を支えています。
田山はさっきのように奈津子の尻に腰を打ち付けていましたが、やがて奈津子からペニスを抜きました。
そして、奈津子を向かい合って立たせると、奈津子のパンティとパンストを床に落とします。
そして、両腕を自分の首に回させ、奈津子の左足を持ち上げると、下から奈津子の中にそそり立っているペニスを突き立てます。
「あぁぁ」
奈津子が尾を引くような声を上げてのけぞります。
田山はワンピースの上から左手で奈津子の尻を押さえながら激しく突き上げます。
右手は奈津子の脚を持ち上げたままです。
それから、田山は奈津子に激しいキスをします。
「んぐ・」
田山に口をふさがれた奈津子がくぐもった声をもらします。
着衣のまま片足を持ち上げられ、田山にしがみつくようにして交わる奈津子の姿は妖艶でした。
田山は一回、一回、全身に力を込めて奈津子を下から突き上げ、その度に奈津子はつま先だってのけぞります。
奈津子を突き上げる度に田山の全身の筋肉が硬直するのがわかります。
それを気が遠くなるくらい続けて、田山は奈津子からペニスを抜きました。
奈津子が田山の首に手を回したまま、田山にぐったりともたれかかります。
すると田山は奈津子の背中に手を回し、ジッパーを降ろすと、ワンピースを脱がせます。
奈津子は薄いピンクのブラを着けていました。
そして、そのブラも、田山の手によって外され、奈津子の豊かで形のいいバストがブルンと揺れながらあらわになります。
全裸にされても奈津子は、また田山にだらんともたれかかり、肩で息をしています。
奈津子と向かい合ったままの田山は、突然、奈津子の後ろに回した手を、尻から太ももにかけ、力を入れて奈津子の体を持ち上げました。
奈津子は、「キャッ」と短い声を上げると、まるで子供が父親に抱きつくような格好で持ち上げられました。
田山は、奈津子を抱え上げたまま、東京の夜景が見える窓のところに行き、ちょうど腰の高さのところの窓の出っ張りに奈津子を降ろします。
奈津子は窓を背にして両足を広げ、出っ張りの上で膝を立てた格好で浅く座さられます。
田山は両手で奈津子の脚を押し広げその間に自分の体を置くと、両手で奈津子の尻をもって少し前に体を寄せます。
そして、相変わらず凄まじく怒張したペニスを奈津子の中心にあてがい、ズルッと挿入しました。
奈津子は上を向いてのけぞります。
根元まで完全に奈津子の中に沈めきると、田山は奈津子の両手に指を絡め、上に持ち上げて窓に押し付けます。
奈津子は立て膝の姿勢で田山に貫かれ、窓に押し付けられて大の字になっています。
田山は、その姿勢のまま、腰を前後に動かし始めます。
奈津子と接触しているのは、両手と股間だけで、それがかえってエロティックです。
奈津子が田山に手を押さえつけられたまま、顔を横にして喘いでいます。
田山の腰の動きが次第に早くなり、奈津子はもう半泣きのような声になっています。
奈津子の体を出入りするペニスの音が聞こえます。
「○○さん、来てください」
突然、田山が腰を動かしながら、私を呼びます。
私は言われるままに、田山の隣に行きます。
田山の背中が汗で光っています。
「ほら、よく見てください」
田山は、奈津子の中心を出入りする自分のペニスを目で指し示します。
私は粘液で光る田山のペニスが奈津子の体をゆっくりと力強く出入りするのを見ます。
「奈津子は、もうこれがないと生きていけない体になったんですよ」
田山が、腰を動かし続け、息を切らせながら、横にいる私を向いて言います。
「なあ、奈津子」
田山が奈津子を向いていいます。
「は、はい」
奈津子は喘ぎ声にまぎれて、かろうじて答えます。
すると田山がそれまで以上に全身に力をいれ、激しい音をさせて腰を打ちつけます。
「今の奈津子のことを、ちゃんと○○さんに教えてあげなさい」
「あ、あなた、わたしは、もうこの人のものです・・・ごめんなさい・・、あ、あぁ・」
私は奈津子の中にぬめり光ながら出入りする田山のペニスを見つめながら、その言葉を聞いていました。
田山はなおも奈津子の両手を磔のような姿勢で押さえつけ、腰だけを奈津子の股間に激しく打ちつけます。
まるで何かに取り付かれたように一心不乱に奈津子の奥の奥まで自分の性を撃ち込み続けます。
奈津子が両手を広げたまま押し付けられている窓の外には東京の夜景が広がっていました。
「○○さん、私と奈津子は二人ともお互いなしでは生きていけない体なんです」
田山が奈津子に向いたまま私に言います。
「もう、私も奈津子なしでは生きていけませんし、ご覧のとおり奈津子も私なしにて生きていけない体になってしまったんです」
そういうと田山は無言のまま腰だけを激しく動かし続けました。
奈津子の引きつるような喘ぎ声だけが部屋にこだまします。
そんな不思議な静寂がしばらく続いたあと、「奈津子を私にもらえませんか」と田山がポツリと言いました。
私は一瞬田山の言っている意味がわかりませんでした。
「奈津子も○○さんに頼みなさい」
田山が奈津子に言います。
「あぁぁ、あなた・・、ごめんなさい、も、もう、わたし、このひととしか愛し合えないの・・・あぁぁ・・・だから、だから、わたしをこの人にあげて」
奈津子は繰り返し田山に貫かれながら、目を閉じたまま私に言います。
それから、奈津子は、繰り返し繰り返し田山のペニスを受け入れながら、うわ言のように何度も「ごめんなさい」を繰り返しました。
目の端にほんとうの涙がたまっているようでした。
そのうち、奈津子はほんとに泣き声になっても、まだ「ごめんなさい」を繰り返していました。
私は、奈津子のその声を聞きながら、田山の長く反り返ったペニスが一気に奈津子の体の奥に飲み込まれ、根元まで見えなくなっては、また引き抜かれ、という繰返しをぼーっとする頭で眺めていました。
- 解決策
- 田山の鋼のように黒く反り返ったペニスが奈津子を突き上げる様を、どれだけ見続けていたのでしょうか。
いつの間にか奈津子はしゃくりあげるような声と喘ぎだけに変わり、奈津子の両手を窓のガラスに押し付けていた田山の両腕は、ペニスがぎりぎりまで奈津子の体の奥まで届くようにと両腕を腰に回して強く引き付けています。
「ああ、奈津子、いいよ、いい・」
田山の腰の動きが一段と早く強くなります。
「ああ、な、奈津子、いくよ、いく」
「あ、あなた、きて」
「ああ、奈津子、奈津子、奈津子」
「あなた・」
奈津子が田山の首に腕を回したまま仰け反ります。
田山は奈津子の声を呼び続けながら、奈津子と最も深く結合した状態で動きを止めると、体が一瞬脈打ったようになり、射精をしたようです。
奈津子の膣壁全体に田山のおびただしいザーメンがほとばしり散る様を私は想像していました。
もう何度、こうやって奈津子の体が田山の精によって満たされたのでしょうか。
その度に奈津子は田山のザーメンが体の中にほとばしる快感に震え、今やもう田山によってしか悦びを得られないと自ら私に告白するまでになったのでしょう。
そんな奈津子に私は限りなく欲情していました。
田山は、最後の一滴まで奈津子の体内に注ぎ込もうとするかのように奈津子の腰に手を回して深く結合したまま、じっとしています。
両足を大きく押し広げられた格好のまま奈津子もじっとしています。
二人が肩で息をする音だけが部屋を支配しています。
それからしばらくし、田山は名残惜しそうに静かにペニスを抜きました。
そして、奈津子の両足を立てるようにして両手で押さえ、股を広げます。
奈津子の股間はビショビショに濡れていて、膣口からザーメンが少しだけ垂れています。
「○○さん、奈津子をきれいにしてやってください」
田山は私にそう言います。
私は田山に言われるままに、テーブルのティッシュをとり、露になった股間を拭いてあげます。
「よかった?」
私は奈津子に聞きました。
「うん」
奈津子はまだしゃくりあげながらうなずきます。
そして、私と目が合うわとばつが悪そうに「えへっ」と舌を出します。
私が奈津子の膣口からもれている田山のザーメンを拭いていると、奈津子がその手を押さえて止め、下半身を少しいきませるようにすると、私が手にしているティッシュの中に生暖かいものがドロッと出てきました。
私がティッシュを奈津子の前でそっと広げると、かなりの量のザーメンでした。
「こんなにたくさん・・・奈津子の中に」
奈津子はちょっと恥ずかしそうに身をすくめます。
私が田山のザーメンを受けたティッシュをくるんで捨てていると、田山が奈津子を抱き上げてソファに運んでいます。
奈津子は田山の首にしっかりと手を回して嬉しそうにしています。
田山は、奈津子をソファに運ぶと、奈津子を膝の上に乗せたまま一緒に座りました。
すると、奈津子は田山の膝をまたいで向かい合わせに座り直し、田山の首に手を回すと、首を傾け、自分から田山にキスします。
奈津子のきれいな黒髪が肩にかかります。
「○○さんに、きれいにしてもらってよかったね」
ひとしきりキスを交わしたあと、田山が奈津子にやさしく言います。
「うん」
奈津子が田山の目を見つめながらいいます。
「じゃあ、僕のもきれいにしてくれるかい?」
「はい」
そういうと奈津子は田山の膝から降り、その間にひざまずくと、田山のペニスを口に含み、先端から根元まで音をさせながらゆっくりと丹念になめていきます。
「○○さん、さっきは突然で悪かったですね」
田山が、奈津子の頭をやさしく撫ぜながら私に言います。
「あ、いえ・」
「驚いたでしょう?」
「え、まあ、そうですね」
私は苦笑しながら言いました。
「済みませんでした、ほんとに・・・でも、ほんとにもう、私にとって奈津子のいない生活は考えられないんです」
両手で田山のペニスを押さえながなめ続ける奈津子を見つめながら田山が言いました。
「奈津子もそうだろう?」
一瞬奈津子の頭の動きが止まりましたが、やがてコクンと頷きました。
「じつはさっきのクラブでも、奈津子と話していたんです」と私は言いました。
「奈津子ももう田山さんなしではダメだって、私もわかっています。奈津子の口からも聞きましたし」
奈津子は田山の膝の間にひざまずいて、黙って田山のペニスを舐め続けています。
「それはそれでいいんです。もともと私が望んだことでもありますから」
私が続けました。
「そうですか」
田山が奈津子をやさしく見つめながら言いました。
「でも、奈津子と別れるというのは・、ちょっと」
「え?ああ・、ははは」
田山が笑います。
「奈津子を○○さんからとってしまおうなんて思っていませんよ。それに、結婚という形にこだわる年でもありませんし」
田山は私を見て笑います。
「奈津子が二人にとって大事なこともわかっています。私も一応大人ですから、聞き分けのないことは言いません」
そう言って田山はまた笑います。
「それに、奈津子にとっても二人が大事だってことも。ね、奈津子、そうだよね」
奈津子の後姿がまたコクンとうなずきます。
田山は奈津子に「ありがとう」と言うと、その手を引き、自分の隣に座らせます。
奈津子は田山にぴったりと体を寄せると俯きます。
全裸で並ぶ二人の前で私だけが衣服を着けていると逆に不自然な感じがします。
「じゃあ、どうすれば」
「重婚って知ってますか、○○さん?」
田山が私を遮って聞きます。
「じゅうこん?」
「そう。二重に結婚するってことです。もちろん法律で禁じられていますけど、そもそも日本じゃ重複した結婚なんて区役所で受け付けてくれませんけどね。でも、実質的にそうなるのならなんの問題もないんですよ」
「」
田山の唐突な話に私は戸惑っていました。
「要するに奈津子が○○さんと私たち二人の妻になればいいんですよ」
「奈津子が二人の妻に?」
「ええ、そうです。奈津子にとってはあなたとの生活も大事だし、それを壊すことなんてできないはずです。でも、私と奈津子ももうお互いなしでは考えられない・・・だとすれば、奈津子が二人の妻になるしかないということです」
そういえば奈津子もさっきのクラブに同じようなことを言っていたのを思い出しました。
「奈津子は○○さんの妻であると同時に私の妻になるわけです」
「でも、田山さんは、さっき、『奈津子をもらえませんか』って」
「ええ、それなんですが、私と○○さんの間では、奈津子を私の妻にしてください、ということなんです」
「」
私は田山の言っている意味がよく分かりません。
「つまり、三人の間では奈津子は私の妻で、そして奈津子を女として愛するのは私だけにしてくださいという意味です。それが結果として○○さんの嗜好にも合うんじゃないかと」
「そういうことですか」
「だめですか?」
「いえ、実は、さっきのクラブでも奈津子にそんなことを言っていたんです」
「え、ほんとですか」
田山が目を輝かせて言います。
「ええ、ほんとです。ね、奈津子?」
田山が横にいる奈津子を向きます。
「ええ、ほんとです。セックスはあなたのものだけでいいって」
「そうかあ・・・じゃあ、私と同じことをお考えになっていたんですね、図らずも」
田山は満足そうな表情で言います。
「○○さんは、ほんとにそれで」
「ええ。そのつもりです。いつかはこうなるような気がしていましたし、それをどこかで密かに望んでいたのでしょう・・・事実、私自身、今の奈津子にはこれまでなかったほど激しく感じていますし・・・私も今のような状態がうまく続いてくれればと思っていたくらいです」
「そうですか。それは、よかったなあ、ほんとに。なあ、奈津子」
田山は奈津子を見ながら言いました。
「ええ、よかった・・・あなた、ありがと」
奈津子が私を見て微笑みます。
「これで心置きなく奈津子を自分の妻として愛せます」
田山が奈津子の腰に手を回しながら言います。
「といっても、これまでどおりこうやって三人でお会いしたいと思っていますし・・・奈津子も○○さんの前で私に抱かれるのが感じるって言ってますし」
そういって田山は悪戯っぽく笑います。
「んもぉ」
奈津子が恥ずかしそうに田山を睨みます。
すると、田山は、奈津子を自分の膝の上に乗せ、顔を自分の方に向けさせて口付けをします。
奈津子も右手を田山の首に回して応えます。
田山が音を立てながら奈津子の舌を吸い続けます。
そうやって二人は、私の前で全裸で抱き合ったまましばらくキスを続けていました。
奈津子が左手で田山のペニスをつかんでいます。
「あら、もうこんなに」
奈津子がちょっと驚いた表情で言いました。
「お元気なこと、あ・・・な・・・た」
そう言うと、奈津子は田山を見つめながらクスクス笑いました。
そして、田山の膝をまたぐようにして立つと、左手で握った田山のペニスを自分から中心にあてがい、ゆっくり腰を降ろします。
田山のペニスを根元まで中に収めると奈津子は、田山の首に両手を回して田山の膝の上で向かい合って抱き合うような姿勢で座りました。
「奈津子、よかったなあ」
田山が奈津子のバストを揉みしだき、乳首を吸いながら言います。
「ええ、あなた。うれしいわ、あなたの奥さんになれるのね」
奈津子が田山の膝の上で腰を上下に動かしながら言います。
「それで、これからのことですが」
田山が、奈津子の腰の動きに合わせながら私に言います。
「奈津子はちょっと二重生活になってしまいますが、二人のところで生活することになります。本当は三人で共同生活できれば一番いいのですが、お互いちょっと世間体もありますし、それぞれの生活がありますから」
田山が苦笑します。
「それはそうですね」
屹立した田山のペニスが奈津子の中に根元まで飲み込まれるのを見ながら、私も同調します。
「ちょっと奈津子には不便をかけるけどね」
田山がまた奈津子に向かって言います。
「わたしなら大丈夫です、そのくらいの不便なら。だって、二人の旦那さんを持てるんですもの」と奈津子が息を弾ませながら言います。
「奈津子はさっきのクラブでも二人を旦那さんにしたいって言ってたんですよ。私は『無茶だよ』って言ったんですけどね」
「でも、無茶じゃなかったでしょ」
奈津子が田山の膝の上で腰を使いながら、私を振り返って微笑みます。
それから奈津子は、私の存在を忘れたかのように田山の膝の上で腰を振り続けていました。
奈津子の白い背中の上をサラサラとした黒髪が跳ねるのを見ながら私のペニスが激しく堅くなっているのを感じました。
- それから
- 三人でホテルに行った日の次の週の火曜日の昼、奈津子から私の携帯に電話があって、会社帰りに私たちは喫茶店で待ち合わせしました。
私が一人でコーヒーを飲みながら待っていると、五分ほど遅れて奈津子が来ました。
「おまたせ」
奈津子が私の前に腰掛けながら言います。
奈津子は私の知らない水色のスーツを着ています。
首のネックレスがゴールドの光を放っています。
「いや、僕もちょっと前についたばかり」
私は奈津子をちょっとまぶしく感じながら言いました。
「そう」
「いいね、そのスーツ」
「えへっ、ありがと。あの人に買ってもらったの」
隣の椅子にバッグを置きながら、奈津子は嬉しそうに言います。
ちょっと体をねじったような姿勢が、奈津子の豊かな胸、そして腰からヒップの曲線を強調して、私はちょっとドキッとします。
奈津子は、落ち着くと、私をまっすぐ見つめて、「二人でデートなんて久しぶりね」と微笑みながら言います。
こうやってみると、どこから見ても清楚で上品な人妻です。
でも、その姿に、私の前で田山と交わったときの姿が一瞬重なり、私は内心ちょっと慌てながら、「そうだね」と相槌を打ちました。
「今日はどうしたの?」
私が奈津子に聞きます。
「うん、これからちょっと用事があるんだけど、それまで時間があるから、あなたとデートしようかなって思って」
「へえ、なんの用事?」
「うん、あの人の得意先の人と食事をご一緒することになっちゃって」
「田山さんは?」
「会社から直接向かうって」
そう言うと奈津子は、ウェイターにレモンティーを注文しました。
「ほら、クラブ・・・いずみで田山さんと喋っていたあの方よ」
注文を受けて離れていくウェイターの後姿を見ながら、奈津子が言いました。
クラブ・・・いずみというのは、いつも三人でいく例のクラブのことでした。
「ああ、あの男か。奈津子のことを舐めるように見ていた」
私がそう言うのを聞いて奈津子は笑いながら、「そう、その人」と言います。
「一度ゆっくりと会わせろってうるさいんだって」
「しつこい奴なんだな」
「あの人と仲がいいので気安いんでしょう。これからも長い付き合いなので、あの人もちゃんと紹介しなきゃって言うし。わたしも妻としての勤めもこなさなきゃね」
そう言うと奈津子は悪戯っぽく舌を出します。
「なるほど」
「この前はあれからどうしたの?」
奈津子が私に聞きます。
「ああ。奈津子が田山さんの腕の中に抱かれて眠っているのを見てから一人で帰ったよ」
「そう」
あの日はあれから、ソファの上で奈津子が田山にまたがったまま何度も絶頂を向かえる後姿を見ながら、私はもう一度自慰をし、それから、奈津子は田山にベッドに運ばれてさらに後背位で腕を後ろから引かれながら突かれまくり、奈津子が朦朧としているところに田山も射精を迎え、そのまま二人はベッドの上でつながったまま眠っていました。
私は田山に後ろから抱かれるようにして、満ち足りた顔で眠っているのを見届けて、一人ホテルを出たのでした。
「幸せそうな顔して寝てたよ」
私がそう言うと奈津子は顔をパッと赤くして下を向きます。
ちょうどそのときウェイターが来て、奈津子の前に紅茶を置きました。
「ごゆっくりどうぞ」
そう言って立ち去るウェイターを奈津子は黙って見送っていましたが、やがて、紅茶を一口飲むと、「わたし、あさって、そっちに行くから」と言いました。
「へえ、急な話だね」
「ダメ?」
「だめなわけないだろ。もちろん嬉しいよ」
「そう、よかった」
「でも、田山さんはいいの?」
「うん。もう話したわ。でね、ちょっとお願いがあるんだけど」
そう言うと、奈津子はちょっと言いにくそうにしています。
「なに、どうしたの?」
「うん・、あのね、あの人があなたと寝室を別にしてもらいなさいって」
私はホテルでの田山との会話を思い出しました。
『三人の間では奈津子は私の妻で、そして奈津子を女として愛するのは私だけにしてください・・・』
「そりゃそうだね。いいよ」
私は微笑みながらそう言ったものの、奈津子と夜を共にできないということを少し実感した気がしました。
「ごめんね」
奈津子が済まなさそうな顔をして私を見つめます。
「いいよ、そう三人で決めたんだから」
私は努めて微笑みます。
「でも、なんだか、久しぶりで、楽しみだわ。うちに戻るの」
奈津子がちょっと顔を輝かせて言います。
- 新たな日々
- 奈津子は私に言ったとおり、翌々日に私のマンションに戻って来ました。
「なんだかほんとに久しぶりって感じ」
奈津子が部屋を見回しながら懐かしそうに言います。
それから、まったく新しい夫婦生活が始まりました。
もっとも、世間の常識でこれを夫婦生活と呼ぶのかどうかわかりませんが。
奈津子との約束のとおり、私たちは寝室を別にしました。
その上、奈津子は、努めて田山の妻であるかのように私に接していました。
私との体の接触が生じないように気をつけているのもその一例ですし、風呂上りなどでも、極力私に素肌を曝さないように気をつけているみたいです。
もちろん着替えも自分の寝室でしているので、奈津子の裸体を見ることはほとんどありません。
以前は一緒に風呂に入ることもありましたし、二人とも裸同然でリビングで過ごしたりしていましたから、最初はかなり違和感がありましたが、それも自然と慣れていきました。
そうやって、二人の間では表面的に性的な関係が抑えられれば抑えられるほど、私の奈津子への欲望が増していきました。
奈津子の裸を直接目にすることができない代わりに、スカートのウェスト、ヒップラインやTシャツに覆われたバストラインを目にするだけで、私は勃起していました。
それはまるで、ひょんなことから、人妻と同居する羽目になった男が、一生懸命性欲を隠そうとしているかのようでした。
実際、田山との深くて激しい性愛がもたらしたものなのでしょうか、それとも私の性欲が抑圧されていることによるものなのでしょうか、最近の奈津子の体からは言いようもない色気が漂っています。
でも、それは私の気のせいだけではなさそうです。
というのも、一緒に街を歩いていても、道行く男性、特にある程度年配の男性たちが奈津子に注ぐ視線が以前にも増して強くなったように感じるからです。
女は男の手でますますいい女になるというのは本当のことなのでしょう。
だとすれば、奈津子を田山の手に委ねた甲斐があったというべきかもしれません。
もっとも、その結果、私は奈津子を抱くことができなくなったわけですが、少なくとも奈津子が以前にも増していい女になったわけですから、それはそれでよしとしなければなりません。
私たちの普段の生活は、これまでどおり仲のいい夫婦でした。
私たちはよく話もしますし、食事の後に一緒にお酒を飲んだり、DVDを見たりもします。
でも、最後は、「じゃ、おやすみ」と言うと、これまでとは違ってそれぞれの寝室に行って休みます。
一緒に都心に買い物に行くこともありますし、手をつないで公園で散歩をしたりもします。
でも、それは仲のいい友達同士の関係ように居心地がいいものでしたが、男と女の関係に普通は備わってる何かが欠けた不思議な感じでした。
その一方で、妻と一緒にいる間中、私の股間は微熱を帯びたように張っていて、妻と別れて自分の寝室に行ってからこっそりと自慰で鎮めなければならないことも度々です。
あるとき、それぞれが自分の寝室へ行く別れ際、少しお酒も入ったこともあり、私がたまらず奈津子を抱き寄せたことがありました。
奈津子はじっと抱かれていましたが、積極的に反応することはなく、しばらくしてから、私の胸の中で静かに「ごめんね」と言いました。
私も「あ、いや、ごめん」といって奈津子を放すほかありませんでした。
妻が自分の寝室で何をしているのか私もよくは知りません。
この前、妻の寝室の前を通ったとき、ドア越しに話す声がしていましたが、どうやら携帯で田山と話をしているようでした。
奈津子のもう一人の、というより三人の間では、田山こそがある意味で本当の夫ですから、当然といえば当然です。
奈津子は、私のところに戻ってきてから最初の一週間はずっと私のところにいました。
その後は、だいたい月曜から木曜までは私のところで、金曜の夜から日曜までは田山のところで過ごすというパターンが多くなりました。
金曜の夜、三人で一緒に飲んで、そのまま田山と奈津子は田山のマンションに帰り、私が一人で自分のマンションに帰るということもよくあります。
田山が出張に行くときはよく奈津子を連れて行くことが多く、そういうときはまる一週間戻ってこないこともあります。
お互いの呼び方も変わりました。
私は相変わらず「奈津子」と呼んでいますが、奈津子は私のことを、結婚前の頃がそうだったように、「みきおさん」と名前で呼ぶようになりました。
田山のことは、私の前では「あのひと」ですし、三人でいるときは「あなた」です。
結婚後は、奈津子はずっと私のことを「あなた」と呼んでいましたが、それが今は「みきおさん」で、まるで結婚前に戻ったみたいな感じです。
このようにして、三人の関係は次第に、田山と奈津子が夫婦としての関係、私と奈津子が親友としての関係に変わりつつある気がしました。
- ガウン
- 奈津子と私の関係から性的なものがなくなっていった半面、私の奈津子への性的な渇望感は日増しに強くなっていきました。
特に、週末を田山のところで過ごした後の月曜日に私のところに戻ってきた奈津子を見ると、田山との濃密な交わりの余韻が漂ってるような気がして、もうそれだけで私は勃起しています。
奈津子の豊かな胸が田山の手で揉みしだかれ、熟れたヒップを田山に後ろから抱えられながら貫かれ、そしてたっぷりと田山の精を注ぎ込まれたのかと思うと、服を着た奈津子を見ているだけで狂おしい気がしてきます。
もちろんそんな私の気持ちを奈津子に悟られないようにしていますが、奈津子の方は気がついているかもしれません。
奈津子が私のところから田山のマンションに移る金曜日の夜には、三人で会うこともあります。
そんなときに田山は、「どうですか、今日は○○さんもご一緒に?」と私を誘ってくれることもあります。
といっても、二人について田山のマンションに行っても、以前のように私の前で二人の濃厚な交わりを目にすることはありません。
二人が「夫婦」になってからというもの、私の前ではあくまで普通の夫婦として振舞っています。
田山との性愛に溺れる奈津子のめくるめくような美しい姿を目にすることができなくなったのは、残念であることには違いないのですが、それよりも、奈津子が何気なく見せる仕草にふっと田山に対する妻としての情愛のようなものを感じるときの方が、私は喪失感を強く感じてしまいます。
それにしても、ひとたび田山のマンションに入った瞬間から、奈津子は田山の妻に変身します。
私の前で田山のことを「あなた」と呼ぶのも、そして私のことを「みきおさん」と呼ぶのも、今ではその方が自然に感じるくらいですし、二人の前に座っていると、本当に私は知り合いのご夫婦の家に呼ばれた客のよう感じてしまいます。
なんて言うのでしょうか、最愛の妹が他の男に嫁いで、その男に愛されている様を目にするときが、こんな気持ちなのでしょうか。
といっても、私と奈津子は決して兄妹ではなく、夫婦なのです。
「だった」と言うべきかもしれませんが・・・
交わりの感触を今でも覚えている奈津子が、自分の目の前で田山の妻となってしまっているのを見ると、どうしようもなく抑えがたい欲情が湧いてきます。
その夜も、田山に誘われるままに田山のマンションに行きました。
いつものように、ソファで酒を飲み直しながら三人で雑談をしていましたが、途中で奈津子が一人で風呂に入ると、残った私と田山がソファに座って、田山がブランディー、私がウィスキーの水割りを静かに飲んでいました。
しばらく私たちはとぎれとぎれに話をしていましたが、「奈津子、ずいぶん変わりましたね」と、私が水割りのグラスを覗き込みながら言いました。
「そうですか」
田山が私に顔を向けながら聞きます。
「どんなふうにですか」
「なんていうのか、もうすっかり田山さんの奥さんに落ち着いた感じがして」
「ははは」
田山は満足そうに笑うと、「○○さんからそう言ってもらえると、私も嬉しいですよ」と言います。
「私自身、奈津子とずっと以前から夫婦だったかのような錯覚を覚えるときがあるんですよ」
「それって、ひょっとして田山さんが昔付き合っていた女性と奈津子が似ているからですか」
「えっ?」
「クラブ・・・いずみのママが、奈津子にその面影があるって言っていました」
「そうですか」
田山はしばらく黙っていました。
「済みません、思い出したくないことを思い出させてしまったかもしれないですね」
「あ、いや・、いいんです。ママの言うとおりです。奈津子といると、いつも彼女と一緒にいると錯覚してしまうくらいです」
「似ていますか、二人?」
私が聞きます。
「ええ」
そう言うと田山は、頭を掻きながらグラスの底に残っていたブランディー飲み干しました。
「最初にお二人にお会いしたとき、内心ドキッとしたくらいですよ」
「そうですか」
「奈津子も」
私が続けます。
「ちょっとファザコン気味だし、年上の男性に憧れていましたからね」
「ははは」
田山がブランデーを自分のグラスに注ぎ足しながら、ちょっと苦笑気味に笑います。
「あいつ、小さい頃に父親を亡くしてて」
「私も奈津子から聞いたことがあります」
「そうですか。だから、田山さんに父親を感じているのかもしれませんね」
「」
田山は、私がそう言うのを黙って聞きながら、ブランデーを静かに一口飲みます。
それからちょっとして、バスローブを着た奈津子がバスルームから出てくると、田山の隣に座り「ふー」とため息をつきます。
「○○さん、よろしかったらお先にどうぞ」
田山が私に勧めます。
「そうですか、じゃあ」
私は勧められるままに立ち上がり、バスルームに向かいます。
廊下に入ってチラッとリビングルームの二人に目をやると、二人が軽くキスを交わしている後姿が見え、私の心がキュッと縮んだような気がしました。
奈津子が使ったシャンプーやソープの香りをかぎながらバスタブに浸り、このお湯が奈津子の美しい体に触れていたのかと思うと、不思議にエロティックな気持ちになります。
「みきおさん、リビングに寝具の用意しておきましたから」
突然奈津子の声が聞こえ、私は慌てて、「はい」と答えました。
風呂から上がると、リビングにはもう二人はいなくて、大きい方のソファにまくらと毛布が用意されていました。
それから、一声掛けようと思い、リビングの隣の二人の寝室に行ってみると、ドアがわずかに半開きになっています。
きちんと閉まっていなかったドアがなにかの拍子に開いてしまったという感じでした。
私がその隙間から部屋の中をそっと窺うと、バスローブを着た奈津子が頭の後ろで手を組んで仰向けになっています。
目を閉じているので、寝ているのかと思いましたが、私が体をずらして見ると、立て膝をしている奈津子の股間に田山が顔を埋めています。
田山の手は風呂上りでピンクがかった奈津子の太ももをつかんでいます。
バスローブの前がはだけて、形のいい奈津子のバスト先が上を向いています。
田山は一心不乱に奈津子の股間で頭を動かしていて、半開きになった奈津子の口から「あん・」と小さな声が漏れます。
私は生唾を飲み込みながらしばらくその様子を見ていましたが、寝室のドアから少し離れて、「今、出ました」と声を掛けると、「はーい」と奈津子が返事をします。
私は、リビングに戻り、奈津子が用意してくれたブランケットを掛けてソファに横になりました。
それから田山がバスルームに入る音が聞こえました。
風呂から聞こえてくる水の音を聞きながら、この壁一枚をはさんで奈津子と二人きりだと思うと、不思議な気持ちになります。
壁の向こうは奈津子と田山の夫婦の空間です。
そこには田山に抱かれることを待っている奈津子が一人でいます。
そして、こちら側には、その奈津子に止め処もない情欲を抱いた私が一人でいるのです。
どれだけたったのでしょうか、田山がバスルームから出て寝室に入り、パタンとドアが音を立てて閉まります。
それからしばらくすると、壁越しに二人の交わりの声や音が伝わってきます。
田山と奈津子も五日ぶりの再会で、二人きりになれたのが待ち遠しかったかのように交わり続けているようでした。
私は、ソファに横になってブランケットをかぶったものの、奈津子への欲情を持て余したまま、二人の音が気になり、結局寝付けません。
仕方がなく、起きあがってソファに座ると、小さなスタンド・・・ライトをつけて、眠気が訪れるまでと思って、手元にある雑誌に目を通していました。
寝室からは延々と、くぐもったような二人の声が聞こえてきます。
どれくらい経ったのでしょうか、寝室が少し静かになったかと思うと、ドアがゆっくりと開いて、奈津子が部屋から出てきました。
そして、リビングに入るなり、私が起きているのを見つけて、一瞬ギョッとしたようでしたが、「まだ起きてたの?」と小さな声で言いました。
奈津子は、腰紐を使わず、しどけなく羽織っているガウンの前を手で押さえながら、キッチンに行きました。
そして、冷蔵庫から水を出してコップに注いでいます。
そして、再びキッチンから出てくると、水の入ったコップを手にしたまま、私の隣に腰を降ろします。
ガウンの前が少しはだけて、豊かな胸の谷間と、吸い付くような肌の太ももが少し露になります。
私の視線に気付いたのか、奈津子はガウンの前を合わせるようにして、それを隠します。
「眠れないの?」
奈津子が聞きます。
顔が上気しているのが生々しく感じられます。
「ああ」
「聞こえてた?」
奈津子はちょっと恥ずかしそうに下を向きながら聞きます。
「えっ、あ、ああ、ちょっとね」
私はかすかに笑いながら答えます。
「そう・、ごめんね」
「あ、いや、いいんだよ。それより・、よかった?」
「え」
一瞬、奈津子は何を聞かれたのかわからなかったみたいですが、それがわかると、また恥ずかしそうにうつむくと小さな声で「うん」と言いました。
奈津子がテーブルに置いてあるグラスを取ろうとしたとき、ガウンの前が少し割れて奈津子の太ももから下が露になり、私はドキッとしました。
奈津子はちょっと上を向いて水を一口飲みます。
首にゴールドのネックレスが光っています。
奈津子の体からは、今しがたまで田山に抱かれていた「熱」のようなものが伝わってきます。
奈津子の体の中には、田山から注ぎ込まれた精が溜まっているのかもしれません。
そう思うと、もう私の股間はどうしようもないくらいに堅くなっています。
私は奈津子を抱きすくめたい欲求を必死に抑えていました。
私たちはしばらく黙ったままでしたが、やがて奈津子は「じゃあね、おやすみ、みきおさん」
微笑みながら言うと、片手でガウンの前を押さえながら、コップを持って立ち上がります。
ガウンの隙間から奈津子の白い内股が一瞬目に入ります。
「お、おやすみ」
そう言うと、私は奈津子がリビングを出て行くのを見送りました。
そして、パタンとドアが閉まる音が聞こえました。
ガウンの間からチラチラと見えた奈津子のキメの細かい肌が目に焼き付いて、私の股間は張ったままです。
それを鎮めようと、雑誌の記事を読んでいると、再び壁越しに奈津子の喘ぎ声が聞こえてきます。
さっきの奈津子の姿と、その喘ぎ声が重なり、私の股間は、静まるどころか、かえってますます堅くなっています。
そしてとうとう我慢ができず、私はズボンを降ろし、奈津子の声を聞きながらペニスをしごき始めてしまいました。
目を瞑ったまま、壁越しに聞こえる奈津子の喘ぎ声、ベッドのきしむ音を聞きながら、私は手を動かし続けます。
ひときわ大きな奈津子の喘ぎ声と、射精の快感を嚙み締めるような田山の声が聞こえました。
柔らかく男をもてなしつつもキュッキュッと締め付ける奈津子の中で田山最高の射精しているとき、私は自分の手の中で果てました。
おそらく田山の射精した後の男根を奈津子が口で綺麗にしているとき、私は惨めにもティッシュで精液を拭き取るのでした。
- ワンピース
- 次の日、天気もいいので、朝食を済ませた私たちはどこかにドライブに行こうということになりました。
「横浜がいいな」
奈津子の一声で行き先が決まると、私たちは着替えを済ますと、マンションの地下駐車場に向かいました。
奈津子はまぶしいような白のノースリーブ・・・ワンピースです。
スカートの部分に少しプリーツが入っていて、膝の少し上くらいのミニです。
奈津子の豊かで形のいいバストのラインが強調されて、清潔感の中にもセクシーな感じがします。
手にはシースルーのカーディガンを持っています。
この服だけでなく、バッグも靴も、奈津子が身に着けているもはすべて私が見たことのないものなので、田山に買ってもらったものなのでしょう。
もっとも、奈津子は田山の妻なのですから、そうやって身の回りのものが、自然と田山との生活のものによって占められていくのは無理もないことです。
私が運転を買って出たので、田山と奈津子は後ろに乗り込みます。
「みきおさん、済まないわね」
後部座席の奈津子が、田山の腕に抱きつきながら嬉しそうに言います。
「ああ、いいよ。お二人はそこでごゆっくりと」
ルームミラーで奈津子をチラッと見ながら車を出します。
「三人でドライブなんて、初めてじゃない?」
奈津子がはしゃいで言います。
「そうだね」
田山が奈津子に軽く口付けしながら、笑って応えます。
横浜は、結婚前によく奈津子とデートした場所ですが、結婚してからというもの、あまり行っていません。
私はちょっと懐かしい気持ちになりながら、昔よく使った道へと車を走らせます。
高速に入って道路もそこそこ流れると、奈津子は田山の肩に頭を置いて、鼻歌を歌っていましたが、私がチラッとミラーをのぞくと、奈津子が何やら田山に耳打ちしています。
そして、二人でクスッと笑っています。
「どうしたの?」と私が聞くと、奈津子は「ううん、なんでもない」と言い、田山の腕にしがみつきます。
田山が「奈津子、○○さんに教えてあげれば?」と言うと、「もお」と言って、赤くなります。
「いえね、奈津子はなんだか、したくなった、そうです」
田山が悪戯っぽく私の耳に口を近づけて言います。
奈津子は赤くなって窓の外を見ています。
「どうぞ、どうぞ。ラブラブのお二人ですから、運転手など気になさらず、お気に召すままに」
私がちょっとおどけた調子でミラーを見ながら二人に言います。
「じゃあ、お言葉に甘えて」と、田山は言うと、奈津子を抱き寄せて唇を重ねます。
そして、左手を奈津子のワンピースの中に入れています。
「あ、んんん」
田山に吸われる奈津子の唇から声が漏れます。
私はチラチラと、目をつむったまま田山に唇を吸われる奈津子をルームミラーでのぞきます。
田山は、奈津子のワンピースをたくし上げて、田山の前に向かい合うかたちで座らせます。
奈津子は田山の膝をまたぐようにしてシートの上に膝で立ち、田山の首に手を回すと、上から顔を合わせるようにして田山の唇を吸っています。
ルームミラーで映る、愛しそうに田山とキスをかわす奈津子の姿をチラチラと見ながら私は車を走らせます。
田山は奈津子とキスをかわしながら、手はワンピースの中に入り、奈津子の股間を動いているようです。
その度に、奈津子の口から小さな嗚咽が洩れます。
軽快なエンジン音を背景に、二人が唇と舌を吸いあう音、奈津子の嗚咽、衣擦れの音だけが車内に満ち、不思議な静寂感が支配します。
そのうち田山は奈津子のパンティーに手を掛け、奈津子の足を片足ずつ浮かせて脱がせます。
それから、自分のベルトを緩め、スラックスを降ろすと、右手で自分のペニスを持ち、左手は奈津子の腰を抑えています。
奈津子はワンピースを着たままなので、二人の結合部はワンピースの中で見えませんが、それが返ってエロティックです。
田山のペニスをワンピースを着たまま迎え入れたのでしょう、奈津子は「あん」と声を出して田山にしがみつきます。
それから腰に添えられた田山の手のリードに従って、膝立ちのまま腰を上下に動かします。
ワンピースを着たまま田山と交わる奈津子の後姿はとてもセクシーでした。
私たちを追い越す他の車の人たちの好奇の目も気にすることなく、奈津子は田山の膝をまたいだまま交わり続けています。
でも私からはワンピースの後姿しか見えません。
田山との交わりの部分はワンピースに隠されて見えません。
グチョグチョという生々しい交わりの音だけが車内に満ちます。
私は一人密かにズボンの中でペニスを勃起させ、黙ったまま車を走らせます。
最初は奈津子も声を抑えているようでしたが、そのうちそんな我慢をやめたみたいで、田山の首にしがみつくようにして体を上下させながら、喘ぎ声を出しています。
あのワンピースの中で田山の怒張したペニスが奈津子の体を出入りしているのかと思うと、裸で絡み合っている姿よりもはるかにエロティックでした。
どれだけの時間がたったのでしょうか。
奈津子が田山の首に手を回したまま後ろに仰け反るようにして、声をあげながら果てました。
そして、崩れるように田山にもたれかかったまま肩で息をしています。
ちょうどそのとき、車は出口の料金所の列に着きました。
奈津子はまだ田山の膝の上で向かい合ってぐったりしています。
横の車の人たちの中には後部座席の二人をチラチラ見ています。
とうとう料金所の窓口に着きました。
料金所の初老の男が、後ろの二人に気がついたのか、一瞬ギョッとしていましたが、慌てて気付かない振りをして私に釣りを手渡します。
料金所を出てしばらくして奈津子は田山の膝から降り、シートに座って「ふぅ」とため息をはきました。
「料金所のおじさん、びっくりしてたみたいだね」
私が笑いながら言うと、奈津子はぺろっと舌を出して、田山の顔を見ていました。
その仕草が、自分の妻ながら、なんとも可愛く感じました。
- 指
- 市内に入った頃には午後になっていたので、昼食をとろうということになり、田山の提案で「みなとみらい」にあるホテルに向かいました。
ホテルに着くと私は車寄せに停車し、「車をパーキングに入れてきますので、お二人はここで降りてください」と言いました。
「そうですか、じゃあロビーで待ってますから。じゃあ、奈津子、ほら・」と田山は言って、奈津子を急かせます。
奈津子は一瞬「えっ、あ、ちょっと」と言っていましたが、田山に急かされるままに車を降ります。
奈津子は降りる田山を待ちながら、ミニのワンピースの裾を少しひっぱっています。
そして、田山が車から降りると、田山の腕に抱きつくように両手を絡めます。
「じゃあ」
田山はそういって私に手をあげると、奈津子の腰に手を廻し、ロビーに向かって歩き始めました。
ハイヒールを履いた奈津子が歩くたびに揺れるヒップを、しばらく私は見送っていました。
田山に体をぴったりとつけるようにして腕を絡めながら歩く奈津子が、何やら笑顔で田山に喋り掛けています。
そんな二人を後ろからしばらく眺めていましたが、二人がロビーの中に入るのを見て、私は車を地下駐車場へと進めました。
空きスペースを見つけた私は、車を停め、車を降りるときに何気なく後部座席を見ると、シートの隅にある白いものが目に入りました。
よく見ると、それは奈津子のパンティでした。
どうやら奈津子は、田山と交わったあと、パンティをはく間もなく車を降ろされてしまったみたいです。
車内には奈津子の香水の香りがまだ残っていて、シートにそっと置かれているシルクのパンティを見ていると、ついさっきそのシートの上で交わっていた二人の息遣いがそこに残っている気がします。
私は奈津子のパンティを手に取り、匂いをかぎました。
懐かしい奈津子の匂いを感じながら、さっきこのシートで田山の膝をまたぐようにして腰を振っていた奈津子の姿を思い出し、思わず私は股間を堅くしましたが、慌ててパンティをジャケットのポケットにねじ込むと、車を出ました。
ホテルのロビーに入ると、田山の隣に座っている奈津子を見つけました。
奈津子は膝の上にハンドバッグを置いてワンピースの裾を押さえながら、脚を斜めにして座っていました。
遠目からでも、その全身から成熟した女の色香が漂っている気がします。
夫の私のひいき目かとも思いましたが、近くのソファに座る男性たちがこっそりと視線を向けるのに気がついたので、多分他の男性たちも同じように感じていたに違いありません。
奈津子は私に気がついていないみたいで、田山の腕に自分の腕を絡めて寄り添い、しきりに田山に何か話していましたが、田山にすべてを許しているとわかるその表情や仕草がかえって、独特の色気を感じさせ、田山に対する羨望とともに、奈津子をいっそう艶めかしく感じさせます。
以前は夫として奈津子を他の男の視線に晒していた私が、今は「他の男」として奈津子に欲情した視線を向ける立場になって、人妻に欲情する男の性がわかったような気がしました。
奈津子が私の視線に気がついたのか、私に手を振ります。
奈津子を見ながら欲情していた私は、ちょっと慌てて、手を上げます。
そして、二人は立ち上がり、私たちは一緒にエレベータに向かいました。
エレベーターの中には、私たち以外には中年の男性とその部下らしい若い男性だけでした。
エレベーターが動いている間、みんな黙ったままでした。
奈津子は田山と腕を組んだまま俯いて立っていて、私は二人に向き合うように壁に沿って立っています。
私の目は、田山がさりげなく手を廻している奈津子の腰に行ってしまいます。
田山の手が置かれているワンピースの下は、奈津子は何も身に着けていないのです。
それに、ちょっと前に車内で田山と交わった余韻で潤ったままでしょう。
そんな想像をして私は少し息苦しく感じてしまい、上着のポケットに手をいれ奈津子のパンティーを触りました。
おそらく田山も、奈津子の腰に廻した手の感触で、奈津子がパンティーを身に着けていないことを知っているでしょう。
以前、奈津子が田山の「妻」になる前に、三人でデートしたときも、田山が奈津子にパンティーを身に着けさせなかったことがあったので、今回も田山はわかっていて奈津子にそうさせて、密かに楽しんでいるのかもしれません。
一緒に乗り合わせた二人の男性はさっきからチラチラと奈津子に視線をやっています。
この二人の男性は、後で昼食をしながら「さっきの女、いい女でしたねー」とか話すのかもしれません。
でも、まさかワンピースの下は何も身に着けていないとは知らないでしょう。
最上階のレストランに入った私たちは奥の窓際の席に通されました。
「わー、見晴らしいいわねー」
椅子に座りながら奈津子が言います。
4人掛けのテーブルで、全面ガラスの窓を背にして奈津子が座り、その隣に田山、そして私は奈津子と向かい合って座りました。
ランチタイムのピークを過ぎたからなのか、店内は少しすいていて、私たちの隣のテーブルは空いています。
私たちは手渡されたメニューをしばらく見ていましたが、やがてそれぞれのランチを注文しました。
それからしばらくして、田山が注文した白ワインが来ると、田山は私にも勧めてくれましたが、「私は今日はドライバーですから」と言って断ります。
「みきおさん、悪いわね」と奈津子が私を見て済まなそうに言いました。
二人は白ワイン、私はペリエで乾杯します。
奈津子が田山、そして私とグラスを合わせ、田山と私がグラスを合わせます。
ワインを一口飲んだ奈津子がちょっと俯いて含み笑いをします。
「どうしたの」
私が聞きます。
「だって」
奈津子が少し顔を赤くして私の目を見ます。
「なんだか、不思議な感じなんだもん」
「何が不思議なの」
「ふ、二人の旦那さんと一緒にホテルでランチなんて」
「ははは、それだけかい、奈津子」
田山が少しニヤニヤしながら奈津子の横顔を見ます。
「○○さんも知ってるよ、でしょ?」
そう言って田山は、私に目をやります。
「え、まあ」
「車降りるとき、見つけたんだよ、忘れ物」
「いやだぁ、知ってたの、みきおさんまで」
奈津子はちょっと赤くなって私たち二人を交互に睨みながらふくれっ面をして見せます。
「いいじゃないか。それより」
田山が身を乗り出し、声をひそめます。
「奈津子、ここでオナニーしてよ」
「えー」
奈津子が驚いて田山の顔を見ます。
「何言ってるのよ、いきなり」
「いいじゃないか、二人だけのときはよくしただろ」
田山は笑いながら言います。
それを聞いて奈津子がまた赤くなったので、どうやら田山の言うことは本当のようです。
こうやって、私の知らない奈津子の「顔」を知ってしまうと、またいっそう奈津子が自分だけのものでなくなったことを実感させられます。
「僕たちが壁になって他からは見えないから、大丈夫だよ。それに、○○さんも見たいでしょ、どうですか」
田山が私に聞きます。
「え、あ、そうですね」
私がちょっとしどろもどろになって言います。
「もう、二人ともエッチなんだから」
奈津子は口を尖らせます。
「ほら、早く」
田山が笑いながら奈津子をせかせます。
「んもぉ」
そう言いながら奈津子は、テーブルの上に置いていた右手をテーブルの下に入れます。
テーブルについた左手の上に顎をのせたまま、奈津子は、私の目を見つめながら、ちょっと困ったように微笑むと、手を動かし始めます。
テーブルにはピンクのテーブルクロスがかかっていて、奈津子の手はその中なので、向かい合って座る私には見ることができません。
でも、肩の動きで奈津子が右手をゆっくり動かしているのはわかります。
「指を中に入れて」と田山が低い声で言います。
奈津子は田山を横目でチラッと見ると、軽く体をかがめるようにします。
右肩が少し下がり、奈津子の手が股間奥深くに進んだのがわかります。
「入った?」
田山が小さな声で聞きます。
奈津子は私を見つめたまま、小さく頷きます。
「じゃあ、ゆっくり出し入れして」
田山が奈津子の耳元で囁きます。
奈津子は規則的に手を動かしています。
ときどき軽く顔をしかめる奈津子の表情がとても艶めかしく感じられます。
「だんだん早く」
田山がまた囁きます。
奈津子は、田山に言われるままに手の動きを少しずつ早めているようでしたが、そのうち俯いてしまいました。
私はそんな奈津子を見つめながら、テーブルの下のミニ・・・ワンピースの裾から奥へと奈津子の手が入り、白い指が濡れそぼった股間を出入りしている様子を想像して、激しく勃起していました。
奈津子が俯いたまま、左手で田山の右手を握ります。
右手は動き続けています。
そして田山の手を握る左手に一瞬力が入ったかと思うと、右手の動きが止まり、俯いたまま体の震えを必死にこらえています。
そうやって奈津子は、しばらく俯いたまま体を固くしていましたが、やがて「ふぅ」と言って顔を上げると、田山を見つめます。
すると田山は奈津子の左頬に軽くキスをします。
「右手をみせて」
田山が奈津子に言います。
奈津子がテーブルの下から右手を出して田山の前に置きます。
中指と人差し指が奈津子の体液で光っています。
すると田山が奈津子の右手をそっと口に運び、中指と人差し指を口に含みます。
そしてゆっくり口の中でなめているようです。
田山に指を舐められながら、奈津子は私に、ちょっとはにかんだように微笑みます。
私はあっけにとられ、ポカンとして奈津子を見つめていました。
「いやだわ、そんな顔して私を見ないで」
奈津子がクスッと笑いながら私に言います。
それからちょっとして、ウェイターが近づいて来たので、田山は奈津子の指を口から離しました。
ウェイターがランチコースの皿を並べる間、奈津子は下を向いて待っていましたが、その顔は少し上気して赤みを帯びている気がします。
私がチラッと見ると、テーブルの下で、田山と手をつないでいました。
- ベンチ
- 食事の後、天気がよかったので、私たちは海沿いを歩きました。
ちょっと歩くと汗ばむ陽気でしたが、海から気持ちのいい風が吹いていました。
私たち三人は奈津子を真ん中にして歩いていました。
奈津子は田山と腕を組み、体を寄せるようにして歩き、私は、二人から少し離れて並んで歩きます。
すれ違う人たちは、そんな私たちをどんなふうに見ているのでしょうか。
それにしてもいつも感じるのですが、田山と一緒にいると奈津子の体は、なにか特別な反応をおこしてフェロモンの分泌が盛んになっているような気がします。
そのときの私も、奈津子の隣を歩きながら、奈津子の体から漂うフェロモンを感じる気がしていました。
私たちがあるいている小道は、私と奈津子が結婚前にときどきデートしていた場所でした。
あの頃の私と奈津子は手をつないでこの道を歩いていましたが、その奈津子は今、私の隣で、田山と腕を組み、体をくっつけて歩いているのですから、不思議な気がします。
「みきおさん、懐かしいわね」
奈津子が、田山と腕を組んだまま、私に微笑みながら言いました。
「ああ、そうだね」
「何がそんなに懐かしいの」
田山が笑いながら奈津子に聞きます。
「あのね・、えへっ、じつはここ、結婚前によくみきおさんとデートしたのよ」
奈津子がちょっと首をすくめながら答えます。
「へえ、そうだったんですか」
田山が私に目を向けながら言いました。
「ええ」
私は下を向いて言います。
「なんかちょっと、変な感じよね」
奈津子が私を横目で見ながら、舌を出して言います。
海沿いの歩道を突端まで歩くと、小さな公園があり、私たちはそこに入りました。
海に向かって並ぶベンチのほとんどにはカップルが座っています。
私たちは空いている一つに、奈津子を挟んで座りました。
女一人に男二人というのは、かなり奇妙なグループに見えたかもしれません。
しかもその女と男の一人は腕を組んでいるわけですから。
「よくここにも来たわよね、みきおさん」
田山にぴったりと寄り添ったまま奈津子が私に顔を向けて言いました。
「うん、そうだね」
海から気持ちいい海が吹いていました。
「ああ、涼しいわね」
奈津子がどちらへともなく言います。
そのとき、田山が奈津子の肩に手を回し、奈津子は田山の胸に頭を預けます。
奈津子と私はよくこの公園に来て、ほかのベンチに座っているカップルのように手をつなぎ並んで座っていました。
海を見ながら、私はなんとなくその頃のことを思い出していました。
そして、何気なく隣に座る奈津子を見ると、田山の腕に抱かれるようにして静かにキスをしていました。
軽く目を閉じ、唇を重ねたままじっとしている奈津子の綺麗な横顔に、しばらく私は見とれていました。
海風に髪を吹かれながら田山と静かに口づけする奈津子は、どきっとするほど美しく、そしてセクシーでした。
田山に腕を回され、体を少しひねるようにして田山と唇を合わせている奈津子の体からは得も言われる色香が漂い、私は抑えがたいほどに奈津子に欲情していました。
私にとってずいぶんと長く感じる時間奈津子は田山と口づけをした後、そっと唇を離しました。
そして、静かに目を開けると、上目遣いに田山に微笑みながら、「うふっ、素敵なキス」と言いました。
その表情に見てはいけないものを見たような気がして、思わず私は前を向いてしまいました。
それから奈津子は、田山に腕を回されたまま、しなだれかかるように肩に頭を置き、また目を閉じました。
「なんだかワインがまだきいてるみたい」
奈津子が目を閉じたまま、けだるそうに言います。
そんな奈津子の姿に私の股間はもう抑え切れないくらい固くなっていて、私はいたたまれなくなり、「そろそろ車をとってきます。お二人はゆっくりしててください」と言うと、立ち上がりました。
「一緒に車に戻ればいいですよ」と田山が言いましたが、
私は、「あ、いえ。私がとってきますから。どうぞ、ゆっくりしていてください」と言い残し、歩き出しました。
奈津子は一瞬頭を上げ薄目を開けると、眩しそうに私の方を見ていましたが、やがてまたすぐに田山に抱かれるようにして頭を預け、目を閉じました。
ホテルの方へ歩きながら、私は感じていました。
今の奈津子からは、私と奈津子の結婚前の交際、そして結婚してからの生活では感じなかったような、表現できないような不思議な色香を感じます。
それは、私も知らなかった深いところにある奈津子の女の部分が、田山の手によって開花させられたかのようでした。
そして、その花から漂う不思議な色香が私を虜にしていました。
ほんとに奈津子にこんなにも強い色気を感じたことは、いまだかつてありません。
皮肉なことに、奈津子の中で私も知らなかった花が花開いたときには、私はもうその蜜を味わうことは許さされていませんでした。
その花から滴る蜜を想像することしか、私には許されていなかったのです。
でも、よく考えると、それが許されないからこそ、ここまで激しい欲情を感じ続けるのかもしれません。
どうしようもない渇きを感じるからこそ、奈津子の側にいるだけで、奈津子の体が発する色香を息苦しいまでに感じるのかもしれません。
地下駐車場に着いて運転席に座った私は、ハンドルに頭を置いて目を閉じました。
すると、ついさっき田山と口づけしたときに見せた奈津子の表情、張りのあるバストライン、そして腰からヒップにかけての曲線などが目に浮かび、私の股間はもう狂おしいほどに固くなっていて、私は思わずズボンの上に左手を置きました。
でも、まさかこんなところで自慰をするわけにもいかず、思い立ってエンジンをかけると、ゆっくりと車を出しました。
さっきの公園で二人を拾った後は、市内でブラブラとウィンドウショッピングを楽しんだり、喫茶店でコーヒーを飲んだりしながら夕方まで過ごしました。
その後は都内に戻って、久しぶりにクラブ・・・いずみに行くことになりました。
帰りの車の中で田山は、奈津子を抱いてディープキスをしながら、ワンピースの上から奈津子のバストを揉んだり、乳首を刺激したり、さらにはワンピースをたくしあげて股間を愛撫しようとします。
「あん、だめよ、あなた。みきおさんが気が散って運転できないでしょ」
奈津子は、クスクス笑いながら田山の手を制します。
「みきおさん、私の、返してくれる?」
田山の手を抑えながら奈津子が私に言います。
「ああ、○○さん、返さなくていいですよ」と笑いながら田山が言います。
「ん、もう。あん、だめったら」と、奈津子は田山とじゃれています。
私はそんな二人をルームミラー越しに見ながら笑います。
結局、奈津子はワンピースを腰のところまでたくし上げられたまま、田山の腕に抱えられるようにしてキスで口を塞がれ、田山の指で股間を愛撫されています。
信号待ちで停車したときに、ちらと後ろを見ると、奈津子の白い太腿の付け根にそよぐ陰毛が目に入り、ドキリとします。
そうやって二人がじゃれあっている間に、途中少し渋滞にひっかかったものの、いずみの営業時間が始まって間もない頃に着きました。
私はいったん二人をいずみで降ろした後、田山のマンションに車を置いてから戻ることしました。
車を降りながら田山は「ほんとに申し訳ないですね」と言いました。
「あ、それから、私のマンションに戻られるついでで悪いのですが、ひとつお願いしていいですか」
「ええ、どうぞ」
田山は、いずみのママに渡したいものがあり、私にそれを持ってきてほしいということでした。
リビングの窓側のテーブルの上にある紙包みだということでした。
私は、腰に手を回されて田山と一緒にエレベーターの中に消える奈津子を見送ると、車を出しました。
田山のマンションに着くと地下駐車場に車を入れ、それからエレベーターで上に上がり田山の部屋に入りました。
田山が言ったとおり紙包みを見つけ、部屋を出ようとしましたが、ちょっと思い直して、二人がいないのをいいことに、寝室に行ってみることにしました。
前に一度、ドアの隙間から覗いたことがありましたが、中に入るのは初めてです。
寝室のドアをそっと開けて入ると、まず大きなダブルベッドが目に入りました。
ベッドカバーをとると、枕が二つ表れ、「ああ、ここで二人が夜をともにしているのだ」という実感が湧きます。
そっとシーツに顔を近づけると、二人の激しい夜の営みの息遣いが濃厚に残されているような気がして、私は少しめまいを感じました。
ベッドの前には、奈津子のために買ったのでしょう、白いドレッサーが置かれています。
その上には、奈津子がいつも使う化粧品類が並べてあり、その前に小さな額に入った二人の写真がありました。
どこかの温泉旅館でとった写真でしょうか、二人は浴衣姿で、窓辺の椅子に座った田山の膝の上に奈津子が乗り、並んで写っています。
奈津子の浴衣の前は少しはだけ、白いふくろはぎがあらわになっているのがセクシーです。
微笑んでいる奈津子の顔からは、自分のすべてをこの男に許しているという表情が見て取れます。
写真を見ながら私は、自分の知らない奈津子を見ている気がして、もう奈津子は自分のものではないのだという実感がこみ上げてきました。
ドレッサーを開けると奈津子の服が並んで掛かっていました。
顔を近づけると懐かしい奈津子の香りがします。
もうそれだけで私の股間は堅くなります。
この服が奈津子の体を包んでいたのかと思うと、思わず手にとり服の裏地をなぜていました。
そして、鼻をつけ奈津子の香りをゆっくりと吸い込み、目を閉じました。
・・・いったい俺は何をやってるんだ・・・
私は苦笑しながらクローゼットを閉じると、部屋全体をもう一度眺めました。
そこは、田山の妻としての奈津子の生活の痕跡であふれていて、いやおうなく奈津子が田山の妻であることを物語っていました。
寝室を出て、部屋の鍵を出そうと上着のポケットに手を入れると、「あれっ!」と声を上げました。
奈津子のパンティーはまだ私のポケットの中に入ったままでした。
結局、私が渡しそびれ、奈津子は今日一日、そして今もワンピースの下には何も身に着けないままなのでした。
- 陽光
- その月の最後の週、奈津子の祖父の法事のため、私たちは奈津子の実家に帰省することになりました。
奈津子の実家が遠いこともあり、ここのところ帰省していなかったので、奈津子にとっても久しぶりの帰省です。
土曜の午後の飛行機の便を予約していたので、私が土曜の昼頃に田山のマンションに迎えにいくことになりました。
最近の奈津子はなんだかんだと田山のところで過ごす時間が多くなったようで、その週も一緒に帰省するまでは田山のところにずっといました。
前の日に、奈津子から「みきおさん、ごめんなさい。喪服持ってきて」と電話があり、私は奈津子のクローゼットの中から喪服を探し出して、土曜の午前に田山のマンションに向かいました。
予定の時間の11時よりちょっと早く田山のマンションに着いてしまい、どこかで時間をつぶそうかとも思いましたが、結局私は、インターフォンを鳴らしました。
しばらくたっても何も返事もないので、もう一度鳴らして待っていると、インターフォンから奈津子の声で「はい?」と返事があったので、
「あ、僕」と言うと、
奈津子は「あ、みきおさん、ちょっと待っててね」と言い、インターフォンを切りました。
それからドアの内鍵を外す音が聞こえると、少しだけドアが開けられ、奈津子の姿が現れました。
奈津子は羽織ったガウンを左手で重ね持ち、開いた裾から白い脚が見えています。
髪も少し乱れています。
いきなり奈津子のそんな姿を見せられてドキッとした私に気付いたのか、奈津子は、「こんな格好でごめんなさい。入って」と言いました。
中に入った私は奈津子の後についてリビングに向かいました。
奈津子の後ろ髪が少し乱れていて、首筋が少し上気しているようです。
後ろから見る奈津子の体からは、今さっきまでベッドの中で田山に抱かれていた「熱」が漂い出しているみたいです。
「ごめんなさい、今、用意するから、コーヒーでも飲みながらリビングでちょっと待っててくれる?」
奈津子がガウンの前を押さえ、少し乱れた髪に手櫛を入れながら言います。
「ああ、いいよ、自分でやるから」
私はソファに座りながら答えます。
「朝食は?」
奈津子が閉まっていたリビングのカーテンを開けながら聞きます。
窓からまぶしいほどの陽光が射し込みます。
カーテンを開けた奈津子は、ガウンの前を手で持ったまま、窓を背にして立っています。
窓から射し込む朝日でガウンが透けて見え、ガウンの下は何も身に着けていない奈津子の体のシルエットが浮き上がって見えます。
それを見て私の股間が反応しましたが、私は何食わぬ顔で「軽く済ませてきた」と答えました。
「そう。もしよかったら、トーストもあるから」
そのとき、田山がリビングルームに入ってきました。
田山もガウンを羽織っています。
「ああ、いらっしゃい」
「どうも。ちょっと早かったみたいで、すみません」
「いえ、こちらこそ、ちょっと取り込んでて」と、田山は奈津子を見ながら笑いします。
それを聞いた奈津子は、ちょっと顔を赤らめ、「じゃあ、悪いけどちょっと待ってて」と私に言って、ベッドルームに向かいます。
「ああ、どうぞ、ごゆっくり」
私がさりげなく言った言葉に奈津子はちょっと反応したようですが、結局何も言わずに、田山に腰に手を廻されながら、寝室に向かいました。
歩きながら田山は奈津子の首筋に唇を這わせています。
廊下に二人が消えると話し声が聞こえます。
「奈津子、続き」
「だめよ、準備しなきゃ」
「いいだろう、もうすこしだけ」
「だめ、あっ、ふふふ。もう」
二人がじゃれあう声がして、それからパタンとドアが閉まりましたが、カチャリと音がしてまた開いたようでした。
「えー、開けとくの」
奈津子が小さな声で田山に聞いてるようです。
奈津子が閉めたドアを田山が開けたのでしょう。
田山が悪戯っぽく笑う顔が浮かびます。
私がソファに座ったまま、テーブルの上に置いてあった週刊誌を手に取り読み始めると、案の定、ベッドルームから二人の営みの音と奈津子の声が聞こえ始めました。
私が久しぶりに奈津子の裸体を見ることができるようにとの田山の配慮なのか、それとも以前のように私に覗かれるのをセックスのスパイスにしようと思っているのか。
とにかく私はそっとベッドルームに向かいます。
半開きになったドアからベッドルームを覗くと、カーテンが開けられ、窓から日が射し込む中で、田山と奈津子は交わっていました。
明るい陽の光の中で奈津子の白い肢体がよりいっそう際立っています。
田山は、上から奈津子の両足を外側に押し広げるような姿勢になって挿入しながら、奈津子と唇を重ねていました。
ちょうど後ろから二人を見ているので、奈津子のヴァギナが田山の太いペニスを咥え込んでいるのがよく見えます。
そして、奈津子はしがみつくように田山の首に手を廻しています。
仰向けになった奈津子は天井に向かって脚を上げる姿勢で、白い太ももがドキッとするくらい生々しく感じられます。
おそらくは田山の目論見どおりに、久しぶりに見る奈津子の悩ましい体に私の目は釘付けになりました。
不思議なことかもしれませんが、明るい陽光の中で田山とセックスする奈津子を、私は美しいと感じていました。
そして、心と体のすべてで田山と愛し合う妻を、愛しいとも思いました。
もちろん久しぶりに見る奈津子の美しい体が田山の逞しい「性」によって貫かれている姿に、私が激しく興奮していたのは事実です。
脚を大きく広げ、自分の中心深くに田山を迎え入れながら、田山と舌を絡めあう妻の姿は、普段の生活ではその裸体さえ見ることも許されない私には十分過ぎるほどに刺激的です。
でも、目の前の奈津子がしているのは、ただのセックスを超えたより深い愛の営みのように私には感じられ、奈津子のことを美しいと感じたのかもしれません。
結局私は、田山が射精を迎え、そして奈津子の上になったまま優しくキスをするまで、二人の様子を見続けていました。
そして、二人がベッドから起き上がろうとするのに気づき、あわてて忍び足でリビングルームに戻り、ソファに座ろうとしましたが、思い直してキッチンに行き、コーヒーを入れるためにお湯を沸かしました。
湯沸しの前で湯が沸くのをじっと待っている間も、さっき見た奈津子の悩ましくも美しい姿と、それを目にしたときの自分の感情が蘇ってきます。
気がつくと湯はとっくり沸騰していて、私はあわててガスを切り、コーヒーを淹れました。
淹れたコーヒーを持ってリビングに戻ると、ガウンを着た田山がソファに座り新聞を広げていました。
私は別の一人がけのソファに座り、コーヒーを一口飲みます。
ベッドルームの方からは奈津子が身支度をする物音が聞こえてきます。
「どうでしたか、久しぶりに見る奈津子の姿は」
田山が新聞を持ったまま、微笑を浮かべながら私に聞きます。
「あ、ええ、なんていうか」
不意をつかれた私はちょっとしどろもどろになり、「ちょっと刺激がきつかったですね」と言いました。
それを聞いた田山は軽く笑います。
「でもいい女でしょ、私が言うのもなんですが」
「ええ、たしかに」
私が苦笑しながら言います。
「私も、こんなにも一人の女に惚れたのは、長い人生で二度目です」
「例の彼女以来、ということですか」
私がそう言うと、田山は私から目をそらし窓の外を見ると、「ええ」と言いました。
「でも、前にもちょっと言ったことかもしれませんが・・、」
田山はもう一度私に顔を向けて言います。
「なにか、その二つのことが続いているような気が、私にはするんです。私が仕事ばかりに明け暮れていた無味乾燥の長い時間を経て、彼女が戻ってきてくれたような」
「・・・・」
私はコーヒーカップの中に視線を落としたまま聞いています。
「実は」
しばらく黙っていた田山が、おもむろにまた口を開きました。
「私も昔、○○さんのような楽しみ方をしていたことがあるんですよ。といっても、やっぱり全然違うかな」
そう言うと、私を見て田山は軽く笑います。
「いえ、昔の恋人を、なんていうか、見せびらかせて楽しんでいたことがあって・・・・昔の職場の同僚に、根が単純で好色が顔に出るのを隠せない男がいたりして、そいつの舐めるような視線が彼女の上を這うのを見て内心喜んでいたりしていましたから」
「そうですか」
「それがね、この前にも同じことを感じたんですよ」
「この前って」
「ほら、三人で一緒に横浜に行ったでしょう」
「ああ、はい」
「あのとき、ホテルに着いて○○さんが駐車場に車を入れて、ロビーで待っている私たちのところに来たとき、奈津子に向けられた○○さんの視線に気がついて、昔感じた気持ちが蘇ったんですよ」
「私の視線?」
「そう。○○さん、奈津子のことジッと見つめていたでしょう?あのときの視線は、昔の私の同僚の視線とまったく同じでしたよ」
田山が笑いながら言います。
「そうでしたか」
私も苦笑しました。
公衆の面前で、夫である私が妻に好色な視線を向けて、しかもそれに気付かれていたというのですから。
「でも、それはやっぱり、○○さんとは違う楽しみなんでしょうね。私の場合は、昔の恋人のときも、奈津子のときも、あくまで見せびらかして、好色な視線を向けることしかできない男たちを見て、ある種のサディスティックな悦びを感じていたのに対して、○○さんは、あえて自分をそういう男たちと同じ立場に置くことで、悦びを感じる。そうですよね」
「ええ、まあ、そういうことでしょうね」
「それって、やっぱり一種の精神的マゾヒズムですよね」
「うーん、そうなんでしょうね、多分」
「はは、そうですよ、間違いなく」
田山は笑います。
「だとしたら、私達三人は理想的な組み合わせだということです」
「理想的?」
「そうですよ。○○さんが私の昔の同僚たちのように奈津子に欲情するのを見ることで私は悦びを感じてますます奈津子と深く愛し合い、そして○○さんはそんな奈津子に欲情することしかできない自分に被虐的な悦びを見出すわけですから」
それを聞いて、私は、『なるほど、それはそのとおりかもしれない』と思いました。
だからこそ、このような不可思議な関係が続いているわけでしょうし。
「奈津子はどうなんでしょうね」
私はコーヒーを一口飲んで田山に聞いてみました。
「そうですね、以前はやはり自分の中に相当戸惑いがあったようですが、今は自分なりに整理できたみたいですね」
「そうですか」
どのように整理したのか、聞いてみたい気もしましたが、しませんでした。
それからは田山は黙って新聞に目を通し、私は静かにコーヒーを飲んでると、奈津子がリビングに入ってきて、「みきおさん、おまたせ」と言いました。
明るいライム・・・グリーンのスーツを着た奈津子は、ついさっきのしどけない姿からは見違えるようでした。
膝が出る程度にわずかにミニのスカートから伸びた形のいい脚を目にすると、私は、さっき覗き見たベッドの上で天井に向かって高く上げられていた奈津子の脚と太腿の白い肌を思い出してしまい、股間を熱くしていました。
「○○さん、すみません。ほんとなら車でお送りしたいところですが、この後、ちょっと予定が入っているので」
「あ、いえ。お気遣いなく」
「それじゃあ、お気をつけて」
「じゃあ、あなた。行ってくるわね。淋しがらないで待っててね」
奈津子がソファに座っている田山におどけたように手を振ると、田山がちょっと苦笑しました。
- 飛行機
- 帰省とはいえ、久しぶりに二人だけで旅行するとあって、奈津子はちょっとはしゃいでいました。
三人掛けの座席に私達二人だけで、飛行機の中で奈津子は、私と腕を組み体をぴったりとくっつけていたかと思えば、私の肩に頭を置いてもたれ掛かるようにしながら、あれこれと喋っていました。
他の人から見れば仲のいい夫婦なんでしょうが、私は、奈津子が体を寄せてくる度に、奈津子の体から田山とのセックスの余熱が伝わってくる気がして仕方がありません。
少し疲れた振りをして目を閉じると、今度は、朝の陽光の中で見た田山と奈津子のセックスの光景が鮮やかに甦ってきてしまいます。
ということで、情けないことに飛行機の中で勃起しっぱなしでした。
奈津子の体に、間接的にとは言え、触れるのも久しぶりなので無理もないかもしれません。
「ねえ」
奈津子が私の耳元に口を近づけて言いました。
「ん?」
私が奈津子を見ると、奈津子は意味ありげに微笑んでいます。
「なに、どうしたの?」
私がそう言うと、奈津子はもう一度私の耳に口を近づけます。
「さっき、覗いてた、わたしたちの寝室?」
奈津子がちょっと顔を赤らめて私を上目遣いに見つめています。
「ど、どうしたんだよ、急に」
虚をつかれて、私はちょっと動揺しました。
「そうなんでしょ?」
「なんでそんなことを聞くんだよ」
「いいじゃない、白状しなさいよ」
奈津子が私を見つめたまま言います。
仕方なく私は「ああ」と生返事をします。
「やっぱりね〜」
奈津子は私に体を押し付け、私の顔を覗き込みながら言いました。
「あのひとが、あなたに覗かれながら私を抱くと興奮するんだって」
奈津子が、耳元でそう囁くと、うつむいてクスッと笑います。
それから、もう一度私の耳元に顔を近づけると、
「それがさあ・、なんか、わたしにまでうつっちゃったみたいで・・・わたしもすごく感じちゃった」と小声で言い、舌を出しました。
「へえー、そうなんだ」
私はそう言って、まじまじと奈津子を見ると、奈津子はえへへと笑います。
それから、「ねえ、どうだった?」と小声で聞きます。
「どうって」
「よかった?」
「まあね」
「まあね、じゃ、わかんない。ちゃんと」
奈津子が、私にキスをするくらに顔を近づけて言います。
「よかった、すごく」
「ほんとに?」
「ほんとだって」
それを聞くと奈津子は、しばらく嬉しそうに私と腕を組んで鼻歌を歌っていましたが、また、私の耳元に口を寄せると、「あの人がね」と囁きます。
「どうしたの?」
私がそう言って奈津子を見ると、奈津子はちょっとはにかんだような顔をしています。
そしてもう一度私の耳元で、
「帰省している間ずっと、わたしの体があの人のことを忘れないようにっていって、今朝あなたが来る前もずっとしてたの」
「僕に玄関を開けてくれたときも?」
「うん」
そういえば、私のために玄関を開けてくれた奈津子はガウンを羽織っただけで、体は熱を帯びているようでした。
「いつから?」
「きのうの夜から。途中疲れて眠って、朝、目が覚めるとすぐまた」
「すごいね」
「でね、最後に、そう、あなたがのぞいたときね、」
奈津子がそう言ってウィンクします。
「あのひと、離れている間もわたしの中に自分のものを残すって言って、一番深くしてイッたの」
そう言って奈津子はちょっと照れたように笑います。
そういえば、奈津子の脚が高々と上げられていたのは、田山がより深く奈津子と結合するためだったのでしょう。
「どうだった?」
私がたまらず奈津子に聞きます。
「えへ」
奈津子が照れ笑いをしますが、私の耳元で、「もう奥に当たって大変。今もその感じが残ってるわ」と笑いながら言います。
そんなに深いところで田山に射精されて、そのまま慌しく身支度をして出てきたというわけです。
私が思わず奈津子の下腹部に視線を向け、「じゃあ、まだそこに田山さんの」と言うと、奈津子は悪戯っぽく舌を出します。
そのうち、奈津子の方は私にもたれかかったまま眠ってしまいましたが、そんな話を聞いてしまった私は、奈津子の体の弾力を感じながらモヤモヤし続けていました。
- 法事
- 空港には、奈津子の実家の近くに住む叔父さんが車で迎えに来てくれていました。
奈津子の亡くなった父が四人兄弟の長男で、その叔父さんは末っ子だそうです。
奈津子の父とその叔父さんは14才も離れているので、奈津子とは一回りくらいしか違いません。
「やあ、なっちゃん、○○さん、久しぶり」
叔父さんは奈津子のバッグを受け取りながら、言いました。
「なっちゃんは美人だから遠くからでも目立つね。それに、また一段と色っぽくなってないかい?○○さんに可愛がってもらってるんだろ」と、ニヤニヤして言います。
「何、馬鹿なこと言ってんのよ」
奈津子はちょっと顔を赤くして、叔父さんの背中を笑いながら小突きました。
「なっちゃんたちが来るの、みんな待ってるよ」
車を出しながら、叔父さんが言います。
車の中でも奈津子は私と腕を組んだままでした。
「相変わらず仲がいいね」
ルームミラーをのぞきながら叔父さんが言いました。
すると奈津子は「当たり前でしょ、ねぇ」と笑いながら、私に言います。
私は苦笑いをするしかありませんでした。
もちろん叔父さんは、この奈津子が実は他の男のものになっているなどとは知るはずもありません。
空港から奈津子の実家までは車で三十分程度の距離で、私は、奈津子と叔父さんが土地の言葉で交わす会話を、窓の外をぼんやりと眺めながら聞いていました。
久しぶりに訪れる奈津子の実家では、白いものが少し増えた気がする義母が、準備の手を休めて迎えてくれました。
「やあ、よく帰ったね」
「みんなは?」
「もう集まってるよ」
確かに仏間の方から大きな話し声や笑い声が聞こえます。
葬式と違って湿っぽさはなく、早くも法事の後の酒を期待している雰囲気が伝わってきます。
「有希は?」と奈津子。
「ああ、あっちで準備してるよ」
有希というのは、八つ違いの奈津子の妹です。
奈津子は東京の大学に進学しましたが、妹の有希は地元の大学を出て、地元の企業に就職していました。
その有希が、隣の部屋から現れ、私たちを見てパッと顔を輝かせると「おねえちゃん、○○さん、いらっしゃい」と言いました。
「やあ有希ちゃん、ますます美人になったね」
私がそう言うと「ありがとうございまーす。そういってくれるのお兄さんだけでーす」と笑っていました。
「あ、おねえちゃん、髪型変えたんだね」と奈津子に言います。
「あ、うん。ちょっとね」
「似合ってるよ。大人の女って感じがする」
「あはは、ありがと」
奈津子がちょっと照れたように笑います。
それから私たちは、二階の、以前奈津子の部屋として使っていた部屋に荷物を置きました。
そして、二人とも喪服に着替えはじめました。
私が荷物の中から式服を出してさっさと着替えながらふと奈津子を見ると、スーツのジャケットとブラウスを脱いだ奈津子が、胸の前で脱いだブラウスを抱え、畳の上で正座して、こっちを見ています。
「えへっ、なんかちょっと恥ずかしいわね。ここで脱ぐの」
上半身シュミーズ姿の奈津子のあらわになった肩から腕の肌の生々しさに私は一瞬目を奪われましたが、
「何言ってるんだよ、いまさら」と笑います。
「だって」
「わかったよ。むこう向いてるから、早く着替えなよ。そろそろお坊さんが来るよ」
「はーい」
それから私は奈津子に背を向けてさっさ着替えを済ませ、窓の外を眺めていましたが、奈津子がスカートを脱ぐ音やストッキングを履き替える音を聞きながら、私の胸は密かに高鳴っていました。
「おまたせ」という奈津子の声に振り返ってみると、喪服に着替え終わった奈津子が、また畳の上で正座して鏡を見ながら髪を梳かしています。
思わず私は奈津子のその姿に見入ってしまいました。
どうしてでしょうか、喪服を着た奈津子に私は、どうしようもないくらいに、成熟した女の色香を感じていました。
奈津子くらいの年頃の女性が喪服を着ると、不思議な色気を醸し出す効果があるのでしょうか。
「なにをじろじろ見てるの?」
奈津子が手鏡をのぞき込みながらニコニコして私に言います。
そのとき、下の方から、寺の住職が着いたことを知らせる声が聞こえました。
髪を梳かしおわった奈津子は、「じゃ、行きましょう」と言って、先に階段に向かいます。
仏間には、奈津子の亡くなった父の兄弟とその奥さん、それから奈津子の従兄弟たちが既に集まっていました。
奈津子が部屋に入ると、急に部屋が華やいだようで、奈津子に視線が集まります。
既にお坊さんが仏壇の前で準備をしているので大きな声で声を掛ける者はいませんが、叔父さんたちや従兄弟たちは奈津子に目配せをします。
集まった親戚が多く、私は奈津子の斜め後ろの位置に座ることになりました。
座布団の上に正座をして身を落ち着かせるとほどなく、読経が始まりました。
読経の間、時おり私は斜め前の奈津子の後姿をこっそり盗み見ていました。
自分の妻の姿を盗み見るというのも変ですが、神妙に俯いて読経を聞いている奈津子の後姿に、私は限りなく欲情していました。
背中からのラインはウェストでくびれ、喪服の上からも豊かなバストラインがわかります。
正座する足の上に載ったヒップ。
ほどよく丸みを帯びていますが、張りは保ったままです。
そして、その奈津子の体の中心奥深くで、田山が奈津子の体に自分の痕跡を残すために自らの精を放ったと思うと、ジワリとした情欲が湧きおこってきます。
今でも田山の精が、そのときの感触とともに奈津子の中に残り続けていることでしょう。
奈津子は読経を聞きながら、自分の中に深く刻み込まれた田山の感触を味わい続けているのかもしれません。
そして私は、そんな奈津子に深く欲情しているのでした。
不謹慎と言えば、不謹慎ですが・・・
順番に焼香皿が回ってきて焼香が済むと、しばらくして読経が終わりました。
後ろに向き直った住職と親戚たちが、祖父の昔話などをしばらくしている間に、酒と料理の準備がされて、酒盛りになりました。
奈津子の母が一同に謝辞を述べて乾杯が行われると、皆リラックスした雰囲気で酒を酌み交わし始めました。
奈津子は話題の中心で、みんな法事を終えた解放感からか、やれ、ますますいい女になったなどといいながら奈津子に酒を勧めます。
私は私で、こんないい女を嫁さんに持てるなんて、なんて幸せな男だとか言われながらやはり酒を勧められます。
多少辟易しましたが、でも、そうすることで親戚の人たちが、私たちの前で子供の話題を避けていることが痛いほどわかるので、その心遣いに感謝もしていました。
奈津子が器質的に子を宿すことがきわめて難しいと医者から言われたことを、おそらく義母から伝え聞いて知っているのでしょう。
そして、そのことは、私たちが感じる以上に不幸なことと、親戚の人たちは思っているに違いありません。
だから、「なんて幸せな男なんだ」と言う言葉には、私に対するある種の慰めのような意味も込められていたのかもしれません。
そのうえ、今の私たちの本当の状況を知ったらどうでしょうか。
私は、注がれた酒を飲み干しながら、離れたところで別の親戚の相手をしている奈津子のことをちらちらと見ます。
もちろん、誰も本当のこと、つまり、私も他の男たちと同様に奈津子を見て欲情することしかできないなどとは知る由もありません。
私はとりあえず「幸せな夫」を演じ続けていましたが、料理と酒がかなり回ったところで、ちょっと疲れたので、冷たいものを飲もうとキッチンに行き、冷水を汲んでダイニングテーブルの椅子に座って飲んでいました。
そこに、有希がやってきて、「あーあ、疲れちゃうわね」と言いながら、冷蔵庫からオレンジジュースを出し、私の前に座って飲み始めました。
姉の方がどこから見ても「陽」と「動」という感じを与えるのに対して、妹の有希はどちらかと言えば「静」という感じで、決して陰気とか地味というわけではないのですが、妹の方がかえって落ち着いた感じを与えます。
オレンジジュースを一口飲んだ有希が、「○○さん、おねえちゃん、なんだか変わったね」と私を見ながら言います。
私は一瞬ドキッとしましたが、平静を装いながら、
「そう。どんなふうに」と聞きます。
「うーん、なんていうのかな、上手く口で説明できないけど、なんか『女』が強くなった感じ」
「ははは、どんなんだ、それ」
私は有希の表現に思わず笑います。
「何かあったの?」
「え、何もないよ、特には」
「そう?」
「あれじゃないの、ほら、子供がない分だけ、同年代の女より世帯じみてないように感じるんじゃないの」
「そうかなあ」
有希はまたオレンジジュースを飲みながら浮かない顔でそう言いました。
「○○さん、気をつけた方がいいんじゃない、おねえちゃんのこと」
有希が悪戯っぽく笑いながら私に言います。
もちろん有希は冗談のつもりで言ったのでしょうが、私は妹の感覚の鋭さに舌を巻いていました。
「それより、有希ちゃん、仕事の方はどう?いい人見つかった?」
私は話題をそらすために有希に聞きました。
「はは、こんな田舎だから、仕事って言ったって退屈なだけ。いい男なんているわけないし」
「そんなことないだろう。大きな会社なんだし」
「あはは、ダメダメ。会社は大きくても、田舎はやっぱり田舎」
「有希ちゃんみたいな美人は、言い寄ってくる男、いっぱいいるんじゃないの?」
「それもだめ。男もイモばかり」
「そんなことないだろう。ヒドイこと言うね」
私がそう言うと、二人で笑います。
「あーあ、わたしもおねえちゃんみたいに東京に行けばよかったかなあ。
そうしたら、ちょっとはカッコよくなれたかもね」
そう言いながら有希は、テーブルに肘をついて手の上に顎を乗せます。
「そうかなあ。有希ちゃん、結構イケてると思うよ」
事実、姉と妹だけあって顔立ちとか似ていますし、世間的にはかなりの美形だと思います。
「ありがと、オ・・・ニ・・・イ・・・さん。でも、ここにずっといたら、そのうちくすんじゃうわ、きっと」
そういって有希はまた笑います。
「それにしても、やっぱりおねえちゃん、なんか変だわ」
「また、その話?何にもないって」
私が呆れ顔で言うと、仏間の方から座がお開きになる声がしました。
「そろそろお開きみたいだね。挨拶してくるか」
そう言って私が立ち上がると、有希も「じゃ、わたしも、そうするか」と言ってついて立ち上がります。
「でも、○○さん、ほんとに気をつけた方がいいかもよ、マジで」と有希が私を見て言います。
私は「わかった、わかった」と言って、苦笑いをしながら仏間に向かいました。
- 布団
- その夜、私と奈津子は、私たちが荷物を置いた、以前の奈津子の部屋で寝ることになりました。
「みきおさん、先にお風呂に入って」と言われて、私は風呂に向かいました。
私が風呂から上がって二階に行ってみると、奈津子が既にパジャマに着替えて、布団を敷いていました。
そんなに大きな部屋ではないので、並べて敷くと、お互い手が届くくらいの近さです。
「こんなにして二人で寝るの、久しぶりだわね」
二つ並んだ布団を見おろしながら、奈津子がちょっと照れくさそうに言いました。
たしかに、二人が一緒の部屋で寝るのは、久しぶりです。
今は、奈津子が私のところにいるときでも、寝室は別ですから。
「じゃ、わたし、お風呂に行ってくるから、先に寝てて」と奈津子が言い、着替えを手にして部屋を出て行きました。
私は、明かりを一つだけ消して、布団に入りました。
静かに目を閉じていましたが、もちろんすぐには眠れません。
しばらくすると、襖がしずかに開いて奈津子が入ってきました。
湯上りのほのかな香りがします。
奈津子がライトを消し、隣の布団に入ります。
二人とも黙ったままで、しばらく静寂が続きます。
すると、奈津子が小さな声で、「みきおさん」と、私を呼びます。
「ん?」
「手をつなごうか」と奈津子が言いました。
私が首を横に向けて奈津子を見ると、奈津子は目をつむって天井を向いたままです。
私が黙って布団から手を出すと、奈津子も同じように布団から手を出して、それを握ります。
「昔、よくこうやって手をつないで寝たわね」
奈津子の手の温もりが伝わります。
「さっきさ、」
私は、さっきキッチンで有希と交わした会話のことを奈津子に話しました。
「まったく有希って、そういうところは鋭いんだから」
「僕もそう思った」
「『女』が強くなった感じ、か」
そう言って奈津子はぷっと吹き出します。
「でも、わたし、やっぱり変わったのかな・・・あの人と一緒になって」
あの人と一緒になってと、奈津子がごく自然に言ったことに、私は軽くショックを受けましたが、何も言いませんでした。
それからしばらく私たちは黙っていましたが、また奈津子が、
「ねえ、みきおさん」と、ポツンと言います。
「ん?」
「今、どんな気持ち?」
「人妻と一緒の部屋で寝ているみたい、かな」
私が感じたままそう答えると、
奈津子は「あはは、確かに、そうかも」と言ってクスッと笑います。
「したい?」
「そりゃね」
「だめよ、我慢しなさい」
奈津子が私を向いて悪戯っぽい口調で言います。
「でも、ちょっとだけそっちに行ってあげてもいいわよ。変なことしないのなら」
私が布団を少し持ち上げると、奈津子が隣の布団からするりと入り、後ろから私に抱かれる姿勢になりました。
奈津子の髪からシャンプーの香りが漂います。
「昔はよくこうやって寝たわよね」
「そうだね」
今は、二人ともパジャマを着ていますが、以前はよく一つのベッドの中で二人とも裸のままこうやってくっついて寝ていました。
奈津子のパジャマの襟の下からゴールドのネックレスがのぞきます。
それを目にして私は、今抱いているこの体が田山のものだということを思い知らされた気がして、奈津子を抱く力を強めました。
パジャマを通して奈津子の体温と感触が伝わって来て、私は思わず勃起してしまいました。
「うふっ」
奈津子が意味ありげに笑います。
「何かいけないものを感じるわ」
「しょうがないよ、『人妻』をこんなふうに抱いているんだから」
私は奈津子の髪に鼻を押し付け、耳元で囁きます。
そしてパジャマの上から奈津子のバストを揉もうとすると、奈津子はその手をおさえ、「だめよ、言ったでしょ。いい子にして」と言います。
「いいだろ、これくらい」
「だーめ。人の奥さんに手を出さないの」
そう言いながら奈津子は私の手をどかせました。
奈津子がそう言っても以前ならただの冗談でしたが、今は現実味があります。
「でも、みきおさんが、そうやってわたしのこと欲しがってくれるの嬉しいわよ」
「奈津子もだんだん意地悪くなったなあ」
私がちょっと不満げにそう言いと、
「あら、そうかしら」
奈津子が、またクスッと笑います。
「あのひとも言ってたわ、そうするのがみきおさんへの愛し方なんだよ、だから、もっと、わたしのことを欲しがらせなさい、って」
「」
私は、それからしばらく黙ったまま奈津子を抱きしめていました。
「ねえ、奈津子」
「なに?」
「一つ頼んでもいいかな」
「何を?」
「今度は僕を抱きしめてくれないかな」
「いいわよ」
奈津子はそう言うと、私の方を向き、私の頭を胸に抱きました。
パジャマごしに奈津子の豊かなバストの感触を顔に感じます。
奈津子の体からは快い石鹸の香りがします。
「こうでいい?」
奈津子が私に聞きます。
「ああ」
私は奈津子の胸の中に顔を埋めながら、頭がボーっとするような幸福感を感じ、しばらくじっとしていました。
「奈津子」
「なに?」
「あのさ・、このまま自分でしてもいい?」
私がそう奈津子に聞くと、奈津子はちょっと黙っていましたが、「いいわよ」と返事をしました。
私はパジャマのズボンとブリーフを一緒に少し降ろし、枕もとのティッシュを手にとると、もう一度、奈津子の胸に顔を埋めながら、右手でペニスを握りゆっくりと動かし始めました。
奈津子はそんな私の頭を静かに撫ぜてくれます。
「何を考えながら、しているの?」
奈津子が私に聞きます。
「今朝、あの人とセックスしていたわたしの姿?」
「うん」
私は手を動かしながら答えます。
「興奮した?」
奈津子が私の頭の上で聞きます。
「うん、すごく」
私は奈津子の胸元に鼻を押し付けながら言います。
ネックレスが額に当たります。
「ああやっていつもあの人に抱かれているのよ、わたし」
私は黙って右手を動かし続けます。
「気持ちよくなってきた?」
奈津子が私に聞きます。
「うん」
私がそう言うと、奈津子がまた私の頭をやさしく撫ぜてくれます。
「みきさん、わたしのこと欲しい?」
「欲しい、とっても」
奈津子の腕の中で私は答えます。
「みきおさんに求められると嬉しいわ。
これからもずっと、そうやって私のことを思ってくれる?」
奈津子に頭を抱かれたまま、私はコクリとうなずきます。
「もっと欲しがって、みきおさん・・・あの人のものになったわたしを欲しがって」
「欲しい・、奈津子が欲しいよぉ」
私は手を動かしながら、奈津子の胸元に唇をつけ、呻くように言いいました。
「わたしが、どんなにあのひとのものになっても、愛してくれる?」
「うん」
私は右手の動きを早めます。
「わたしの体はいつもあの人を求めて疼いているのに?」
奈津子は私の頭を強く抱き締めながら、耳元で囁きます。
「今も欲しいの・・・?」
私が奈津子に聞きます。
「ええ、今もあの人が欲しくて濡れてるわ」
「ほんとに」
「ええ、ほんとよ。あの人のこと考えると、どうしようもなく欲しくなるわ。嬉しい?」
私はもう一度頷きます。
「可哀そうなみきおさん・・・みきおさんは、もう二度とわたしのこと、抱けないのよ」
もう一度、奈津子が私の耳元で囁きます。
私は、今朝見た奈津子の姿を思い出していました。
白く透き通るような肌をした脚が高く上げられ、その根もとでは田山のペニスが誇らしげに奈津子から出入りを繰り返していました。
あの中に、もう二度と入ることができない・・・
自分のペニスはもう二度と奈津子の中でその暖かさに包まれることはないのだと思うと、狂おしい嫉妬が興奮の嵐になって頭の中を駆け巡り、私は激しく射精してました。
奈津子に抱かれたまま肩で息をする私の髪を、奈津子はやさしく撫ぜ続けてくれました。